
ついに9月13日、東京に世界陸上がやってくる。約200の国と地域から2000人以上のアスリートが集い、国立競技場を舞台に、常識を覆すパフォーマンスを見せつける。なかでも絶対に見逃せないのが“7人の超人”だ。
オリンピック、世界陸上ともに2連覇中の棒高跳界の絶対王者、アーマンド・デュプランティス(25、スウェーデン)は、世界記録伝説の〝鳥人〟セルゲイ・ブブカの記録を次々と塗り替えてきた。東京での世界記録更新にも期待がかかる“新鳥人”のすごさを、長年世界陸上の実況を務めてきたTBS初田啓介アナウンサーが語った。
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驚異の試技数と世界記録更新のヒミツ
「6m28cm、すごいよね。ブブカの全盛期よりも14cmも高いんだから」
初田アナを唸らせた“新鳥人”デュプランティスは今年6月15日にスウェーデン・ストックホルムで開催されたダイヤモンドリーグ第7戦で、自身の持つ世界記録を1cm上回る6m28cmで優勝。さらにその2か月後、8月13日のハンガリーグランプリでは6m29をクリアし、13回目の世界記録更新という偉業を成し遂げた。コーチでもある父・グレッグさんはブブカと戦ったこともある元棒高跳の選手。デュプランティスは、4歳からポールを握るなどそんな父が自宅の裏庭に作った練習場で幼少期から競技に親しんできた。
棒高跳は、長さ5m前後のポールを使ったダイナミックな跳躍が魅力の競技だ。
専門家によると最高のパフォーマンスを発揮出来る跳躍回数は5~7回ほど。10回を超えると疲労が蓄積し、良い記録は出にくくなる。そのため、どの高さから跳び始め、いつパスするかという戦略が勝敗を分ける鍵となる。
5度の跳躍で掴んだ世界記録
世界新を狙うデュプランティスの戦略は驚くほど効率的だ。実際に6月の記録更新時も、4度目の跳躍で優勝、5度目で世界新を成し遂げた。徐々に体を慣らし、バーを上げるタイミングを見極める。この絶妙な戦略的跳躍こそが、常に最高のパフォーマンスを発揮し、世界記録を更新し続けられる理由なのかもしれない。
5.60m 1回で成功
5.70m パス
5.80m 1回で成功
5.90m 1回で成功
6.00m 1回で成功 (この時点で優勝)
6.28m 1回で成功 (世界新記録)
棒高跳の醍醐味は「駆け引き」にあり
「棒高跳の面白さは駆け引きにある」と初田アナは語る。TBSが初めて世界陸上を中継した1997年アテネ大会での、伝説の鳥人・ブブカ(当時33、ウクライナ)と当時若手だったマクシム・タラソフ(当時26、ロシア)との駆け引きは今でも忘れられないという。
キャリアの終盤だったブブカは怪我を抱え、6連覇は厳しいのではないかと言われていた。この年のブブカの自己ベストは5m61cmと全盛期からはほど遠い状態だった。決勝では、ライバルのタラソフが5m96cmをクリア。大喜びで後方宙返りを打つなど、まるで勝利を確信したかのように振る舞った。
その直後に登場したブブカ。「キーッ!」と叫んだ表情には王者の風格がよみがえっていた。そして6m01cmを1回でクリア。次の瞬間、テレビカメラはタラソフの呆然とした表情を捉えていた。
「勝てたと思ったら、一瞬でしたね。でもそういうものなんですよ。トップアスリートであろうと、人よりも前に出た時、『勝ったかも』と思ってしまう。野球だって7対7から1点勝ち越したら『勝ったかも』と思う。そう思った時にその裏に逆転されてしまうんです」
誰かが優勝を決めた時のライバルたちの表情にもぜひ注目してほしい。
観戦がもっと面白くなる!初田アナがオススメする棒高跳のポイント
デュプランティスの活躍から目が離せない棒高跳だが、初田アナは「ここを見るともっと面白い」と観戦のポイントを教えてくれた。
◆「ポールの使い分け」
トップ選手は競技に10本ほどのポールを持ち込む。ポールの長さや硬さはそれぞれ異なり、跳ぶ高さによって使い分けている。比較的低い高さを跳ぶ時と6mを超える高さを跳ぶ時では使うポールが違うのだ。このポールの選択も戦略の重要な要素となる。デュプランティスがスウェーデンカラーの黄色いポールをどのように使い分けるかぜひ注目してほしい。
◆「支柱の位置」
棒高跳は助走をつけ、ボックスと呼ばれる穴にポールをさし、その反発力を利用してバーを跳び越える競技。バーを支える2本の支柱は位置を調整でき、ボックスの先端から最大80cmまで動かすことが可能だ。選手は風向きや助走、そしてバーの高さを考慮して最適な位置を申告する。かつては補助員が手動で調整していた時代もあったが、今は自動で調整される。選手がどの位置に支柱を置くかにも注目するとより競技の奥深さが感じられそうだ。
東京で歴史は塗り替えられるか
デュプランティスは野球が好きで、特にメジャーリーグ・ドジャースの大谷翔平(31)の大ファンだという。大谷が海を渡る3年も前に、名前入りの侍ジャパンのユニフォームを買っていたことも明かしている。
デュプランティス:
翔平は世界で最も優れた野球選手だと思うし、僕は野球が大好きなんだ。素晴らしい選手なのでアスリートとして大谷にすごく感化されているし、彼は本当にすごいよ。
デュプランティスは「世界陸上東京大会で優勝したい。日本の観客の前でまた良い記録を出したい」と東京大会への熱い思いを口にする。もしかするとデュプランティスの3連覇と6m30の世界記録更新が、9月、東京で見られるかもしれない。
■アーマンド・デュプランティス(25、スウェーデン)
※世界記録保持者(6m29)、ワイルドカード
1999年11月10日生まれ、元棒高跳の選手だった父が作った自宅裏庭の練習場で競技を開始。2015年のU18世界陸上、2018年のU20世界陸上で金メダル。世界陸上は2019年ドーハで銀メダル。その後、2022年オレゴン、2023年ブダペストで連覇。五輪は2021年東京、2024年パリで金メダルを獲得。2024年には大谷翔平やテニスのN.ジョコビッチ、サッカーのレアル・マドリード所属のV.ジュニオールなど錚々たる面々を抑えて、国際スポーツプレス協会(AIPS)が選出するスポーツ界の年間最優秀選手に輝いた。
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