
東京2025世界陸上が9月21日に閉幕した。日本勢はメダル2個を獲得、メダルを含めた入賞は11種目と過去最多タイの好成績を収めた。女子競歩初のメダル獲得や男女混合4×400mリレーの初入賞など、歴史的な結果も残すことができた。日本新記録4個も、過去最多の5個には及ばなかったが収穫と言える。だがメダルを期待された選手の敗戦が続き、日本チームとして過去最高の成績にはならなかった。しかし東京2025世界陸上には、表面的な成績以上の価値があった。日本勢の戦いの“内容”を検証する。
【一覧】国立が熱狂した『東京2025世界陸上』日程&日本出場選手&結果
女子競歩初のメダル獲得と男子400m34年ぶりの入賞
東京2025世界陸上の日本勢は、以下の11種目が入賞した。
【入賞選手】
▼銅メダル
勝木隼人(男子35km競歩)
藤井菜々子(女子35km競歩)
▼5位
村竹ラシッド(男子110mハードル)
▼6位
中島佑気ジョセフ(男子400m)
日本=小池祐貴・栁田大輝・桐生祥秀・鵜澤飛羽(男子4×100mリレー)
廣中璃梨佳(女子10000m)
▼7位
吉川絢斗(男子20km競歩)
小林香菜(女子マラソン)
▼8位
三浦龍司(男子3000m障害)
赤松諒一(男子走高跳)
日本=吉津拓歩・井戸アビゲイル風果・今泉堅貴・松本奈菜子(男女混合4×400mリレー)
【日本新記録】
▼男子400m 中島佑気ジョセフ(44秒44)
▼女子3000mSC 齋藤みう(9分24秒72)
▼女子20km競歩 藤井菜々子(1時間26分18秒)
▼男女混合4×400mリレー 日本(3分12秒08)
メダルは男子35km競歩と女子20km競歩の2種目だが、特に藤井菜々子(26、エディオン)は女子競歩初のメダル獲得という快挙だった。日本競歩界初の入賞が、91年東京世界陸上の今村文男の50km競歩7位だった。同じ東京で達成したところに巡り合わせの妙が感じられた。
男子400mでも中島佑気ジョセフ(23、富士通)が6位に入賞。91年東京世界陸上での高野進の7位以来、34年ぶりの入賞を同じ東京でやってのけた。女子10000mの廣中璃梨佳(24、JP日本郵政グループ)と男子3000m障害の三浦龍司(23、SUBARU)はともに、4年前の東京五輪で入賞した。廣中は23年ブダペスト世界陸上で、三浦はブダペストと昨年のパリ五輪でも入賞している。男子走高跳の赤松諒一(30、SEIBU PRINCE)と4×100mリレーの日本はブダペスト、パリに続き3年連続入賞、男子110mハードルの村竹ラシッド(23、JAL)と4×400mリレーの日本も、パリに続き2年連続入賞した。山崎一彦監督は日本陸連強化委員長として、「複数年にわたって世界で活躍する選手を育成する」ことを目標の1つに掲げてきたが、その成果が現れていた。
メダルが2個にとどまり、国別得点も4年間で最低に
その一方でメダルは男子35km競歩の勝木隼人(34、自衛隊体育学校)と藤井の、競歩種目の銅メダル2個にとどまった。谷井孝行(現日本陸連競歩シニアディレクター)が初メダルを獲得した15年北京大会から、競歩が6大会連続メダルを継続したことは評価できる。だが男子20km競歩の山西利和(29、愛知製鋼)は28位、50km競歩の川野将虎(26、旭化成)は18位、女子やり投の北口榛花(27、JAL)は予選全体で14位と、金メダル候補だった3選手が振るわなかった。
村竹と三浦は入賞したものの、目標としていたメダルには届かなかった。村竹は12秒92の今季世界2位記録を、三浦は8分03秒43の今季世界3位記録を出していたが、接戦を勝ち抜けなかった。三浦は他選手と接触する不運もあった。山崎監督は自身が指導する村竹について「結果の通り」と厳しめの見方をした。「想定されていたメダルから6位までの中に入りました」。
男子では100mのサニブラウン アブデルハキーム(26、東レ)、200mの鵜澤飛羽(22、JAL)、110mハードルの泉谷駿介(25、住友電工)、走幅跳の橋岡優輝(26、富士通)、やり投の﨑山雄太(29、愛媛競技力本部)とディーン元気(33、ミズノ)、女子では5000mの田中希実(26、New Balance)、やり投の上田百寧(26、ゼンリン)らも入賞が期待されていた。鵜澤と田中、上田は力を発揮したが及ばなかった。サニブラウンと橋岡は、今季の悪い流れを修正しきれなかった。﨑山とディーンは痛みの影響が出てしまった。
男子の100mと400mハードル、男女の中距離4種目は、1人も予選を突破できなかった。自己記録を出せば通過できるレベルだったが、勝負優先の世界陸上では簡単にいかなかった。山崎監督は「記録をクリアしないとこの場に立てないのですが、条件の良い大会で記録を出すだけでは戦えません。記録を出すだけでなく、世界の中で勝負をする経験をする必要がある」と強調した。
プレーシングテーブルという、各国入賞者の成績を一覧表にしたデータを世界陸連が毎回出している。1位8点、2位7点…8位1点と順位を得点化し、その合計点を国毎に計算する。日本の東京五輪以降の得点と順位は以下の通りだ。
21年東京五輪 28点18位
22年オレゴン世界陸上 40点11位
23年ブダペスト世界陸上 36.5点11位
24年パリ五輪 34点16位
25年東京世界陸上 32点16位
入賞数は最多タイでも、メダルが少なかったことが影響して、得点は至近4年間では一番低くなった。
東京世界陸上に向かう過程で世界記録や国際大会の好成績
地元の利がある世界陸上で、過去最高成績を残したかったというのが本音だろう。だが地元の利で大幅にパフォーマンスがアップするわけではなく、それよりも日頃の取り組みが重要になる。そしてその取り組みの成果は、東京世界陸上までのプロセスに表れていた。
山西は過去2大会で金メダルを取り、厚底シューズへ対応する過程でフォームを崩したが、立て直して今年2月には世界記録をマークした。川野もパリ五輪後の昨年10月に世界記録(当時)を出した。2人ともその後の海外遠征でも好成績を残した。村竹と三浦は今季世界2位と3位の記録だけなく、ダイヤモンドリーグで上位に食い込んでいた。最終目標とする試合の結果で評価をすべきではあるが、過程に良い兆候が表れることも重要だ。
「海外の選手たちもメダルを取ったり、取れなかったりしています。メダルを本気で目指せる選手を増やすこと、複数年にわたって世界のトップにいることが重要になります」(山崎監督)
北口はオレゴンの銅メダルからブダペスト、パリ五輪と金メダル。今大会は故障明けで本来の力を発揮できなかったが、日本陸上界の顔としての役割も果たしてきた。
「彼女が私たちに影響を与えましたし、彼女がいなかったら東京世界陸上に、こんなに人が集まらなかった。ねぎらいの気持ちを伝えたいと思いますし、少しゆっくりして、また次に備えてもらいたい」
入場者数は9日間で60万人を突破。国立競技場は連日満席となり、大声援の中で選手たちは走り、跳び、投げた。ほとんどの選手が声援が力になった、感激したとコメントしていた。
「選手たちが、私たちが考えているより成長していたんだと思います。私たちの世代だと期待されると厳しいとか、ちょっと黙っていてよ、みたいな感じでした。今の選手はこの歓声の中で楽しそうに結果を出す、物怖じしないで楽しく元気に競技をする。仮に結果を出せなくても、悔しさをストレートに表現する。そうやって世界と勝負をしてくれたと思います。大舞台で弱い日本人というところから脱して、新しい日本陸上界の歴史がスタートしたと思いました」
村竹のインタビューが、今大会を象徴していたのかもしれない。8月に12秒92という想定以上のタイムを出し、ダイヤモンドリーグでメダル候補選手たちと互角の対戦成績を残したが、メダルに届かなかった。
「何が足りなかったんだろうなって。何が今まで間違っていたんだろうな、って。パリ五輪からの1年間、本気でメダルを取りに、1年間必死に練習して、何が足りなかったんだろうなって」
5位に入賞した選手がこれだけ悔しがる。メダルという結果が出なくても、東京世界陸上に向かってきた過程は必ず、今後の大舞台で実を結ぶ。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
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