
女子駅伝日本一を決めるクイーンズ駅伝(11月23日・宮城県開催)の予選会であるプリンセス駅伝 in 宗像・福津が10月19日、福岡県宗像市を発着点とする6区間42.195kmのコースに31チームが参加して行われる。上位16チームにクイーンズ駅伝出場権が与えられる。
第1区 宗像ユリックス・・・・・・宗像大社 7.0km
第2区 宗像大社・・・・・・・・・勝浦浜 3.6km
第3区 勝浦浜・・・・・・・・・・宮地浜 10.7km
第4区 宮地浜・・・・・・・・・・福津市複合文化センター 3.8km
第5区 福津市複合文化センター・・宗像大社 10.4km
第6区 宗像大社・・・・・ ・・・ 宗像ユリックス 6.695km
前日(18日)の監督会議で区間エントリーが確定した。9月の東京2025世界陸上マラソン7位の小林香菜(24、大塚製薬)や、マラソン日本記録保持者の前田穂南(29、天満屋)ら注目選手の出場区間や、三井住友海上、ユニクロなど優勝候補チームが想定するレース展開を紹介する。
小林は負担の少ない5区だが、チームの予選会通過を左右する可能性も
東京世界陸上を沸かせた小林は、前回区間2位で走った3区ではなく、5区に出場する。世界陸上のダメージが出ていたことで、「3区のガチャガチャした(争いが激しくなる)ところは負担が大きい」と河野監督が判断した。
世界陸上後は「左の足底が気になる状態」(同監督)だった。「それをかばって左ひざが気になり始め、そこから左の太腿の筋肉痛が出てしまった」。駅伝に合わせるのではなく、現状に合わせた練習を組み、小林の状態が上がってくるのを待った。最終的に5区と決めたのは、「最後のポイント練習をスーッと走ることができた」と確認してからだった。
5区は3区ほど、激しい競り合いとなるシーンは少ない。3区だった前回は、最初の1kmを3分05秒のスピードで入った。前にいる選手を追ってオーバーペース気味で走ったが、そのときのようにスピードが出せる状態ではない。無理のかからない範囲で、一定スピードを維持する走り方に徹するだろう。前回の3区は自身も驚く走りだったが、一定ペースで押して行く走りは小林の得意とするところだ。
チームも故障者などが多く、万全の状態ではない。「1区はある程度戦えますし、3区も堅実に走ってくれると思う。2、4区が不安ですが、5、6区も戦える。4区が終わって16位以内なら安心できますが、20位だったら焦りますね」
5区は起伏が多いコース。以前は上りを苦手としていた小林だが、東京世界陸上対策で上りも強化できた。無理はして欲しくないが、16位より下の順位でタスキを受けたときは、5区の小林の走りがチームのクイーンズ駅伝行きを左右する。
女子マラソン日本記録保持者の前田は3区。前田もベルリン・マラソン(2時間24分36秒で9位)を走って1か月で、万全の状態ではない。ベルリンは平坦で有名なコースで、山口衛里監督は「起伏の少ない3区」を前田に託した。天満屋としては前田で優勝争いに加わりたい。
エース区間の3区には前田の他、日本選手権10000m3位の兼友良夏(24、三井住友海上)、同6位の川口桃佳(27、ユニクロ)、日本選手権5000m6位の伊澤菜々花(34、スターツ)と今季のトラックトップ選手が集まった。他にも上杉真穂(30、東京メトロ)、南雲栞理(30、肥後銀行)、大森菜月(31、ダイハツ)、筒井咲帆(29、ユニバーサルエンターテインメント)、竹山楓菜(30、センコー)、吉川侑美(34、キャノン)、逸木和香菜(31、クラフティア)ら、マラソンや駅伝で活躍した選手たちが名を連ねている。
3、4区でトップ争い。勝負は5区か?
優勝候補筆頭には、豪華メンバーの三井住友海上が挙げられている。1区・永長里緒(23)、2区・西山未奈美(25)、3区・兼友、4区・カマウ・タビタジェリ(25)、5区・樺沢和佳奈(26)、6区・松田杏奈(31)の布陣。
永長は昨年の日本インカレ5000m、10000mとも3位と、学生トップレベルだった選手。西山は3000m障害で今年の日本選手権と全日本実業団陸上に優勝した。3区が日本選手権3位の兼友、5区にパリオリンピック™5000m代表だった樺沢と、今大会一番の豪華メンバーだ。
鈴木尚人監督はレース展開を次のように展望した。「永長が良い流れを作ってくれたら、2区の西山でトップに立つかもしれませんが、3区が他チームも強力なので、3区で抜かれても我慢したい。4区のタビタジェリと5区の樺沢で抜け出したい」
三井住友海上に対抗できるのは前回優勝のユニクロか。カギを握るのは1区の後藤夢(25)と2区の奥本菜瑠海(19)だろう。後藤は1500mで23年ブダペスト世界陸上、昨年のパリ五輪と代表だったスピードランナー。昨年は3.6kmの2区で区間賞、トラックの5000mでも15分37秒44のタイムを持つが、7kmの距離は実績がない。奥本は2年前の全国高校駅伝でエース区間の1区で区間賞を取った選手。実業団1年目の昨年(当時の所属チームは日立)はプリンセス駅伝2区区間6位、クイーンズ駅伝も2区で区間18位。今年度の目標に「完全復帰」(自社ホームページ)を掲げる。
1、2区でトップから大きく後れなければ3区の川口、4区のオマレ・ドルフィンニャボケ(24)でトップに立つ展開に持ち込める。このあたりは三井住友海上と似た戦力といえるが、違いは5区だ。ユニクロは現役復帰した市田美咲(34)が、6区は移籍加入した柳谷日菜(25)が担う。市田はエディオンで活躍した選手で、マラソンに2時間25分51秒の記録を、柳谷は10000mで31分台(31分56秒32)のスピードを持つ。5区の市田が、五輪代表だった樺沢に対してどんな走りができるか。ベテランの走りが勝負の行方を左右するかもしれない。
ダークホースのシスメックスを率いる永田監督とは?
1区には永長、後藤以外にもエース級が多数出場する。天満屋は昨年のクイーンズ駅伝1区区間2位の𠮷薗栞(26)、ダイハツは5000mでも絶好調の西出優月(25)、京セラは昨年の大学駅伝エース区間で連続区間3位の尾方唯莉(23)、センコーはトラックのスピードがある下田平渚(27)、シスメックスは5000m15分29秒12の石井寿美(30)ら。天満屋とダイハツはクイーンズ駅伝上位常連で、代表選手を何人も輩出してきた名門チーム。今回はチーム状況が万全ではないが、1区で好位置に付ければ優勝争いを展開できる。
注目したいのは、関係者の間で評価が上昇しているシスメックスだ。エースの尾崎光(21)は昨年のプリンセス駅伝5区で区間2位、チームの4位通過に貢献した。今季は1500m、3000m、5000m、10000mの4種目で自己記録を更新し、全日本実業団ハーフマラソンでは1時間10分49秒で6位と健闘した。
昨年のインターハイ1500m3位(日本人1位)、3000m7位(日本人3位)の穗岐山芽衣(19)と、立命館大で昨年の全日本大学女子駅伝5区区間2位、富士山女子駅伝では7区区間賞の中地こころ(23)が加入。1区・石井、2区・穗岐山、3区・尾崎、5区・中地と強力なメンバーで臨む。
高知山田高で尾崎と穗岐山を育てた永田克久氏が今春監督に就任。高校では「努力、根性、義理、人情」の指導方針だったが、実業団では「個に応じて最適の指導」を心がけている。目標は4位以内。「前回の成績以上、トーナメントで言えばベスト4」という設定の仕方をした。「1区で20秒以内の差で渡すことができれば、2区で3位以内、あわよくばトップに立てます。3区で先頭争いができれば、4、5、6区は安定した走りができる」。
高知山田高では監督在任29年間すべてで、全国高校駅伝に出場。長距離が強いとは言えない地域で奮闘した。全国トップレベルの選手も育て、レベルの低い選手も底上げをして駅伝で勝ち続けてきた。シスメックスは04年アテネ五輪マラソン金メダリストの野口みずきが、05年から所属したチーム。07年の東京国際女子マラソンに優勝し、北京五輪代表を決めたのはシスメックス在籍時だった。
永田監督は目標に「駅伝では日本一。個人では野口さんに続く、オリンピックや世界陸上で活躍する選手を育てること」を掲げる。同じように高校指導者から実業団指導者に転身した小出義雄氏(故人)が、チームをクイーンズ駅伝優勝に導き、そのチームから五輪メダリストを輩出した。簡単なことではないが、その第一歩をプリンセス駅伝で踏み出す。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
*写真は左から三井住友海上・樺沢和佳奈選手、ユニクロ・後藤夢選手
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