
東京2025世界陸上から約半年。男子400mで日本歴代最高となる6位入賞を果たした中島佑気ジョセフ(24、富士通)が、2月下旬からオーストラリア・ゴールドコーストで約1か月の合宿を行った。
南半球はちょうど夏真っ盛り。30度を超える気温と強い日差しの中、普段から練習をともにする東洋大学の学生たちとひたすら走り込み、時には嘔吐するほどハードなメニューもこなした。
「めちゃくちゃ贅沢な環境ですね。それでいて日本と時差がないというのもいいですし。今年は、去年と違ってかなりいい状態で練習ができているので、なんか楽しいですね。ワクワクします」
東京世界陸上で日本の主役に
去年9月、国立競技場が世界の中心となった。総入場者数は日本の陸上競技大会で過去最多の 619,288人。国立競技場が連日のように満席となり、熱狂の9日間は社会現象にまでなった。その盛り上がりの中心にいたのが中島だ。
大会2日目の400m予選、最終コーナーを5番手辺りで回ると、見せ場は最後の100m。減速していく選手が多い中、一人だけ別次元のスピードで追い上げ、日本新記録(44秒44)で準決勝進出を決めた。翌日の準決勝でも300m付近まで最下位を走っていたが、驚異のラストスパートで日本勢34年ぶりの決勝進出。
大舞台で飛躍を遂げたニュースターは、テレビ出演や雑誌のグラビアを飾るなど、飛ぶ鳥を落とす勢いを見せている。
「色んなところで”世界陸上を見に行ってたよ”って言ってくれる方が多くて、陸上がメジャースポーツになったのかと思うほどの反響だった。他競技の選手やタレントの方などとお話する機会も増え、良い刺激になりました」
誰が見ても飛躍の1年だが、中島は苦しいシーズンだったと受け止めている。去年のシーズン開幕直前、アメリカのメダリストたちとトレーニングする貴重な合宿中に肺炎を患い、志半ばで帰国。穴埋めをするため練習に励むも、4月末には右太もも裏を肉離れ。7月の日本選手権(東京世界陸上の代表選考大会)ではぶっつけ本番ながら、選考に首の皮一枚つながる5位。
「去年はケガが相次いだので、やりたいトレーニングが全くできませんでした。今年はケガもなく順調に来ていて、去年やりたかった足首を固める動きやジャンプ系の練習も積極的にやれています」
世界でメダルをとるカギは「後半型スタイルからの脱却」
密着1日目、練習場所に歩いて姿を現した中島。見慣れないNEWヘアスタイルは「髪を切っていないだけ」と笑う。この日の練習は、橋の上り坂を使ったダッシュ。90m×2本を5セット行うハードなメニュー。橋の上に倒れこむ選手もいる中、中島は1本走り終えるごとに片膝をつくようにしてしゃがみ込み、息を切らす。
「走り終わった後は、あまりエネルギーを使っていなくてもいつもあんな感じです。けっこう疲労もある中で、今日はまあまあタフなメニューでした。この合宿は2日練習をやって1日休むスケジュールなので、休みが多い分1日1日のボリュームと強度は高いです。新しい感覚を身につけつつ、暖かい気候の中でスプリントできています。練習を一緒にしている学生たちも仕上がっていて、そのパワーをもらいながら練習できているので、本当に充実しています」
中島が求める新しい感覚こそ、世界でメダルをとるために必要なカギ。今年は6年ぶりに世界陸上やオリンピックが行われないシーズン。だからこそ、中島は新しいチャレンジにトライしようとしている。
「今年一番のテーマは”自在なレーススタイルを試す”というところ。去年成功した後半型のスタイルから一度脱却して、前半型のスタイルも試していきたいと思っています。いろんなレースパターンを経験して、どんな状況でも強く、一貫性のあるパフォーマンスができるように、自分に合うレーススタイルを確立できればいい。レースプランの引き出しが増えれば、その分強さも身につくと思いますし、合宿を通して着実に力がついていると実感しています」と話す。
得意なスタイルを捨ててまでつかみたいもの、それは『世界でのメダル』。東京世界陸上で見えた選手たちの背中を、中島は忘れず胸に刻んでいる。
「あの後半を続けているようでは、絶対メダルに届かない。東京世界陸上で決勝に残ったメンバーの中で僕は一番スピードがないと自覚していて、身体の使い方からしてもまだ大きな力を発揮するスプリンターのような動きからはほど遠い。そういった意味でも、まだポテンシャルはあると思っています。スプリント能力はすぐに身に付くものでもないので、徐々に身に着けていければ」
密着2日目、この日は夕方からトラックで練習。ウォーミングアップでは、スキップに似たような基本動作を繰り返し行った。去年、中島がケガの影響で取り組めなかった「足首を固める動き」だ。走っている動作の中で足がトラックに接地したときに、足首が傾くことなく地面を垂直にとらえられるように足首を固める。垂直にとらえることができれば、トラックから返ってくる反発の力を逃さず走りのエネルギーに変え、一歩あたりの歩幅(ストライド)を伸ばすことができる。これが、中島が目指すスプリンターの動きだ。
その後、芝の上で100mを8本、トラックで250mを3本走り抜いた。1本走るごとに、撮影した動画で動きを確認。練習の1本1本がメダルにつながる道となる。
「今年はどこかコンディションがハマったところで43秒台を出したいと思っていますが、まずはレーススタイルを模索して、そうすると自分にあったペース配分、戦略ってところがある程度見えてくると思うので、そこから成功パターンを磨いていきたい。将来的には43秒5以上ってところを目標にできればと思っています。全然射程圏内にあると思うので、楽しみですね」
合宿中のオフにも密着
ハードなトレーニングを続ける中、中島には疲労のたまった体を癒すスポットがある。向かった先は地元で人気のカフェ。
「ここのアサイーボウルはマジで世界で一番美味しいと思います。最高のリカバリーです」アサイーボウルを一口食べると、思わず白い歯がこぼれた。アサイーボウルを前菜に、メインのハンバーガーもぺろりと食べ、たんぱく質を補給。練習に食事に、最高の環境で身体を研ぎ澄ませている。
宿泊するホテルは、学生たち5〜6人と同じ部屋。ゴールドコーストは長期滞在者向けのホテルが多く、一部屋にベッドルーム・シャワールームが複数あり、キッチンも付いているため、ほぼ毎日自炊をする生活。
中島は仲間たちとの時間を楽しみつつ、一人の時間も大切にしている。
「ホテルから海が見えるので、ベランダでリラックスすることが多いです。海の音が好きなので、本を読んでリラックスしたり。練習ももちろんそうですけど、練習以外の時間も充実した生活を送れています」
レース前日にも本を読んでマインドセットをする中島、この合宿には10冊ほどの本を持ってきたという。
今年は”世界の”ジョセフに「アジア大会はぶっち切りで勝つ」
今年は、アジア最大のスポーツの祭典“アジア大会”が愛知・名古屋で開催される。日本での開催は1994年広島大会以来、実に32年ぶり。中島はアジア大会をシーズン最後の大会として見据えている。
「アジア大会は今年の総決算みたいなところがあるので、それまでに色々レースプランを試して、アジア大会でどのレースプランを取るに至ったのかっていうところを含めて、見ていただけたら嬉しいです。やっぱり来年、再来年に世界でメダルをとるってところを考えると、ぶっち切りで勝たないといけないと思っているので、どれだけ離して優勝できるかっていうところを楽しみにしていてほしいです」
充実のオーストラリア合宿を終え、いよいよ今季初戦を迎える中島。挑戦のシーズンは、現地18日のマウント・サック・リレー(アメリカ・カリフォルニア州)で始まる。
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