
9月19日に開幕する「アジア大会愛知・名古屋」(9月19日~10月4日)で、“注目選手の1人”として名が挙がる陸上女子やり投げの日本記録保持者、北口榛花(28、JAL)。23年世界陸上ブダペスト、24年パリ五輪で金メダルを獲得するなど世界陸上、オリンピックともにトラック種目とフィールド種目で日本勢女子史上初の快挙という金字塔を打ち立てた。32年ぶりの自国開催となる今大会が初のアジア大会代表となった北口に、TBSスペシャルアスリートアンバサダーで卓球元日本代表の石川佳純さんが、直前に迫った大舞台への心境など時間の許す限り“世界女王”の核心に迫った。
石川さん:北口選手、こんにちは。
北口:こんにちは。
石川さん:多分半年ぶりくらいですかね。お元気ですか?
北口:はい、元気です(笑)
“画面越し”で半年ぶりに再会した2人。取材当時北口が合宿中だというチェコは石川さんも思い入れがある地だと話す。
石川さん:私もチェコに試合で何度か行ったことがあるんですけど、すごくいい街ですよね。
北口:はい(笑)チェコ、卓球の大会ありますよね。プラハオープン(チェコオープン)みたいな。
石川さん:そうなんですよ。もう6回、7回くらい行きました。
北口さん:あ、ほんとですか(笑)テレビでやってるとこ見たこともあります!
男女ともにやり投げ世界記録保持者を輩出するチェコは“やり投げ大国”として有名。2019年に北口がチェコに拠点を移してから7年になる。その間、数々の栄光をつかんできた北口。2023年世界陸上ブダペスト決勝で、5投目時点で63m00の4位だった北口は、最終投てきで66m73のビックスローを決め、大逆転。陸上競技で、マラソンを除く女子種目史上初の金メダル獲得となった。その翌月(23年9月)に行われた陸上世界最高峰シリーズのダイヤモンドリーグ(DL)ファイナル(ベルギー・ブリュッセル)で67m38を出し、自身が持つ日本記録を更新した。
2024年パリ五輪では、決勝の1投目で65m80を投げ、その後北口の記録を超す選手は現れず悲願の金メダルを獲得。2004年アテネ五輪の野口みずきさん(女子マラソン)、室伏広治さん(ハンマー投)以来20年ぶりで史上8人目、女子陸上界では高橋尚子さん、野口さんに続き史上3人目の金メダリストとなった
“レジェンド”ヤン・ゼレズニーコーチと新たな挑戦へ
さらなる高みを目指して、今季からやり投げ界のレジェンドで30年経った今も破られていない、98m48の世界記録を持つヤン・ゼレズニー氏(60)をコーチに迎え新たな一歩を踏み出した。
北口:今までより、“よりシンプル”に槍を投げようっていうのが今の取り組みで。ベースは『走って』、最後に『ジャンプ』して、『投げる』っていうただの3つの動作をしっかり遂行することをベースにやってるんですけど、今までずっと自分の投げてきた癖だったりそういうものがあるので、多分最初からこれを習ってたらすごく簡単だったのかもしれないようなことも、難しさを感じる時は多いです。
石川さん:新しくフォームを大きく変えたっていうのを伺ったんですけれど、どのように改めて変えたんですか?
北口:一番わかりやすいのは、(助走の時に)1回槍を下に下ろして体勢を変えていたところが、今季からはその槍を1回下ろすっていう動作をなくして、まっすぐ引くようになりました。
石川さん:なんか腕を下げた方が勢いがつくのかなとか素人目に思っちゃったりしたんですけど、新しいフォームの方がさらにやっぱり効率が良くなるってことですか?
北口:実はその1回槍を下ろすっていう投げ方、技術が、ヤンコーチが現役の時にやっていた技術で。それを見よう見まねで真似していたのが私だったんですけど。実際会って、自分がやって、ヤンコーチもやって見せてくれて、私がやってるのは全然違うっていうのを言われたし、それを見て自分も納得するぐらい違った。そこでロスしてた部分も自分にとっては大きかったんですよね。槍を1回下げるってことは槍が1回視界からどうしても消えることになっていて、基本走って進み続けてないといけないものが、それを目で追っちゃうことで投げる方向から視界が外れるので。そこが走る部分に対してもロスですし、その投げる位置からずれるので、そっからまた視線を合わせなきゃいけなかったりするのもロスかなと思って。元々は自分もまっすぐ引いてたので、7年ぶりぐらいに戻してる感じです。
オリンピック3連覇(92年バルセロナ、96年アトランタ、00年シドニー)や、世界陸上で3つの金メダルを獲得している“レジェンド”ヤンコーチとの関係性も良好だと話す。
石川さん:ヤンコーチは北口選手から見てどんな人ですか?
北口:実際にコーチをお願いするまでは結構静かでちょっと厳格な人、レジェンドで、いつもしっかりしてそうな感じだったんですけど。実際今一緒に練習してるとすごく面白くて、
たまにジョークと本気の境目がわからなくなっちゃう時もあるんですけど(笑)すごくユーモアがあって面白い人です。
石川さん:例えばどんなことですか?
北口:突然今まで練習でも言われたことないのに、(試合中に)『体重何キロか減ったぐらいの感じで走ってくれ』みたいな指示が出たり。
石川さん:いきなり本番で言われるんですね!それを。
北口:いきなり本番でそれ使うんだみたいな。
“70mを投げる”、そしてライバルの存在が原動力に
世界女王となった今も、新たな挑戦を続ける北口に石川さんはこんな質問を投げかけた。
石川さん:世界選手権で金メダル、そしてパリオリンピックで金メダルを獲得されて、また新しいステップに行く時に新しいフォームにチャレンジするっていう一番の原動力は何ですか?
北口:やっぱり70m投げたいが一番の原動力だと思いました。
70m。北口の長年の夢であり、かつてはアジア勢の前に大きく立ちはだかる壁だった。その壁を超えたのが中国の18歳、厳子怡(ゲン・ジイ)だ。今年5月に行われたDL厦門大会で、世界歴代2位となる71m74をマーク、アジア新記録を樹立した。
石川さん:アジア大会で大きなライバルになる厳子怡選手、18歳。どんな印象をお持ちですか?
北口:今季になって71m投げて世界歴代2位を投げてる選手で。18歳なんですけど、すごく体も大きくて、やりを投げるのもすごく上手で、自分より若い選手ですけど、見習わなければいけないところはあるなという風に思っています。
石川さん:18歳で若手の勢いがある選手だと思うんですけれど、どういう風にアジア大会でプレーされたいですか?
北口:今までオリンピックチャンピオン、世界選手権チャンピオンとして、次狙うものは歴史に残ったアジア記録だったり、世界記録だなという風に思っていたところで、今回厳子怡選手が71m実際にリアルで投げてて。リアルに追いかけるものが突然生まれた感じになって、すごく自分の気持ち的には楽になったかなという風に思っています。見えないものを追うよりやっぱり彼女に追いつけるように努力したいという気持ちがすごく芽生えましたし、アジア大会でしっかり勝負、彼女と面白い試合をできるようにしたいなという風に思ってます。
今まで、世界女王として“孤独の戦い”をしていた北口を“救った”のが18歳のライバルの存在だという。日本時間6日に行われたDLファイナル(ベルギー・ブリュッセル)では65m44の今季ベストをマークし、2位となった北口。この時、優勝したのは68m42を投げた厳子怡だった。
北口:毎試合、毎試合すごく自分がどれだけ勝負できるかっていうのを楽しみに臨めるようにしてくれた存在ではあるので、すごく感謝してますし、ちゃんと戦いたいなという風に思ってます。
国際大会でも顔を合わせることが多い2人。アジア大会でも最大のライバルになるであろう厳子怡とコミュニケーションを取りたい北口は、石川さんに“ある”お願いがあった。
北口:厳子怡選手が中国語しか話せないんですよ。いい中国語を・・・(笑)
石川さん:あ〜、良いですね!
即興“オンライン中国語講座”開講
中国語が得意な石川さん。2023年、自身の現役引退会見では流暢な中国語で会場を驚かせた。
北口:なんか話したいのに、『コングラチュレーション』しか言えなくて、さすがにおめでとうってきっと分かってると思うんですけど、本当はもうちょっと・・。
石川さん:伝わってるのかなって不安になりますもんね。これはちょっと重大な役目ですね(笑)『元気?』からいきましょうか。
北口:そうですね、『元気?』から
石川さん:じゃあ、いきますよ。ニーハオマ(你好吗)?
北口:あ、ニーハオマ?
石川さん:そうそうそう!めっちゃ良い!めっちゃ良い!
北口:『おめでとう』とかが言いたいです。『おめでとう』とか『グッジョブ』みたいな。
石川さん:あ、『おめでとう』はゴンシー(恭喜)。
北口:コンシー?
石川さん:ゴンシー。
北口:『ン』ですか?コンシー?
石川さん:あ、『ゴ』、『ゴ』。ゴンシー。
北口:ゴ、ゴンシー?ゴンシー?
石川さん:ゴンシー。
北口:ゴンシー。
石川さん:これで、完璧だと思います!
北口:ありがとうございます。すみません、オンライン中国語講座みたいになっちゃって(笑)
昨年、超満員の国立競技場で行われた東京世界陸上(25年9月)では右ひじのケガの影響で予選敗退に終わった北口。そこから6月の日本選手権で優勝、8月のDLローザンヌ大会でDLで1年2か月ぶりの優勝を果たし、着実に復活の階段を上っている。32年ぶりの自国開催となるアジア大会では、“覚えた言葉を活かす場”であり、自身の復活を日本のファンの前で見せる舞台となる。
石川さん:アジア大会はどんなイメージですか?
北口:実はアジア大会初めてなんですけど、アジア版オリンピックだと思っているので雰囲気もまた陸上だけの試合と違うんじゃないかなと思いますし、今回日本開催ということで、多くの日本のファンの方々が競技場に見に来てくださると嬉しいです。
石川さん:やっぱりホームで戦う試合は違いますか?
北口:去年の世界陸上はちょっと怪我をした状態で出て、悔しい結果で終わってしまったので、今回ホームの国際大会で思い切り投げられる姿、投げてる姿を皆さんにお見せしたいです。
石川さん:最後にアジア大会の目標を聞かせてください。
北口:やっぱり金メダルを取ることの素晴らしさは自分が一番分かってるというふうに思っているので、金メダルを目指して、名古屋で思い切り投げたいなというふうに思います。
石川さん:楽しみにしています。応援しています。
北口:ありがとうございます。
【アジア大会・陸上競技日程】
9月23日(水・祝)~29日(火)
やり投げ:9月27日(日)
会場:名古屋市瑞穂公園陸上競技場(パロマ瑞穂スタジアム)
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