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【大相撲】千秋楽の結びで決着、復活V・大の里「この景色だけを見たくて」 6場所ぶり賜杯に涙 9月場所

スポーツ
2026-10-14 12:00

大相撲の横綱大の里(26)が9月の秋場所(東京・国技館)で昨年秋場所以来、6場所ぶり6度目の賜杯を抱いた。終盤12日目まで2差をつけて圧倒的にリードしながら、13、14日目と連敗。千秋楽に3敗で並んでいた大関安青錦(22)との相星決戦に勝ち、苦しみながらもけがからの復活優勝を飾った。表彰式では自然と涙がこぼれた。優勝から離れた1年間の苦境を物語るその姿には、豊昇龍(27)の休場で一人横綱として臨んだ両肩にかかった重責と角界事情が如実に現れていた。


まさに「強さ」と「もろさ」が同居した15日間だった。初日は小結大栄翔(32)の挑戦を退けたが、踏み込みが弱く、攻め込まれて悪癖の引き技で呼び込んだ。土俵際で辛くもはたき込んだが、自らの体は土俵下までジャンプ。場所前の横綱審議委員会の稽古総見で八角理事長(元横綱北勝海)が「今場所も苦労しそうだ」と予想したのが当てはまる出だしだった。


2日目の琴勝峰(27)戦も攻め込んだものの、土俵際の俵で止まれず、土俵外に両足で飛び出した。4日目には高安(36)戦でまた引いて攻め込まれ、今度は突き倒された。初黒星。この時は、土俵際でバランスを崩し、片足立ちから自ら転げ落ちるように土俵下へ。序盤はどっしり感が無く、「軽い」印象を受けた。


大の里は土俵際でもつれた際、よく自ら大きく飛び上がるような動きをする。190cm、188kgの巨体ながら運動能力が優れていることはわかる。おそらく、少しでも空中に長くいて「勝負を有利に」という気持ちの現れだと思うが、土俵に足が根付いたような取り口とは一線を画す。小兵力士が際どい取組を物にするのと違い、そういう勝負にならないようにするのが横綱の相撲ではないか、と思う。


だが、「白星は何よりも良薬」という角界の格言通り、徐々に調子を取り戻していった。5日目にそれまで初対戦から4連敗中だった義ノ富士(25)に、右四つからの寄りで快勝すると、「右を差して、相手を正面に置き、前に出る」という本来の強さが戻ってきた。11日目にも初顔から2連敗していた新関脇藤ノ川(21)を圧倒。12日目には大関昇進を目指す熱海富士(24)を、下手出し投げという器用な技で下した。11勝1敗として、そのまま優勝へ突き進むように見えた。


この頃、国技館では多くの関係者が安どの表情を浮かべていた。親方衆だけではない。行司や呼び出しまでが「ようやく横綱が優勝する。出来れば、このまま残り全部を勝って14勝で。もし、一つ落としたとしても13勝で優勝して欲しいね」とささやき合っていた。昨年11月の九州場所以降、賜杯を手にしたのは関脇安青錦、大関に上がった安青錦、場所後に大関復帰を果たした関脇霧島(30)、小結若隆景(31)、関脇に転落した安青錦だった。そこに横綱の名はない。成績もいずれも12勝3敗。13勝した力士はいなかった。


この間、秋場所も初日から休んで3場所連続休場となった豊昇龍は、昨年九州場所は優勝決定戦まで進んだものの、あとの2場所は11勝と10勝。大の里も3場所休場があり、先場所の名古屋場所では6勝6敗から何とか9勝までこぎつけていた。大関以下に賜杯を奪われる屈辱が続き、番付社会で横綱の権威そのものが崩れかけていた。


ところが、自らが勝ち、3敗の安青錦、藤ノ川、朝乃山(32)が敗れると優勝の決まる13日目に、この場所ですでに6敗して綱とりに失敗していた霧島に不覚を取る。得意の右差しを狙ったが、封じられて相手得意の左四つに。差せなかった右は上手を取って前に出たが、体の寄せ方が甘く、土俵際で下手投げに倒れた。


それでも14日目も大の里が勝ち、追う安青錦、朝乃山が敗れれば優勝だった。だが、今度は琴桜(28)に右差しで寄ったものの、体を開かれて突き落とされた。よもやの終盤での2連敗。勝った2大関は溜飲を下げたが、横綱は一気に土壇場に追い詰められ、残り1番に全てを掛ける形になった。


そして、迎えた千秋楽。相手はこの6場所中3度、優勝している安青錦。そして、低迷の要因にもなった昨年九州場所での左肩のけがを負った時の相手だった。勝負強い安青錦に迷いがあっては通じない。開き直ったのだろう。立ち合いに両手ののど輪で相手の低い重心を突き起こす。


あごが上がったところを休まず、そのままのど輪を連発し、一気に突き出した。完勝。八角理事長も「これ(低い体勢を作らせない安青錦の弱点をつく立ち合い)が出来るのは横綱だけ。最後に自分の相撲が取れた。上位が強いと盛り上がってくる」とようやく目を細めた。


秋場所は入幕後、3年連続優勝になった。表彰式では、大の里の目に涙がにじんだ。国歌斉唱では何度も目頭を手で押さえた。「この景色だけを見たくて。優勝出来てよかった。けがをして、思い通りの相撲が取れない1年が続いた。先場所の名古屋でも苦しい思いをして、『本当にまた優勝できるのかな』と考えた時期もあった」と土俵下のインタビューで苦しかった胸の内を吐き出した。最後の勝負については「途中(13、14日目)で余計なことを考えた自分がいた。朝、起きた時から腹を決めて『走る』。悔いの残らない、弱気にならないような相撲を取るということだけを考えた」と話した。


最高位の責任を果たした弟子に対して「勢いだけで横綱になった」と普段なかなか褒めない二所ノ関親方(元横綱稀勢の里)も、この日ばかりは讃える言葉が続いた。「2日間(13、14日目)は気負って空回りした。きょうは出来ることをしっかりやると立ち向かったのがよかった。(この1年間)私も近くで見ていましたが、いろんなことを言われながらやってきた。きょうぐらいは褒めてやってもいいのかな。いつも『優勝は13勝以上』と言っているから、13勝、14勝して初めて納得できる。この12勝が、また成長しようというきっかけになれば」と語った。


千秋楽結びで優勝が決まるという、興行としては最高の締めくくりとなった秋場所。だが、実はこれは取組編成が生んだ幸運だった。本来であれば、豊昇龍の休場で、大の里に続くこの場所の番付最上位者は東の1番目の大関霧島だ。終盤の3日間の大の里の対戦相手は、通常ならば千秋楽が霧島、14日目は西大関琴桜、13日目が東の2番目大関である安青錦だった。ところが、霧島の不振で対戦順が入れ替わり、3大関の最初が霧島に。14日目は13日目の結果が出る前に琴桜に決まっていた。つまり、その2日間は大の里と追う安青錦の直接対決が行われる前に優勝が決まる可能性もあった。結果的に最高のドラマを生んだ協会には、先を見通す目があったのかもしれない。
いずれにしても、大相撲は面白い。盛り上がった秋場所だった。


(竹園隆浩/スポーツライター)


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