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【大相撲】大関・安青錦、“ぶれない相撲”で欧州勢初の横綱となるか けがの完治と“唯一の泣き所”克服し、13勝以上&悲願達成へ

スポーツ
2026-10-30 12:06

横綱大の里(26)が1年ぶりの優勝を果たし、大関霧島(30)が横綱昇進に失敗した角界。現在、次の横綱候補として一番手に挙がるのは、大関安青錦(22)だろう。レスリング出身の低い体勢からまわしを取れば、寄りも投げも多彩。昨年3月の春場所で新入幕して以来、10場所。左足のけがで全休した今年5月の夏場所を除けば、負け越しは初の綱とり場所だった今年春場所の1度だけ。あとの8場所は全て11勝以上を挙げ、うち、3度の優勝を飾っている。


八角理事長(元横綱北勝海)、審判部の浅香山(元大関魁皇)、尾上(元小結濱ノ嶋)の両部長、九重(元大関千代大海)副部長らが安青錦を語る時に出てくる言葉が「ぶれない相撲」だ。自分の長所、短所をよく理解して勝ち方を知っている。引き技、強引な投げ、相手を呼び込むような雑な攻めがほぼない。大の里、豊昇龍(27)の両横綱が見せるミスからの墓穴を掘る姿がないのが抜群の安定感につながっている。


入幕直後、押っつけの名手、若隆景(31)を目標にしていた頃は、出番前の支度部屋では、その日の取り口を再確認するように、「当たってまわしを取り、出し投げで崩して横に着く」というような動きの確認を繰り返していた。相手を想定して、仕切って踏み込む立ち合いからの展開を頭に描きながら、一人でその動作を確かめてから土俵に出て行った。


だが、入幕5場所目の昨年11月の九州場所で初優勝して大関に昇進してからは、そんな仕草が消えた。幕内上位では当たる相手はそんなに変わらない。そこまでの経験で対戦相手の特徴、データ、攻め方も、ほぼ把握したのだろう。そして、前傾姿勢に象徴される「自らの形を整えれば、簡単に負ける相手はいない」との自信も手にしたのだと思う。出番前は、闘志は胸に秘めながらも、落ち着いた表情に変わった。


その勝負強さ、気持ちの強さを最も表しているのが、優勝決定戦に3回臨み、一度も負けたことがないという事実だ。初優勝だった昨年九州場所は横綱豊昇龍を相手に低く前に出て、相手の引きに乗じて後ろに回り、送り投げを決めた。今年1月の初場所の連続優勝時には、巨漢の熱海富士(24)に土俵際まで攻め込まれながら逆転の首投げで制した。7月の名古屋場所では3人によるともえ戦となり、熱海富士、霧島に連勝した。


「根性がある。大したものだ」と八角理事長も絶賛するが、唯一ともいえる泣き所、まだ足りてない部分がある。それは立ち合いの圧力。安青錦は相手を受け止めて自分の体勢を作ることは、ほぼできるが、そこで1歩、2歩前に出て相手に圧力をかける踏み込みがない。一度、相手の出足さえ止めてしまえば、そこからじわじわ攻め込む相撲はよくあるが、逆に体勢を起こされると苦しくなる。


欧州勢初の横綱誕生に期待

9月の秋場所千秋楽。11勝3敗同士で並んでいた大の里との優勝をかけた一番にその弱点が凝縮されていた。立ち合いに横綱ののど輪突きで上体がのけ反ると、まわしに手が届かない。そのまま、一気にのど元を攻められ、土俵の外に運ばれた。完敗だった。「横綱の流れになってしまった。自分の相撲が取れなかった」というのは、偽りがたい本音だろう。


初の負け越しを喫した春場所で左足の小指を痛めたことが長く尾を引いている。その後、カド番だった夏場所前の稽古で左足首を痛めて、初土俵以来初の休場(全休)となり、関脇へ転落。名古屋場所は3度目の賜杯を抱いたものの、実はその際も同じ左足の親指と足首を骨折していたという。それでも場所中は症状を伏せて土俵に上がり続けて結果を出した精神力には、頭が下がるばかりだ。


秋場所も4日目から3連敗したものの、その後は14日目まで8連勝した。名古屋場所に続いて場所前は関取衆との稽古はなし。それでも浅香山部長は「部屋で若い衆を捕まえて、自分の相撲を確かめていたのでしょう。最近の関取は基礎をやっていない相撲が多いが、安青錦は基礎運動をしっかりやっている印象が強い。稽古だけじゃあない。それが出来ているから体が作れている」と見ていた。優勝45回を誇る元横綱白鵬も、強さの秘密は「特別な秘訣はない。しこ、てっぽうの基礎をしっかりやること」と言い、現役の間は土俵入り後の支度部屋では横綱としての出番が来るまでの2時間弱、ゆっくりとだが、休まずしこを踏み続けていた。


それでも、今の安青錦は左足をかばい、立ち合いは右足に重心を残して左は飛び跳ねるように前に出すのがやっと。いかに基礎をしっかりやっていても、稽古の貯金は徐々に無くなるものだ。けがの後は、関取との取り組む稽古なしでも巡業は休まず出て看板力士の役目を果たしているが、本来なら、本場所と次の場所の間を治療と安静に当て、早いうちにこのけがを払拭した方が良いと思う。今のままでも、常に優勝争いに顔を出せるほどの実績が、かえって完治を遅らせる要因になっているのではないか、と強く思う。


1987年に「昭和の黒船」と言われた小錦が初めての外国出身大関に昇進して以来、外国勢からは14人の大関が誕生している。その中から、小錦の後を追った曙が初の外国出身横綱になり、それに武蔵丸が続いた。当初の外国出身者は米国ハワイ勢の2人が綱を締めた。そこからモンゴル勢全盛の時代が来る。まずは朝青龍が横綱まで上り詰め、以降、白鵬、日馬富士、鶴竜、照ノ富士に豊昇龍まで。横綱に届いていないのは霧島だけだ。


欧州出身者は、と言えば2006年の琴欧洲(ブルガリア)が最初で、その後、把瑠都(エストニア)、栃ノ心(ジョージア)が生まれた。ウクライナ出身の安青錦で4人目だが、まだ横綱まで番付を上げた力士はいない。レスリングのジュニア欧州王者だった琴欧洲はバランスの良さと柔らかさ、把瑠都と栃ノ心は怪力が強みだった。いずれも大きな期待を受けていたが、夢を逃した。それだけに安青錦には故障を克服し、欧州勢初の横綱という期待もかかっている。


ただ、ここ1年の6場所は優勝成績が安青錦の3度を含めて、いずれも12勝3敗だった。角界では全勝を含めて14勝以上がレベルの高い優勝。13勝が通常の優勝としての評価だ。13勝以上が1年間出ていないということは、今は力の抜きんでた存在がおらず、いつも混戦模様になる、ということを意味している。墓穴を掘らない安青錦でも依然、13勝を挙げたことがないというのも、まだ本人がそこまでの地力には達しておらず、今の顔ぶれの中では安定感と勝負強さで前にいるという状態だからだろう。


悲願の横綱昇進、そして13勝以上の優勝を手にするには、立ち合いの圧力を付けるのが一番の近道だと思う。それにはまずはけがを完治させることに尽きるのではないか。左足にぐるぐる巻きしているテーピングのない土俵を、早く見たいものだ。


(竹園隆浩/スポーツライター)


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