大阪の廃工場跡に現れた「衣食住を楽しみながらSDGsが体験できる複合施設」。SDGs体験を通して伝えたいメッセージとは?「シリーズSDGsの実践者たち」の第41回。
【写真を見る】アパレル業界の大量廃棄問題を解決するために~廃工場を活用したSDGsが体験できる複合施設~ <シリーズSDGsの実践者たち>【調査情報デジタル】
SDGs体験ができる複合施設
廃工場をリノベーションした空間に、アウトレットの服やヴィンテージ家具、食器、雑貨など、幅広い商品が並ぶ。ブランドの服は50%から80%値引きされているのをはじめ、どの商品も購入しやすい価格になっている。
2階の一角で行われていたのは、金継ぎ体験のワークショップ。金継ぎとは、欠けたり割れたりした器を、漆を使って修復する伝統的な技法のことだ。
参加者は漆と薄力粉をよく練ったもので、割れた部分を接着していく。乾燥させて漆を塗り、金粉を使って仕上げると、修復した部分が新たな模様に変わる。
大阪市住之江区の北加賀屋地区にあるこの施設は、2024年8月にオープンしたショップングモール「SMASELL Sustainable Commune(スマセルサステナブルコミューン)。衣食住を楽しみながらSDGs体験ができる複合施設だ。週末の金・土・日曜日と祝日だけ営業している。
北加賀屋地区はかつて造船関連の工場が立ち並んでいた地域だった。現在は工場跡を活用してアートを中心としたまちづくりが行われている。そこに新たなスポットとしてスマセルサステナブルコミューンが誕生した。
鉄工所の工場跡をリノベーションした広さ約210坪の店内には、運営会社のウィファブリックが直営するファッションとカフェのコーナーのほか、施設の趣旨に賛同した企業などによる「人や環境にやさしい商品」が幅広いジャンルで揃っている。
サステナブルをリアルに体験
ウィファブリックはアパレル業界が抱える大量廃棄という社会的課題を解決しようと、オンライン上のアウトレットモールSMASELL(スマセル)を2017年から展開してきた。
スマセルでは本来であれば廃棄されるはずだった常時1000以上ものファッションブランドの服を、最大で98%の値引きをして販売している。購入手続きをすると、服を循環することで削減された二酸化炭素の量が可視化されるのも特徴だ。
代表取締役の福屋剛さんはアパレルの商社で約10年間ものづくりを経験して、ウィファブリックを起業した。オンラインよりもコストがかかるリアルの店舗で、かつ、ファッション以外も扱うSDGs複合施設を手がけた理由を次のように話す。
「世界中で毎年200億着以上もの服が捨てられていて、大量廃棄は石油産業に次ぐ環境問題の背景と指摘されています。気候変動の問題を解決しようとスマセルを展開しているものの、オンラインだけでは体験できる領域に限界があると感じていました。食やファッション、雑貨など全ての商品を何らかの形で環境にやさしいものにすることによって、ライフスタイルの中でSDGsを体験できる施設にしています」
施設にはショッピングモールとカフェ、それにギャラリーの機能がある。1階には直営のセレクトショップとカフェがある。
セレクトショップには、パリなどで活躍する日本人デザイナーと取り組んでいる、バングラデシュのアパレル業界を支援する服が並ぶ。中国やベトナムに次ぐ規模のアパレル輸出大国となっているバングラデシュでは、新型コロナウィルス感染症が拡大した際に、3000億円もの発注がキャンセルされた。そこで、本来は出荷される予定だった無地の服に、現地で働く人に手縫いで刺繍を施してもらうことで雇用を生み出し、生産されたオリジナルの服を販売している。
カフェの店内と厨房は、中古のロンドンバスをリノベーションした。通常は捨てられている肉の切れ端や未利用魚などを活用したハンバーガーなどを提供する。
1階の半分と2階はテナントスペース。大手ブランドの廃棄されるはずだったサンプル品の服をはじめ、素材に牛骨を使うことで最終的には土に還る食器、スケートボードから作られた雑貨など、国内外からサステナブルなブランドが出店している。
毎回購入するたびに100円が寄付される仕組みで、購入した人は100円相当の木のコインを受け取って、子ども食堂やウクライナの難民支援など、支援したいと考える団体のボックスに投函する。
新しいものをできるだけ作らず、今あるものを長く使う
店内の壁などには廃棄された服で作られたアート作品が展示されているほか、子どもの絵本やおもちゃを物々交換できるなど、お金を使わなくても楽しめるコーナーもある。今あるものを長く使うことを勧めるのも、福屋さんがこの施設を通して伝えたいメッセージの一つだ。
「私たちのサステナブルプロダクトの定義は、ユーズド、ヴィンテージ、アウトレット、それに売れ残りや型落ち品などのデッドストックです。できるだけ新しいものを作らず、もともとあるものを長く使うことが一番サステナブルだと考えています。
新しく作られた商品に関しては、オーガニックやフェアトレード、アップサイクルなど、環境にやさしい素材や動物由来ではない素材でできたものを選んでいるほか、伝統的な技術や地産地消によるものづくりを重視しています。今はこの定義に該当していなくても、サステナブルな新たな概念があればどんどん取り入れていきたいです」
ウィファブリックは大阪・関西万博の会場に5月に出展して、自社の取り組みを伝える予定だ。今後は小型の複合施設を東京都内に構えることや、無人の古着販売店を大阪を中心に展開していくことも検討している。リアルとオンラインのショッピングモールを軸に、ものづくりをする業界が抱える廃棄の問題に今後も向き合っていく。(「調査情報デジタル」編集部)
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。
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