
21日(火)に臨時国会召集が決まり、総理指名選挙に向けた多数派工作の動きが与野党で加速している。特に注目を集めるのは、ここにきて自民党に急接近している日本維新の会の動向だ。
一方、政局の激しいうごめきの裏側で、石破総理が事実上“総理として最後の会見”である「戦後80年所感」の発表に臨んだ。
石破総理が最後に国民に伝えたかったこととは。そしてそれでも進む総理指名に向けた動き。
多数派工作のゆくえを、2人の記者とともに徹底分析する。
与野党で党首会談ラッシュ カギを握るは...維新の動き
臨時国会召集日が21日(火)に決まったことを受け、与野党で総理指名選挙に向けた動きが加速している。
15日には、高市早苗・自民党総裁が立憲民主党の野田佳彦代表、国民民主党の玉木雄一郎代表、日本維新の会の吉村洋文代表・藤田文武共同代表と相次いで会談を実施。さらに野党3党(立憲・国民・維新)による党首会談も行われ、この日はまさに“党首会談ラッシュ”であった。
この展開の中で大きな動きとなったのが、自民と維新との接近だ。
15日の会談後、両党で政策協議を進めることになり、吉村代表は、政策協議できちんと合意がまとまれば「(総理指名選挙で)高市早苗と書く」と明言した。
16日には維新が両院議員総会を開き、自民との政策協議を執行部に一任することを決定。午後には両党による幹事長会談が行われ、政策協議が本格的に開始された。
自公連立解消の裏で... 石破総理 “最後の置き土産”
総理指名選挙に向けた一連の動き、全ては10月10日、26年間に及ぶ自公連立の解消から始まった。
しかしこの大きなニュースの裏でひっそりと行われていたのが、石破総理の事実上“総理として最後の会見”である「戦後80年所感」の発表だ。
これまで戦後50年、60年、70年の節目に、村山談話、小泉談話、安倍談話といった形でときの総理が「談話」を発表してきた。
一方で、安倍総理による戦後70年談話では、「戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」として、いわゆる“謝罪外交”に終止符を打とうとした。
それでもなお、石破総理が新しい談話・見解の発表に意欲を示すと、党内の保守派などからは「70年談話を上書きするのか。蒸し返すのではないか」と反対意見が出たため、最終的に、「談話」ではなく、閣議を通さない「所感=メッセージ」という形で発表するに至った。
所感の主な内容は以下の通りだ。
(1)これまでの歴史見解を引き継ぐ(党内の反対の声に配慮)
(2)なぜ戦争は避けられなかったのか、国内の政治システムはなぜ歯止めたりえなかったのか
(3)今日への教訓:政治に対して「無責任なポピュリズムに屈しない」、メディアに対して「偏狭なナショナリズムを許さない」
政治部・光安記者によれば、所感は「石破総理らしい」内容だったという。
歴史上の人物の言葉を複数引用し、最後は田中角栄元総理の「あの戦争に行ったやつがこの国の中心にいる間はこの国は大丈夫だ。いなくなったときが怖いんだ。だから、若い人たちには勉強してもらいたいのだ」との言葉で締めくくられた。この田中角栄元総理のエピソードは、石破総理が何度も語ってきたものであり、戦争の記憶の風化を懸念する強い想いから語られたものだと思われる。
維新・国民の発言に見える“本気度” 過半数確保に向けた最後の駆け引き
そんな石破総理“最後の置き土産”も終え、来週火曜には臨時国会召集、そして総理指名選挙が控えている。
総理指名選挙は、
・1回目の投票では過半数が必要だが決選投票は多数決で決まる
・衆参で結果が分かれた場合は衆議院が優先される
ため、重要になってくるのは衆議院での多数派工作だ。
当初は自民党と立憲民主党がそれぞれ国民民主党に接近する動きを見せていた。
高市総裁は就任翌日に玉木代表と会談し、一方の立憲民主党は、総理指名選挙で玉木代表に投票することも容認する姿勢を示していた。
しかし、自民・高市総裁が国民・維新それぞれと党首会談を行った15日、その流れが大きく動いた。自民と維新が急接近したのだ。
その理由は国民・維新両党の会談後の発言に見られる。
両党党首は共通して
・自民と基本政策に大きな違いがないことを確認した
・それぞれの党が掲げる政策実現を求めた
と発言したが、大きく違ったのは「政策が一致したときの対応」だ。
玉木代表は「信頼関係、連携強化」と留める一方、吉村代表は政策合意すれば総理指名選挙で高市氏の名前を書くと明言。
目的地を明確に設定したことで、自民が維新と協議を本格的に開始することになったのだ。
衆議院では自民196議席、維新35議席で計231議席となり、過半数(233議席)まであと2議席に迫る。政治部・川瀬デスクによれば、自民党は「有志・改革の会」や「参政党」への接触も進めており、「あと2議席というところまで来たら、あとはもう個別交渉などで過半数に達することができる」という。
ネックは「企業・団体献金の廃止」も吉村代表は「トータルで考える」
維新側が自民党に提示した「12の政策」は、
(1)経済財政政策(ガソリン暫定税率の廃止・食品消費税2年間ゼロなど)
(2)社会保障政策
(3)皇室・憲法改正・家族制度等
(4)外交安全保障政策
(5)インテリジェンス政策
(6)エネルギー政策(原発再稼働の推進など)
(7)食料安保・国土政策(メガソーラーの規制など)
(8)経済安保政策
(9)人口政策・外国人政策(土地取得規制の厳格化など)
(10)教育政策(高校教育無償化本格実施など)
(11)統治機構改革(副首都構想など)
(12)政治改革(企業・団体献金の廃止など)
からなる。
このうち、政治部・川瀬デスクによれば、特に焦点となるのは「(1)経済財政政策」の中にある「食品消費税2年間ゼロ」と「(12)政治改革」の中の「企業・団体献金の廃止」だという。
公明党が連立解消の理由としたのも「政治とカネ」をめぐる問題に対する自民党の姿勢だっただけに、維新が掲げる「企業・団体献金の廃止」と自民党の姿勢とをどう折り合いをつけるのかが注目される。
国民民主党の玉木代表も「企業・団体献金の廃止をできないのであれば、連立協議はしないというぐらいの気概で望んでほしい」と維新を牽制。
しかし、吉村代表は「絶対条件」として「(2)社会保障政策」と「(11)統治機構改革」の「副首都構想」のみを挙げ、「他はトータルで考える」と表明。これは企業・団体献金の廃止について完全な合意を求めない可能性を示唆しており、「廃止なども含めて検討を進める」といった玉虫色の決着も視野に入っているとみられる。
また、吉村代表はここへ来て「議員定数の削減」を絶対条件として掲げているが、他の野党からは「企業・団体献金の話が進まないから定数削減の話にもっていくのはすり替えだ」と批判する声もあがっている。
政治部・川瀬デスクは「現在の段階では、自民党と維新の政策協議が最大の焦点」と指摘。今後も水面下で協議が続き、週末にも維新が役員に対し説明を行うなど、21日の臨時国会に向けて最終調整が行われるとみられる。
臨時国会召集を前に、総理指名選挙に向けたレースはまさに最終コーナーを回った段階。今後数日の動向が、ポスト石破の行方を決定づけることになる。
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