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「気のせいにさせたくなかった」研究支えたクラウドファンディングとチームの思い「ブレインフォグ」治療の糸口掴む横浜市立大学の臨床研究

国内
2025-10-18 06:30

コロナ禍の「最後の課題」といわれるコロナ後遺症。その一つ、「ブレインフォグ」と呼ばれる症状の治療の糸口となる研究結果を、横浜市立大学が発表した。研究を費用面で支えたのが、クラウドファンディングだ。研究チームはなぜ、クラウドファンディングに頼ったのか。研究にかけた思いを取材した。


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「ブレインフォグ」脳のAMPA受容体で異常

「気のせいだと処理されてしまうような疾患を、気のせいにさせない。困っている人たちを、客観的に疾患だと言ってあげられるような結果につなげていきたいと考えていた」


横浜市立大学(横浜市)の研究室で開かれたカンファレンス。研究チームの一人が、語気を強めた。


この大学は10月1日、新型コロナ後遺症の一つで、思考力が低下する「ブレインフォグ」と呼ばれる症状の解決の糸口となる臨床研究結果を発表し、科学雑誌「ブレインコミュニケーションズ」に掲載された。


医学部の高橋琢哉教授率いる研究チームは、ブレインフォグの発症メカニズムを解明しようと、患者30人の脳を「PET検査CT」と呼ばれる特殊なCTを使って分析。その結果、脳の「AMPA受容体」と呼ばれるタンパク質の密度が、どの患者も健康な人と比べて高いことが分かった。


脳の神経細胞では、「シナプス」と呼ばれる“つなぎめ”を神経伝達物質が通過することで情報伝達を行っている。AMPA受容体は神経伝達物質を受け取る重要な役割を果たしていて、研究チームは、AMPA受容体の密度が高くなったことで脳の情報伝達がうまくいかず、ブレインフォグの症状が出ているとみている。


つまり、AMPA受容体の働きを抑えることができれば、ブレインフォグの症状が治まる可能性があるのだ。


コロナ後遺症はブレインフォグのほかにも、倦怠感や味覚障害など、さまざまな症状があるが、発症のメカニズムは解明されておらず、診断法や治療法も確立していない。特にブレインフォグは診断が難しく、家族や周囲の人だけでなく、医師からも「気のせいだ」などと言われたりして、傷つく患者が多くいる。


高橋教授は、今回の研究の結果で「ブレインフォグが明らかな脳の病態だと明らかにした」としたうえで、「診断法や治療法の開発につながるもので、ブレインフォグで苦しんでいる患者さんたちにとって大きな福音になる」と強調する。


「AMPA受容体」の働きを抑える薬は、別の疾患の治療薬としてすでにある。研究チームは今後、その薬を使った臨床試験を行う予定だ。


患者や家族らから集まった約620万円 「慢性疲労症候群などの診断にも・・・」

研究チームは、研究費用の一部を「クラウドファンディング」でまかなっていた。2023年10月から11月までの2か月間で集まった金額は、約620万円。コロナ後遺症の患者やその家族からの寄付もあったという。


クラウドファンディングを発案したのは、研究チームの阿部弘基医師だ。研究を始めた2023年当時、コロナ後遺症の研究が研究費の対象となるかは不透明だったという。「患者さんが受診先を探すのに苦労をしている姿をみると、少しでも早く解決する必要があると考えた。なるべく早く研究を始めるために必要だった」。


診断法や治療法の確立は、患者たちの強い願いだ。その糸口を掴むことになる今回の研究結果に、阿部医師は「患者さんや家族からの応援はとても心強く、研究チームの支えになった」と語る。


今回の研究結果は、ブレインフォグの診断だけでなく、別の疾患の診断にも活用できるという。


脳の病気は診断方法が限られており、MRIや血液検査でも異常が見つけられない場合が多くある。阿部医師は、「今回の研究結果は、脳の病気の診断に生かせる可能性を示したものといえ、ブレインフォグだけでなく、慢性疲労症候群など、脳に由来すると考えられている病気でも、治療の手がかりを掴むことができるのではないか」と意気込む。


「未知の病気から一気にピントが合った」次の臨床研究に期待

今回の研究結果について、コロナ後遺症の患者や診察に当たる医師からは驚きの声が上がる。


「今まで未知の病気で、未知の後遺症でっていうフワっとしていたものが、一気にピントが合ってきた。病気の輪郭を形作ることができる研究成果だと思う。今回こういう結果がでたのは、本当にうれしい」


ブレインフォグに苦しみ続けている川崎市の男性(40代)は、4年前にコロナ感染した後、ブレインフォグの症状が続き、仕事を続けることができなくなった。脳の血流を改善する治療法「rTMS」や「上咽頭擦過療法」、漢方薬を服用するなど、様々な治療を受けてきたが、この4年間で、「ブレインフォグの症状は固定化してしまっている」と話す。


「自分の頭の中で何が起きているかを知りたい」と2023年11月に、横浜市立大学の臨床研究に参加。今回の結果が出るまでの2年間を振り返り、「コロナ禍が終わって、後遺症に対する世間の関心は薄くなっているように感じる。私のように苦しんでいる人は多くいる。治療薬の臨床研究を、少しでも早く進めてほしい」と期待を込める。


この男性が診察を受けている「横浜かんだいじファミリークリニック」(横浜市)の河野真二院長は、コロナ後遺症の診断について、「検査でひっかかるものではなく、感染歴があり、他疾患が否定されかつ後遺症に特有の症状があるとき、『おそらくコロナ後遺症でしょう』と診断されてきた」と指摘。横浜市立大学の研究結果は、「ブレインフォグの患者に対する診断のための検査法ではあるが、診断根拠ができることに大きな意味があると思う。今まで疑いの目を向けられていた患者さんには、きちんとした診断ができることで、社会から病気として理解され易くなることは、本当に大きな前進であると思う」と話した。


コロナ禍の「最後の課題」が克服される日は、近いかも知れない。


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