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米MIT元教授「日本はまだ間に合う」アメリカの政治的分断を「因果推論」で分析、その教訓とは

海外
2025-02-11 08:00

銃規制に賛成か反対か――それだけで支持政党が分かってしまうほど、アメリカでは政治的分断が進んでいるといいます。その理由は、そして日本が学べることは。米MIT元教授が「因果推論」を駆使したメディア分析で明らかにしました。


【画像でみる】アメリカの政治的分断を「因果推論」で分析


分断を引き起こしたのはメディアか?視聴者か?

「世の中にある出来事は絡み合っていて、データを見るだけでは何が何を引き起こしているのか、相関関係と因果関係の区別が付きにくい」とマサチューセッツ工科大学(MIT)から昨年、早稲田大学に移った山本鉄平教授(政治学)は言います。


「因果推論は実験や研究デザインの工夫、統計的な処理などで複雑なデータの海の中から因果関係を析出する手法を研究する分野です」


この30年ほどで、アメリカの政治的分極化は拡大しているといいます。


米ピュー・リサーチ・センターが銃規制や妊娠中絶など10項目について世論調査を行ったところ、1994年と第1次トランプ政権が発足した2017年を比べると、共和党を支持する人々(保守派)と民主党支持者(リベラル派)の間での意見の両極化が進んでいました。


例えば銃規制に関しては、2008年頃から賛否が拮抗しているものの、保守派(規制すべきでない)とリベラル派(規制すべき)の意見のへだたりはおおよそ年を経るごとに広がっています。


さらに科学者への信頼度が近年低下しており、特に共和党支持者の間で顕著です。


「科学者は党派的、政治的な意見の対立から独立しているという前提が揺らぎ、科学者自身も党派的な対立に入って自分たちの行っていることを正当化しなければいけないような状況になりつつある」


大学の授業では、多様性や人種、ジェンダーなど意見の分かれる問題について議論することが難しくなっていると言います。


そして日本の大学に移った理由の1つとして、「学問・表現の自由が脅かされるとまではいかないが、それに近い状況があった」と明かします。


ではよく指摘されるように、メディア環境の変化が政治的分極化の一因なのでしょうか。


「党派性があると言われるニュースを見ている人たちの間で、政党支持がくっきり分かれつつあるのは、この2つの間に因果関係があると考えるの自然」


そこで、山本教授たちはある研究を行いました。


アメリカではFOXニュースは共和党寄り、CNNやMSNBCは民主党寄りのメディアとされています。


問題は「鶏が先か卵が先か」、つまり視聴者がメディアに「毒される」形でその政治的傾向に影響を与えているのか、もともとの政治的傾向でメディアが選ばれているかです。


“1度見たら最後”YouTubeの「トラップ」

山本教授たちの研究ではバラエティー番組を好んで見る被験者、FOXの番組を好んで見ている被験者、MSNBCの番組を好む被験者の3グループにランダム化比較試験(テレビ番組を見せる群と見せない群に無作為に分け効果を比較)を実施。それぞれの番組を見せたときの効果の差、つまり政治的な意見や態度がどの程度変わるかを調べました。


見てもらったのは、ニュースの短い切り抜きです。


その結果、バラエティー番組を好む被験者群に一番効果が強く、普段からFOXやMSNBCを見ている人々の間では効果が弱かったことが分かりました。


「(バラエティー番組を好む人への)少しだけのエクスポージャー(メディアへの接触)でも大きな影響がみられました」


似たような例として「YouTubeのレコメンドアルゴリズムは『1回見たら最後』のようなところがある、と山本教授は言います。一度偏ったニュースに触れると「おすすめ動画」として同様の偏りを持つ動画が大量に表示されます。


「特に普段政治ニュースに触れないような人は、どんどん偏向が進んでしまう」


一方、普段FOXニュースを見るような人が、「逆側」のMSNBCを見ると、意見の差が縮まることも分かっています。


「ここから分かるのはメディア環境が大事だということです。いろいろな意見を目にする環境があれば、分極化が縮まるきっかけがあるのでは」


翻って、日本は何を教訓とすべきでしょうか。


「分極化が深刻化しているアメリカでは改善の兆しは見えず手遅れ感があるが、日本はまだ間に合う感じがしています」


山本教授は、日本でもネット世論が選挙に影響を及ぼした事例が昨年の都知事選や兵庫県知事選で見られたとして、メディア環境の重要性が増しているといいます。


一方、選挙期間中のテレビの選挙報道が十分でないなどと感じる人々が、YouTubeのアルゴリズムのような「トラップ」のあるSNSに頼らざるを得ない現状があると指摘します。


「日本はアメリカほどメディアの党派色がはっきりしておらず、実験のデザインが難しい。ただ、政治学における実験的研究を行う環境の整備が進んでおり、研究者も増えています」


そしてこうした研究をエビデンスに基づく政策立案(EBPM)などへ応用できる、と山本教授は期待しています。


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