南米ボリビアにある“人喰い山”と呼ばれる鉱山。採掘作業の中で多くの労働者の命が失われてきました。現地を訪れると、大人たちに交じって働く子どもの姿もありました。なぜ、この過酷な現場に立っているのでしょうか。
【写真で見る】家族の生活費のために鉱山で働く 14歳少年の“夢”
標高4300メートルの過酷な仕事
その山は、街のはずれで圧倒的な存在感を放っていました。
南米ボリビアの鉱山「セロ・リコ」。16世紀から銀の鉱山として名を馳せ、銀が枯渇した後も亜鉛などを産出し、世界遺産にも登録されています。
これまで人々に莫大な富をもたらした一方で、落盤事故や有毒ガスで数え切れない犠牲者を出してきたことから、“人喰い山”とも呼ばれています。
記者
「鉱山の入口は真っ暗ですが、今も現役で使われている坑道です」
狭い坑道が山の奥へとずっと続きます。
記者
「やはり空気が薄いからか、ただ歩いているだけでもゼイゼイしますね」
この辺りの標高は4300メートル。
ガイド
「大丈夫ですか?休みながら落ち着いて」
カメラマン
「息が…ちょっと休憩します」
それでもぼんやりしていては危険です。
前方からは鉱山労働者が押すトロッコがやってきます。もし、ぶつかったらただでは済みません。すべてが自己責任の厳しい世界です。
麓の街「ポトシ」は、かつて世界の銀の60%を供給し、活気に満ちていました。しかし、現在はその採掘量が激減し、ボリビアの中でも“貧しい街”といわれています。
ポトシの住民
「鉱山は“宝くじ”だ。私たちは運を試すために山に行くんだ」
“人喰い山”で働く14歳の少年 危険と隣り合わせの環境で…
そんな厳しい鉱山で、14歳の少年と出会いました。ネイマールくんは3か月前から“人喰い山”で働き始めたばかりの新人です。
ネイマールくん(14)
「これは“リサ”というご飯だよ。(Q.働いているときはお腹空く?)全然空かない」
今は学校に通っていません。大人と同じように1日7時間、週に5日働き、日給は約3000円。家族の生活費や弟の教育費を稼ぐため、鉱山で働き始めました。
トロッコの重さは、約250キロ。鉱石で満杯になると1トンを超えるといいます。トロッコを運ぶのが今のネイマールくんの仕事です。
トロッコの重さや崩落でレールが痛み、立ち往生するのも日常茶飯事です。
一番奥で採掘するのはベテラン労働者の仕事。岩を叩くとボロボロと崩れてきます。岩盤崩落と隣り合わせの危険な作業です。
採掘した鉱石をトロッコに積み込むと、視界が一気に遮られるほどの粉塵が舞い上がります。ネイマールくんはこうした環境で毎日働いています。
ネイマールくん(14)
「疲れた、暑い」
今どれくらいの子どもが鉱山で働いているか、正確な人数はわかりません。ただ、地元警察によると、去年1年間で117人の鉱山労働者が事故で死亡し、そのうち5人が未成年だったということです。
12歳から働くベテランも…教育受けられず“貧困連鎖”
危険と隣り合わせのこの山に50年以上通い続けてきた人もいます。
フリオさん(64)は、働き者として誰からも一目置かれる大ベテランです。
フリオさん(64)
「私は12歳のときから働き始めました」
その手には、懸命に働いてきた人生が刻まれています。
フリオさん(64)
「石とトロッコに手を押しつぶされてしまって、治療したけど元には戻らなかったよ」
若い頃から数え切れないほどの仲間が体を壊したり、事故に巻き込まれたりして亡くなっていったと話します。
フリオさん(64)
「食べていくのが精一杯で勉強する余裕なんてなかったんだよ。だから、多くの子どもたちが勉強をやめてしまうんだ」
ボリビアの義務教育は17歳までですが多くの家庭が貧困状態にあり、子どもを学校に通わせる余裕がありません。
状況は改善しつつあるそうですが、それでも農村部の子どもの6割ほどが小学校を卒業すると、何らかの仕事に就くともいわれています。
ポトシ市内の学校で教える エルナン・チャベス先生
「小学校で読み書きと簡単な計算ができるようになると、それ以上は学ばずに露店などの仕事に就く子もたくさんいます」
十分な教育が受けられないことで、次の世代にも貧困が引き継がれてしまう悪循環が起きています。
「もう一度勉強を」家族のために働くネイマールくん 仕事に誇りも
家族のために“人喰い山”で働き始めたネイマールくん。一人前の鉱山労働者になったら、もう一度勉強を始めたいと考えています。
ネイマールくん(14)
「いまは仕事を頑張るときです。でも将来は夜間学校に行って勉強しようと思っています」
学校に通う同じ年代の子どもを見ると、落ち着かない気持ちになるそうです。
でも、鉱山労働者としての仕事に魅力と誇りも感じています。
ネイマールくん(14)
「疲れる仕事だけど、仲間と助け合えるので楽しいし幸せです。お金を家に持ち帰ると家族も僕のことを誇りに思ってくれるんだ」
ネイマールくんは自分と家族の未来のために、“人喰い山”できょうもトロッコを押しています。
真山さん「“かわいそう”だけではなく“自分ごと”として考えて」
小川彩佳キャスター:
今回の取材をみて、どう感じましたか。
小説家 真山仁さん:
こういう映像を見ると「かわいそう」というのが、第一の感想だと思います。「日本で生まれてよかった」と言うかもしれません。しかし、どこで生まれるかは自分で決められませんから、もしかしたら(自分も)こうなっていた可能性があります。
こうした現状を知ったときに、募金して終わりなのかというと、そうではないと思います。
彼(ネイマールくん)の顔を見ると、非常に生き生きして、確かに(仕事に)誇りを持っています。
ネイマールくんは「まず働く」と言っていて、ある意味でそうだと思う一方で、「まずは勉強をさせたい」と思う我々は何ができるのか考えたいです。まずは自分も彼らを応援できるだけの結果を出さなければいけないでしょう。
自分は自分で頑張ったその先で、ネイマールくんのような子どもたちに、勉強することでインセンティブを上げられるような社会・労働の代わりに勉強で報酬をあげるような社会を作ってあげなければいけません。
そういう意味では、ドキュメンタリーを見て、明日から何をしようと“自分ごと”として考えて欲しいと思います。
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<プロフィール>
真山仁さん
小説家 「ハゲタカ」「ロッキード」など
最新著書に「ロスト7」
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