
世界的なブームとなっているスーパーフード「アサイー」。健康や美容に良いと日本でも若者を中心に人気を集めています。
【写真を見る】あなたのアサイーはどこから? 地球の裏側・アマゾンで見たブームに隠れた“児童労働”の現実と親の葛藤
では、私たちが口にしているアサイーは、どこで、誰が、どのように作っているのでしょうか?その答えを求めて向かったのは、地球の反対側、アマゾンの森でした。
アサイーはどこで作られている?
アサイーと聞くと、ハワイやアメリカの西海岸を思い浮かべる人も多いかもしれません。
しかし、実は最大の生産地は南米ブラジルのアマゾン地域。世界の約9割がブラジルで生産されているとの報告もあります。
ブラジル最大都市、サンパウロから飛行機で3時間半。アマゾンの玄関口からフェリーに1時間乗り、熱帯雨林が生い茂る川沿いの町へ。
まだ薄暗い早朝、ボートに揺られ川を進むと見えてきたのは小さな集落です。
「今日は髪の毛が決まってないんだよね」
少し恥ずかしそうに私たちを迎え入れてくれたのは、アサイー農家の長男、16歳のガブリエルくんです。
父親や叔父と一緒に東京ドーム2個分の敷地でアサイーを栽培しているといいます。
アサイーは川沿いに生息するヤシ科の植物。高さ20メートルを超える細い木の先端に紫色の実をつけます。
この実はほとんどが種で、食べられるのはわずか5%ほど。水に浸けて柔らかくした後、専用の機械で皮と果肉を取り出してペースト状にして輸出されることが多いということです。
ポリフェノールやビタミンを豊富に含むことから「奇跡の果実」「アマゾンのミルク」などといわれています。
収穫はすべて人の手だけで
そんなアサイーの収穫はすべて手作業で行われています。
口にナイフをくわえ、足に巻いた縄だけで細い木に登る。足だけで体重を支えて実がついた枝を切り、手に持って地上に下りる。腐った実を目視で見つけて取り除きながら、かごにもぎ取っていく。
これを1日に何十回も繰り返して、かごをいっぱいにしていきます。
1本の枝は約2キロ。ガブリエルくんは、複数の枝を抱えたまま木を降りたり、時にはそのまま隣の木に乗り移ったりすることも。取材している時にも木が大きくしなり、思わず「危ない!」と口をついて出る場面もありました。
いざ実食! “本当のアサイー”の味は…
地域の人はアサイーをおやつではなく、お米やおかずと一緒にご飯として食べています。
特にキャッサバ芋の粉「ファリーニャ」やタピオカ粉を混ぜ、とろみをつけるのが一般的だそうです。
私も収穫したてのアサイーをいただくことに。
しかし、一口食べて固まりました。まったく甘くないのです。色も質感も日本で食べるアサイーとほぼ同じ。けれども、味は青臭い豆のようです。
砂糖を1杯入れてもまだ食べられず、結局4杯ほど入れると、日本で慣れ親しんだ“アサイーの味”になりました。これまで食べていたアサイーの商品に、どれほど甘味が加えられていたのか気づかされた瞬間でした。
価格は6倍に 地域を支えたブーム
この地域は長らく天然のゴムの採集で生計を立ててきましたが、東南アジアなどが台頭し価格が低迷。
そこで新たな収入源として、30年ほど前にアサイーの栽培に転換。当初は値がつかず、収穫しても捨てる日々が続いたといいます。
転機は15年ほど前。アサイーの栄養価が海外で注目され始め、価格が約30kgで800円ほどに。自治体が農家から買い取り、学校の給食として提供するなど生産を後押ししました。
世界的なブームが加速し、現在は約5000円まで高騰。収穫期(8月〜12月)以外は品薄になるため、9000円を超えることも。アサイーが地域の収入を大きく押し上げ、生活水準が上がったといいます。
子どもが木に登る現実 事故も後を絶たず
一方で、深刻な問題も抱えています。
アサイーの木は細く、体重の軽い子どもが登りやすいため、男の子が木に登って枝を取り、女の子は枝から実をもぐという役割が慣例化しています。
ガブリエルくんも、11歳から木に登って収穫を手伝ってきました。今は毎朝6時から収穫し、午後から学校に通っています。
しかし、木から子どもが落下する事故は後を絶ちません。
下半身をまひする大けがを負った例もあり、海外メディアやアメリカの労働省は、アサイーの収穫作業は危険性の高く「児童労働にあたる」と指摘しています。
「息子には広い世界を」 父が抱える葛藤
ガブリエルくんの父、エレセさんも子どものころからアサイーを収穫してきた一人です。小学校3年生で学校を辞め、病気の父に代わって家計を支えてきたといいます。
「アサイーが高く売れて生活が良くなった。食べてくれる世界中の人に感謝しています」
アサイー人気の今、“取っても取っても間に合わない”状態。しかし、現場は人手不足です。それでもエレセさんは、どんなに忙しくても息子に学校を優先させています。
「息子には多くのことを学んで、いつか自分の道を切り開いて欲しい」
家業を継ぐ以外の選択肢を持てなかった自分のようにはならず、広い世界を見て欲しい。
そんな思いはガブリエルくんにも伝わっています。
芽生えた夢 疲れていても学校へ
ガブリエルくんの部屋には一台のパソコンがあります。父が買ってくれたものだといいます。
「将来は午前中にアサイーを収穫して、午後からパソコンに関する仕事か美容師ができたらいいな」
カブリエルくんは、両親が自分の選択肢を広げようと努力してくれることへの感謝を何度も口にしました。
早朝からの収穫を終えて川で汗を流すと、ガブリエルくんは学校に向かう船に乗り込みます。どんなに疲れていても学校に通うのは、両親の思いに応えたいからです。
対策に乗り出した自治体
「児童労働が行われている」との指摘を受け、自治体も動き始めています。
農家を巡回して、子どもが学校に行かずに働いていないかを確認。違反があれば出荷停止の厳しい措置を講じています。
また、アサイー農家の子どもたちを対象に、写真の撮り方や楽器の演奏を学べるプログラムを実施。家業を手伝うことだけが将来の選択肢ではないことを伝える取り組みを進めています。
私たちの一口の先に何があるのか
SNSには華やかなアサイーボウルの写真があふれています。その1枚1枚を見て、ガブリエルくん一家は「日本や世界の人が楽しんでくれて嬉しい」と目を輝かせました。
アサイーが地域の生活を向上させたのは事実です。
一方で、収穫の現場では今日も、子どもが危険な作業をしている現実があります。もしブームが過ぎたら、一家の暮らしはどうなるのでしょうか。
児童労働が行われていないとしてフェアトレード認証を受けた製品や、売上の一部を児童労働をなくすための取り組みに当てている企業もあります。
アサイーを食べる前に、誰の手で、どのように作られているのかを少しだけ意識してみる。そうして選んだひと口は、アサイーを作る人の未来をより良いものにすることにつながるかもしれません。
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