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SNS発祥の地・米国での「10代のSNS依存」最新事情~初の陪審評決で企業側の責任認定~【調査情報デジタル】

海外
2026-04-25 09:00

3月、アメリカ西部カリフォルニア州の裁判所で、10代のSNS依存をめぐり、運営企業側の責任を認める陪審評決が下された。市民からなる陪審裁判でSNS依存をめぐる判断が示されたのは初めてで、今後、SNSの形が変わる可能性があるとして現地では大きく注目された。背景にはSNS依存の末に子どもが自ら命を絶ったと訴える親たちの悲痛な声がある。SNS発祥の地であるアメリカ。この国における「10代のSNS依存」問題をめぐる現状をJNNロサンゼルス支局の小川健太支局長が報告する。


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「SNS企業は子どもたちの心を貪り食った」

「SNS企業はトロイの木馬のようなものだ。子どもたちの生活に入り込み、扉を開け放ち、その心を貪り食った」。ロリー・ショットさん(64)は怒りを込めて話した。娘のアンナさんは2018年、18歳で自ら命を断った。 


ショットさん一家が暮らしていたのは、アメリカ西部コロラド州の人口300人にも満たない小さな町だ。娯楽が多くはない地域で、アンナさんにせがまれる形で13歳の頃にスマートフォンを買い与えた。友人たちと出かける年ごろになり、緊急時の連絡手段としても使えると考えた。


直後からSNSを利用したいとアンナさんはせがんだ。ロリーさんは、投稿内容に責任を持つよう伝えた上で、母親のフェイスブック・アカウントから投稿することを前提に認めた。アンナさんもそれに納得していたという。 


しかしアンナさんはロリーさんに気付かれないよう、インスタグラムやTikTokなどのSNSアカウントを作成していた。


アンナさんは次第にSNSに執着するようになる。スマホは夜間、キッチンに置いておく決まりだったが、アンナさんは夜中に気づかれないよう持ち出し、再び元の場所に戻すこともあったという。


注意しても直る様子がないことに不安を覚えたロリーさんは、アンナさんのスマホを自分の職場まで持っていくこともあったという。SNSをめぐり親子が衝突する回数も増えていった。


カウンセリングも受けた。当時のカウンセラーは「娘にとってSNSは友人たちと意思疎通する手段の一つだ」と、ロリーさんを諭したという。


その後も口論することはあったというが、比較的、日常は穏やかに過ぎていった。アンナさんは両親の前では明るく振舞っていた。


2018年11月、外出する両親を笑顔で見送った後、アンナさんは自宅で1人、命を断った。


アンナさんが“見せられていた”もの

共有されていた暗証番号を使って、ロリーさんは娘がスマホで何を見ていたのかを知ることができた。


アンナさんは画面に次々と表示される他人の投稿と自分を比較する中で、自信を失っていったとみられるという。残された日記には「他の子のプロフィール写真を見るたびに嫌になる。わたしみたいな不細工を好きになる人なんて現れない」と綴られていた。


ロリーさんは娘の異変に気付けなかった自分を責めた。


後日、アンナさんの友人が教えてくれた。アンナさんはSNSで精神的な問題を抱えた同世代の子どもが精神科病院に入院したという投稿を見ていて、自分の問題を両親に打ち明けるのを恐れていたという。


TikTokの「おすすめ」フィードには自殺を促すようなコンテンツも流れていた。別のユーザーが生配信した自殺の様子を目の当たりにしたこともあったという。


アンナさんは日記に「自ら命を断てば、全ての問題は解決する」と綴っていた。ロリーさんは振り返る。


「娘が『何を投稿しているのか』だけでなく『何を見せられているのか』を心配すべきでした。今の子どもたちはSNS企業に狙われた最初の世代の子どもです。そして私たちは、そうした子どもたちの最初の親です。あまりにも無知でした」


SNS企業を訴える訴訟が2000件超

アメリカではインスタグラムを運営するメタや、YouTubeを運営するグーグルなど、SNS企業を相手取った訴訟が州レベルや連邦レベルで相次いでいる。


原告は当事者や家族のほか、州政府や地元の教育委員会など多岐にわたる。その数は2000件を超えるともいわれ、先述のアンナさんのケースも含まれる。


2026年2月にカリフォルニア州ロサンゼルスで始まった裁判は、こうした一連の訴訟の中で事実上の先行事案と位置づけられており、今後の審理の方向性に影響を与える可能性があるとして注目を集めた。 


この裁判の原告は現在成人している女性だ。6歳の頃にYouTubeを使い始め、9歳でTikTokを利用するようになったという。SNSの利用に依存したことでうつ病を発症したと訴えた。


裁判では、SNSの運営企業がアルゴリズムや無限スクロールなど依存性を高める設計を意図的に導入したとして、損害賠償などを求めた。


これに対し、運営企業側は「依存の原因は家庭環境などにある」「SNSの利用と精神疾患の因果関係は医学的には証明されていない」などと反論した。


なお、当初はTikTokやSnapchatも被告として訴えられていたが、裁判開始直前に和解が成立し、審理の対象から外れている。


SNSの「設計」が争点になった裁判で「責任あり」の陪審評決

今回の裁判で画期的だったのが、SNSの「設計」が争点にされたことだ。


これまでSNS企業は、連邦法の「通信品位法230条」によって一定程度守られてきた。SNSはあくまで「プラットフォーム」であり、利用者が投稿した内容について企業側の責任は問われないという考え方だ。


しかし今回は「投稿内容」ではなく「サービスの設計そのもの」に焦点が当てられ、SNS企業の責任が俎上に載せられた。


裁判ではメタの内部文書も証拠として示された。10代を重要なユーザー層と位置づけ、利用時間を伸ばすことが目的とされた点や、顔や体型を加工する特定の機能について専門家が若者への悪影響を指摘していたことを把握しながら、十分な対策が取られていなかったとする点が追及された。


メタのマーク・ザッカーバーグCEOも出廷し、過去に利用時間を重視する指標が存在していたことを認める一方、現在はそのような目標は設けていないと説明した。「人々は価値のあるものを多く利用する傾向がある」とも付け加えた。 


3月、陪審団は企業側の責任を認める評決を下した。SNSの設計や運営における企業側の過失に加え、サービスの利用に危険が伴う可能性を認識しながら、利用者に対して十分な警告を行っていなかったことも認め、メタとグーグルに対し、合わせて600万ドル、日本円で約9億5000万円の賠償を命じた。


陪審団の判断は、SNS企業の責任をめぐる議論に新たな局面をもたらすものとして、アメリカの主要メディアが一斉に大きく報じた(冒頭の写真)。


原告側の弁護士は「今回の評決は、業界全体に向けて『責任を問う時代が来た』ことを示している」と強調。一方、メタとグーグルは控訴する意向を示している。


10代のSNS利用実態と国や州レベルでの規制の動き

先日、家族で地元のディズニーランドを訪れた際に印象的な光景を目にした。アトラクションの列で、我々の前には中学生とみられる男女6人のグループが並んでいた。1時間ほどの待ち時間の間、ほとんど会話をすることもなく、投稿用とみられるグループ動画を撮影し、そのほかの時間はそれぞれがスマートフォンのSNSに目を落としていた。


改めて言うまでもないが、SNSはアメリカに限らず、10代にとって日常生活の一部となっている。


アメリカのピュー・リサーチセンターの調査によれば、アメリカの10代の95%が少なくとも一つのSNSを利用している。そして、およそ半数が「ほぼ常にオンライン状態」と回答している。


一方で、SNS利用に対する認識は一様ではない。約7割が「SNSは友人とのつながりを感じさせてくれる」と回答する一方で、約2割は「SNSの利用が自分のメンタルヘルスに悪影響を与えている」と答えている。SNSのリスクを認識しながらも、利用を続けている実態がうかがえる。


適度な利用であれば社会的なつながりを広げ、孤立感を和らげる効果があるとする研究もある。しかし、2023年にはアメリカ公衆衛生の政策トップが、SNSが若者の精神的健康に与える影響について警告する勧告書を公表し、議会やIT企業に対して対策を求めている。


こうした動きを背景に連邦議会では、SNS企業に10代への有害なコンテンツへの対策を求める法案(Kids Online Safety Act)が審議されている。上院では可決されたものの、下院では民主党と共和党による党派対立を背景に、通過する見通しはたっていない。


州独自で規制を目指す動きもある。現地メディアによると、少なくとも17の州で10代のSNS利用に関する法律が成立しているが、表現の自由の侵害だとする業界団体などの訴えがあり、多くが一時差し止められている。


今回の評決がSNS企業側の対応を加速させるか

行政による対策が効果的に進まない中、SNS企業側の責任を認めた今回の評決は、企業側に何らかの対応を迫る点で注目される。


SNS企業もこれまで10代の利用に関して対策を進めてきた。メタやTikTokなどは、10代向けの利用時間管理機能や保護者向けの監視ツールなどを導入している。


ただ、今回の司法判断には「現在の状況は許容できない」というメッセージが含まれていると受け止める向きもある。


すでに述べたように、同様の訴訟は全米で2000件を超えている。サンタクララ大学ロースクールのエリック・ゴールドマン教授は「今回、原告側が示した基本的な主張が陪審員に受け入れられた。ほかの裁判でも同じような結論になる可能性は十分ある」と指摘する。今回の判断が波及すれば損害賠償額は莫大となる可能性がある。 


今回の裁判はあくまで一審の評決であり、最終的な司法判断が確定するまでには数年かかるとみられる。ただ、ゴールドマン教授は「現在の状況が今後も続くとは考えにくい」と述べ、最終的な司法判断を待たずに企業側がSNSの設計を変更する可能性が高いとの見方を示した。


一方で設計をどの程度変更するのか、その線引きは難しい。


ゴールドマン教授は今回の評決について「今回、陪審は個別の被害事例を見ながら、SNS全体のあり方に影響する判断を下した形になり、議論に偏りが生じた可能性がある」と話す。


もちろん、子どもたちの安全が重視されるべきであるのは言うまでもない。その一方で、SNSで事業展開し生計を立てる人もいる。仮にアルゴリズムの設計が変更されるとなれば、大きな影響が及ぶ可能性がある。


現地メディアも専門家の話として、これまでSNSを通じてアイデンティティーを確立してきた性的マイノリティー層などが、規制によって影響を受けるのではないかと懸念する声を伝えている。対面よりもオンラインの方が自己表現をしやすいと感じる子どもがいるのも事実だ。


繰り返しになるが、今回の評決はまだ一審の判断に過ぎない。しかし、SNS企業の設計や運営のあり方にまで責任が及び得ることを示したことで、業界のビジネスモデルに影響を与える可能性がある。SNSと社会の関係が転換点に差しかかる中、今後の動向に注目していきたい。


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〈執筆者略歴〉
小川 健太(おがわ・けんた)
2009年にCBC(中部日本放送)に入社。
アナウンサーとして報道番組のフィールドキャスターを担当したあと、報道部に異動。記者として愛知県警記者クラブや、司法キャップ、愛知県政キャップなどを歴任し、2023年8月からJNNロサンゼルス支局長(現職)。


【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。


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