
2026年8月16日、中国当局が東シナ海での漁を解禁し、現地メディアによると、福建省から約8000隻の漁船が一斉に出港した。
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16年8月には約300隻の漁船が沖縄県・尖閣諸島周辺に押し寄せ、緊張が一気に高まった。漁師や退役軍人で構成される「海上民兵」が乗船していたとの指摘もある。
それ以降目立った動きは確認されていなかったが、高市総理の“台湾有事に関する答弁”をきっかけに日中関係が悪化するなか、今年漁船は尖閣諸島に向かったのか。背景にある中国の思惑とは一体何なのか。中国の安全保障政策が専門の防衛省防衛研究所の増田雅之・中国研究室長に話を聞いた。
「尖閣諸島に行きますか?」緊張高まる東シナ海で“漁解禁”
26年に入り、中国の東シナ海での動きは不穏だ。
「ニューヨーク・タイムズ」は1月、約1400隻の中国漁船が東シナ海で300キロメートル以上にわたって並び「海上の障壁」をつくったと報道。中国が海上民兵を強化し、有事の際に航路をふさぎ敵の軍事作戦や補給活動を困難にする可能性があるとの専門家の分析を伝えた。
今年7月には中国国営の中国国際テレビ(CGTN)が尖閣諸島は「中国の領土だ」と主張するドキュメンタリーを放送、日本に対して更に強い圧力をかけている。
こうしたなか迎えた東シナ海の漁解禁。中国側の出方に注目が集まった。
中国メディアによると、地元当局は尖閣諸島周辺などを念頭に「敏感な海域での漁船の管理を強化する」と、取り締まる方針を示した。
複数の漁師は取材に対し「尖閣諸島には行かない。当局が船の位置をモニタリングしており島に近付くと通知が来る」「決められた範囲の中で漁をしている」などと答えた。彼らの実際の行動は確かめられていないが、「尖閣行き」には後ろ向きな回答だった。
高市政権の安保戦略に「強い警戒感」中国の思惑は
Q.取り締まりを強化する地元当局の姿勢をどう見ますか?
増田雅之 中国研究室長
中国海警局は2023年以降、法執行プロセスの内規を整備し、尖閣諸島周辺でほぼ毎日パトロールを実行しています。中国はこうしたモデルを制度的に作り上げてきました。さらに、最近は日中関係が悪化していて中国が新たな手を打つのではないかという懸念が日本で高まっています。
一方、中国は準備をすることと実際に手を打つかどうかということを分けて考えているのだと思います。これは、レアアースや軍民両用品の輸出管理などでも当てはまります。様々なエスカレーションを可能にする態勢を準備して日本側の警戒感や恐怖心を煽りつつも、中国共産党は当局が管理する形でのシナリオの展開を求めています。今のところ準備した態勢を完全に実行に移していません。
中国は現在の高市政権の安全保障戦略を強い警戒感を持って見ているのだと思います。
加えて、日本がアメリカを巻き込み、日米同盟の抑止力や対処力を強化する展開も中国は想定しています。したがって、中国が漁船の動きや海上民兵を示唆する動き、海警局や軍の動きを一方的にエスカレートさせることによって、新たな日本・アメリカの対応を招く可能性も考えていると思います。中国としては、対中抑止システムとしての日米同盟のさらなる強化に繋がることは避けたいと思っているのではないでしょうか。
16年に漁船団が尖閣諸島周辺の海域に来ましたが、それ以降は今年も含め、当局が管理をしながら政治的なメッセージを日本側に伝えるということだと思います。
「民兵部隊の建設」掲げる習政権 漁船団の動員訓練か
Q.昨今、中国の漁船団に注目が集まっています。海上民兵が含まれるとの指摘や海上民兵が東シナ海で大規模訓練を行っているとの指摘があります。
増田雅之 中国研究室長
態勢を整備しているのだと思います。漁船は中国版GPS=北斗を積んでいます。平時と有事では動員に際する指揮命令系統が異なりますが、北斗システムによって動員をかけることができるか確認しているのだと思います。日本に対して様々なエスカレーションの可能性を想起させ日本の更なる一歩を止めたいという政治的なシグナルが含まれていると考えています。
Q.中国で海上民兵(漁船団)とはどのような位置づけなのでしょうか?
増田雅之 中国研究室長
習近平政権は「民兵部隊建設」というキーワードをかなり強く打ち出してきました。南シナ海では海上民兵による法執行活動への支援など「軍・警・民」の連携が進んでいます。基本的には海上民兵を含む漁船団を前線に置いて、その後ろに法執行機関である海警局が控え、一番後ろに軍隊が鎮座しています。こうした3層構造は南シナ海でよくみられるパターンです。東シナ海でも出現する可能性があります。
ただ、南シナ海と比べ東シナ海では米軍の強いプレッシャーが存在しています。日米同盟の協力関係はトランプ政権になっても維持されているので、中国が東シナ海でどこまでグレーゾーンの戦術を強めていくのか、確固たる判断はできていないと思います。
習主席は海洋権益や主権の争い「譲歩しない」
Q.習近平国家主席は領土問題を重視する考えを示しています。
増田雅之 中国研究室長
海洋をめぐる権益・主権の争いについて習近平国家主席は2012年の総書記就任当初から「譲歩しない」ということを繰り返し述べてきました。今年の春に出版された中国共産党の理論誌の中でも断固として海洋の権益を守るというメッセージを習主席の名前で出しています。ですから、この問題について「中国が譲歩する可能性があると相手に感じさせない」というのが基本的な政策のラインなのでしょう。
海上法執行機関である海警局を中央軍事委員会の指揮命令系統の下に置いたことも、習主席自らが指揮するという意志の表れだと思います。
Q.習近平政権にとって尖閣諸島はどのような位置付けなのでしょうか?
増田雅之 中国研究室長
中国は「尖閣諸島は日本に奪われた」と主張していますが、それは「台湾の付属島しょ」としての尖閣諸島という位置付けが中国側にはあります。中国は台湾の分裂阻止や将来的な統一に向けた軍事力の強化、グレーゾーン戦術の強化を進めていますが、尖閣諸島への対応はその一環として位置付けられている可能性があります。
中国は太平洋に出るために九州沖から沖縄、台湾、フィリピンを結ぶ第1列島線を突破しなければならないと考えています。そこで、突破できる場所、脆弱な場所を探しているのだろうと思います。中国軍が宮古海峡を通過して太平洋に進出する動きが活発化していますが、日本が中国軍の動向をチェックしています。台湾の南にあるバシー海峡を含め突破できるポイントを多様化させるという考え方が中国軍にはあるのだと考えています。尖閣諸島の軍事拠点化は難しいですが、尖閣諸島や台湾周辺での軍事オペレーションの常態化、グレーゾーンの強化によって太平洋側に展開する傾向が強まっています。
“主権に強い意志”習主席との対話がカギ
Q.東シナ海で中国の動きが活発化するなか日本としてはどのように対応すべきだと考えますか。
増田雅之 中国研究室長
現在は日本に対してプレッシャーをかけ、政治的な強いメッセージを送るために海警局や海上民兵も含めた態勢の整備をしていると考えています。これを実行に移すかどうかは中国側にとって極めて大きな判断です。
私たちは中国が実行に移さないようにどうすべきかを考えなければなりません。日本側の弱さが見えれば中国はそこを突いてくるでしょう。法制度を含めて態勢が整っているのだから突破すべきだという論調が中国で高まる可能性もあると思います。
日本は尖閣諸島周辺に限らず日本の支配が及んでいる海域に対し、自衛隊の警戒監視活動や海上保安庁による警備に加えて、科学調査なども行うことで日本の「有効な支配」を多面的に見せる必要があります。
中国の態勢整備は、海洋権益・主権に対する強い意志を持つとみられる習主席の大きな意向に沿った形で行われていると思いますが、実行に移すかどうかも習主席の判断によるところが大きいわけです。ですから、日本政府が中国の最高指導部、とりわけ習主席といかにコミュニケーションをとっていくかということもリスクの管理という点ではとても大事なことです。
増田雅之 氏
防衛省防衛研究所 中国研究室長
中国で開催される国際会議にも出席
中国側の専門家と議論を交わす機会も
聞き手 JNN北京支局 松尾一志
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