政府は、備蓄米の放出に向けた入札を10日に開始しました。一方、値段の方はというと…以前の価格に戻るような気配はありません。ナゼなのでしょうか。コメ農家を取材すると『構造的な問題』が見えてきました。
【写真を見る】「米価が上がろうが農家はほとんどメリットがない」コメ農家の嘆き
農機具が高値で農家を諦める人も…コメ生産増えない“ある事情”
茨城県つくば市で農業法人を営む海老澤信之さん。
コメの価格高騰が続く中、今年のコメをいち早く買い付けようと、普段は買い付けに来ない業者からも電話が殺到しているといいます。
――新規客は一気に増えた?
夢田ファーム 海老澤信之 代表取締役
「近年より多いですね、問い合わせが。どこも『令和7年度産のお米をちょっと売ってほしい』という感じです」
田植えが始まっていない中で、このような電話がかかってくるのは初めてのことだといいます。
東京ドーム約25個分、120ヘクタールの広大な農地を所有する海老澤さん。このうち40ヘクタールでは、これまで飼料用のコメを生産していましたが、今年はすべての田んぼで「主食用のコメ」を生産する方針に切り替えました。
近年、農機具が値を張るため、農家を諦める人も増えているといいます。
夢田ファーム 海老澤信之 代表取締役
「農機具はやっぱり高いので、例えば“田植え機壊れたらやめよう”とか、高齢のおじいちゃんが多いですね」
長引くコメの高騰を受け、政府は備蓄米を放出する方針を決定。
コメの産地ではコメを増産する計画ですが、取材を進めると、産地には簡単に面積を増やせない、ある事情がありました。
後継者不足に、コメ価格は上昇しても全然儲からないコメ農家
新潟県南魚沼市で魚沼産コシヒカリを作る高村良一さん(67)。
全国で最もコメの収穫量が多い新潟県は、今年の目標生産量を去年より3.5%多い約56万トンに設定。
高村さんの田んぼでは、多くを主食用として生産しています。さらに生産量を増やすには田んぼを増やす必要がありますが、今年の増産分は1ヘクタール分にとどめました。
コメ農家 高村良一さん
「うちは1回の水の確認で37キロ走らないと、全部の田んぼを見れない。1日70キロは走らないといけない」
栽培面積が広いうえに田んぼは各地に散らばっていて、これだけの栽培面積となったのは、作り手がいなくなった田んぼを受け入れてきたからだといいます。
さらに、コメの価格上昇に伴って、農家の収入が増えているわけではないといいます。
コメ農家 高村さん
「農家は24年秋にみんなに販売していますので、そのあと米価が上がろうが農家はほとんどメリットがないというのが現実です。農家が全然儲かっていない状態です」
コメ農家の数は、2020年には約70万戸となり、50年で7分の1に減少しました。
加えて、コメ農家の平均年齢は全国で68.9歳。高齢化と後継者不足などで農家離れに拍車がかかっています。
農水大臣「コメはある」は本当か?「価格上昇は我慢して、後継者を増やさないと」
藤森祥平キャスター:
主食米については需要量も生産量も右肩下がりになっており、2023年は猛暑で生産量が661万トンと落ち込みました。一方、需要量が705万トンと購入する側が40万トン以上も上回っていて、コメ不足が指摘されています。
小川彩佳キャスター:
藻谷さんは「農業経営」の講演を行っているということですが、コメ不足には構造的な問題があると感じているそうですね。
日本総研主席研究員 藻谷浩介さん:
2月に、あるコメ処の県で農業関係者に講演をしたら、実感として生産量が落ちている、つまり誰かが隠しているというよりも、「そもそも生産が減っているので値上がりしているんだ」と、県の関係者や農家は口々に言っていました。
藤森キャスター:
しかし、江藤農水大臣は「コメはある」と言っています。
news23ジャーナリスト片山記者は、▼コメが足りていないというと国民は不安になり、買い占めが起きるおそれがある、▼今でも続いている事実上の減反政策の失敗を、国が認めることになるため、「コメはある」と言い張っているのではないかとしています。
日本総研主席研究員 藻谷さん:
そもそも、日本のコメ農家の平均年齢は70歳に近いです。そして、採算がとれず、ほとんど儲からない、農機具も高いということで後継者がいません。
団塊の世代を中心にどんどん退職していくと、今まで自分で作っていた分を今度は買うようになりますから、需要は増えるけれども生産は落ちるという、まさにグラフ通りのようなことが起きます。
それを放置してきたことの責任を認めず「誰かが買い占めている」と政府が言ってしまうのはいけません。言ってしまって、引っ込みがつかなくなっているのだと思います。
「実はなかった」と素直に誤りを認め、生産者の後を誰かが継げるだけ、コメの値段を上げていかなければいけないということに気が付かなくてはいけないと思います。
藤森キャスター:
今後、どうすべきでしょうか。
日本総研主席研究員 藻谷さん:
価格が上がって困るといいますが、パンや麦、野菜に比べて非常に安いです。
今、日本の農業生産約9兆円のうち、米は6分の1以下になっています。もう少しコメの値段が上がらないと、生産者は増えません。ある程度、価格が上がるのを我慢して、後継者を増やして効率を上げていくという方向に舵を切らなくてはいけないと思います。
そうでないと、食料安全保障ができなくなりコメも全部輸入品になってしまいます。そうなると、いよいよ日本の将来は危うくなっていくと思います。
コメ価格安定に必要なことについて「みんなの声」は
NEWS DIGアプリでは『コメ価格安定に必要なこと』について「みんなの声」を募集しました。
Q.コメの価格安定のために何が一番必要?
「備蓄米の活用を進める」…5.7%
「輸入するコメの量を増やす」…3.9%
「生産量を調整する政策の廃止」…48.0%
「コメの価格を国が決める」…7.3%
「農家への支援を強化」…32.4%
「その他・わからない」…2.7%
※3月11日午後11時18分時点
※統計学的手法に基づく世論調査ではありません
※動画内で紹介したアンケートは12日午前8時で終了しました。
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<プロフィール>
藻谷浩介さん
日本総研主席研究員 著書「デフレの正体」
「農業経営」についても多数講演
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