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コメ3000円台への引き下げが政権公約に、随意契約のインパクトとは【播摩卓士の経済コラム】

経済
2025-05-24 14:00

「国民感情を逆なでするにもほどがある」発言で、江藤農水大臣が辞任に追い込まれました。「私はコメを買ったことはありません」との発言に込められた、いわば「他人事」感こそが、一連のコメ問題の「核心」です。昨年夏以来、政府も、農協も、対策に取り組んでいると繰り返しますが、コメ不足も、価格高騰も全く解消されず、「他人事」としか思えない対応に終始しました。その挙句の大臣辞任で、石破政権は、コメ価格引き下げを、事実上の公約にするところまで追い込まれました。


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5キロ3000円台と言い切った石破総理

石破総理大臣は、いったんは江藤氏の続投を決めながら、野党の攻勢を受けて、わずか1日で、事実上の更迭に踏み切りました。その日、石破総理は国会で、コメの価格について「3000円台でなければならない。4000円台と言うようなことがあってはならない。1日も早く実現したい」と、具体的な引き下げ目標に踏み込みました。さらに、実現できれば責任を取るのかと問われ、「責任を取って行かなければならない」と言い切りました。市場で決まるべき価格に言及するのは極めて異例のことです。コメ価格の少なくとも3000円台への引き下げが政権公約になった瞬間でした。


最新のコメの平均店頭価格は5キロ4268円と、前の週より再び上昇しています。4月消費者物価でもコメ類は前年比で98.4%と過去最大の上昇率です。1年前の店頭価格は2108円なので、3000円だと言ってもまだまだ大きな値上がりに違いなく、「3900円でいいとでも思っているのか」と言った不満の声も聞かれるほどです。


備蓄米放出に随意契約を導入へ

総理発言を受けて、新たに任命された小泉農水大臣は、22日、予定されていた備蓄米の入札を中止して、随意契約を導入する方針を表明しました。随意契約にして、消費者に近い小売業者などに、より安い価格で直接、売り渡そうというものです。


これまでの放出がうまくいかなかったワケ

これまでの備蓄米放出は、大手の集荷業者を対象に一般競争入札で行われてきました。問題の第一は、対象が小売りや卸ではなく集荷業者で、そのほとんどがJA全農だったことです。コメは農家から、集荷業者、卸業者、そして小売業者へと流すのが伝統的な流通ルートです。集荷業者に放出したのでは、店頭に流れるまでに時間がかかる上、流通過程でその都度、輸送も含めた経費が次々上乗せされてしまいます。


また、競争入札は、高い価格を提示した集荷業者から売り渡して行くので、価格の下落が限定的になることも問題でした。競争入札と言う方法は、公平で、国がなるべく損をしないやり方ですが、自民党の小野寺政調会長からも「こんな時に国が儲けてどうするんだ」と批判されていました。


案の定、これまで31万トンもの備蓄米が放出されたものの、小売り段階までたどり着いたのは、4月末時点で放出量の1割に留まり、価格押し下げ効果もほとんどありませんでした。備蓄米の「目詰まり」は明白でした。


小泉大臣「備蓄米を5キロ2000円で」

就任翌日の23日、小泉農水大臣は、随意契約によって「6月上旬にも備蓄米を5キロ2000円台で店頭に並べたい」と意向を明らかにしました。その上で。楽天の三木谷社長にも面会、協力を要請し、随意契約の対象に通信販売事業者も含める方針を示しました。さらに同じ日の夜には、「2000円台を2000円に」と変更するスピードぶりです。随意契約で備蓄米が大手の流通業者や通販業者に大量に放出されれば、かなりのインパクトがあるでしょう。


というのも、伝統的な流通ルートの事業者には、高値で仕入れた今の在庫を、安く売ろうというインセンティブは働かないからです。市場価格全体を下げるためには、「今のままの値段では、在庫が売れない」と各事業者が判断するような状況を作らなければなりません。


現状を全体として見れば、生産から消費に至る、あらゆる段階に、意図はともかく、コメの値上がりを前提にした、在庫や滞留が存在していると見るのが自然です。これ以上持っていても仕方がないと参加者に思わせる状況を、人為的に作らない限り、コメは出て来ず、価格も下落に転じないと考えるのが普通です。備蓄米の放出方法を根本的に変えることで、そうした状況を作ることは、挑戦する価値のある政策だと思います。


コメ「全量管理」への過信を改めよ

一方で、流通段階の「目詰まり」はあるにしても、そもそも「コメが足りていない」という事実にも、向き合う必要がありそうです。要は農水省が把握している推計生産量と、実際の流通量に乖離があるのではないかと疑念です。


政府のコメの生産量は、全量を調査しているのではなく、サンプル調査です。調査員の減少など長年の予算削減もあって、需給に関する調査の正確性が著しく低下している可能性があります。コメが足りないのなら、生産者の意欲を通して、増産に転じるのは当然です。


コメ政策は、長らくコメの価格維持が目標で、そのために生産を調整するという枠組みで行われてきました。つまり、政府がコメの生産・需要量を把握し、管理できるという前提なのです。コメの「全量管理」こそが、農水省のいわば「存在意義」であり、自負でもありました。しかし、流通の多様化もあって、もはや全量管理などできないことが白日の下にさらされたのが、今回のコメ騒動でした。


コメの全量管理などという「過信」を改め、生産者の創意と市場の機能を尊重したコメ政策に転換することが、価格引き下げの後に来る、「本丸」の課題だと言えるでしょう。


播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)


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