E START

E START トップページ > 経済 > ニュース > 15%?15%上乗せ? 「トランプ関税」発動…日米の認識の“ズレ”に醤油輸出業者は憤り 合意文書なしの「あいまい戦略」裏目に?【news23】

15%?15%上乗せ? 「トランプ関税」発動…日米の認識の“ズレ”に醤油輸出業者は憤り 合意文書なしの「あいまい戦略」裏目に?【news23】

経済
2025-08-08 15:50

アメリカのトランプ大統領が世界に課した“相互関税”が7日午後1時すぎに発動されました。しかし、その関税をめぐり、日米間でこの認識にズレが生じていました。輸出業者は「子どものケンカのよう」と怒りをにじませました。


【写真で見る】赤沢大臣がSNSで投稿したApple・ティムクックCEOとの写真


「言った言わない子どものケンカ」“トランプ関税”日米にズレ

埼玉県の老舗しょうゆメーカー「笛木醤油」。度重なる混乱に憤っていました。


笛木醤油 笛木小春 常務
「日本政府何やってるんだっていう、赤沢大臣ももちろん頑張ってくれていると思うんですけど。結局大事なところちゃんと詰めてなかったのかなって」


相互関税発動日の8月7日、笛木常務が怒りをにじませたのが、浮き彫りになった、“日米のズレ”です。


政府はこれまで、日米合意によって従来の関税が15%未満の品目については「15%に引き上げられる」と説明してきました。


しかし、自民党の小野寺政調会長は…


自民党 小野寺五典 政調会長
「通常の関税に加えて15%が上乗せされているというのが、今の状況であります」


実際に発動された関税は「15%の上乗せ」。醤油は3%だったため、18%に引き上げられたのです。


笛木醤油 笛木小春 常務
「子どもの喧嘩みたいですよね、言った言わないみたいな感じで。誰に聞けばいいのかという不安と、『こうなりましたよ』といってもそれを信じていいのかなっていうのが、二転三転してしまうと、何も信用できない中で、輸出をどれだけ注力していくべきなのか、不安と葛藤がありますね」


すでに商談などに影響が出ているという笛木さん。それに加えての“上乗せ”に…


笛木醤油 笛木小春 常務
「少しずつ人脈とかパイプとかができてきた中で、本当に関税っていう冷や水がどばっとかかってきたような感じですね」
「数%でも上がるのは非常に大きい打撃だなと思っています」
「大事なことはSNSで勝手に上がるっていうのが、そんなやり方、許しちゃダメですよね」


牛肉の関税は26%→41% 日本の「説明不足」

深刻な打撃は「和牛」でも。霜降りの甘い脂が特徴で、アメリカを含めて世界で人気を博す「常陸牛」。


茨城県常陸牛振興協会 谷口勇 事務局長
「私はね、26.4%で決定すればいいなと思っていました。もう本当に困ったなという思いですね」


牛肉の関税率は、これまで26.4%でした。
日本の説明では、醤油のように従来の関税率が15%未満の品目は、15%に引き上げられる一方で、牛肉はすでに15%を超えているため、26.4%のまま据え置かれるということでした。


しかし、牛肉も15%上乗せとなったため、一気に41.4%まで跳ね上がってしまったのです。


茨城県常陸牛振興協会 谷口事務局長
「元の関税率(26.4%)に戻るのかなと思っておりましたけれども、それがぬか喜びになりそうな感じもあるので、41%超えちゃうんだなと、そうなると大変だなという思いがあります」


“日米のズレ”原因は合意文書なし?

振り返れば、トランプ関税に振り回された4か月でした。4月、「すべての国に10%の関税を課す」と宣言したトランプ氏。


石破茂総理(7月9日)
「これは国益をかけた闘いです。なめられてたまるか」


交渉を繰り返すこと8回。先月、日米がようやく合意しました。


赤沢亮正 経済再生担当大臣
「25%まで引き上げられるとされていた日本の関税率。15%にとどめることができました」


ただ、実は当初から懸念されていたことがありました。合意文書が交わされていなかったのです。


立憲民主党 野田佳彦代表
「トランプ政権ですよ 。(合意)文書も作らなかったらどんどん拡大解釈をして、日本はボラれ続けるんじゃないですか」


石破総理
「文書を作ることによって、関税の引き下げが遅れることを私どもは一番恐れています」


8月7日夜、石破総理は…


石破総理
「日米間に齟齬はないということは米側と確認をいたしているところです。すでに適用が開始された大統領令を修正する措置を直ちにとるように、米側に強く求めているところであります」


訪米中の赤沢大臣は…


赤沢大臣のXより
「米国商務省にラトちゃんを訪ねました」


ラトニック商務長官やアップルのティム・クックCEOと笑顔で写った写真を投稿していました。


なぜズレが生じてしまったのでしょうか?


ワシントン支局 涌井文晶記者
「実際にその文書の形で大統領令ですとか、税関当局の書類という形に落とし込む、事務レベルでやっていくというところで、何らかその意思疎通がうまくいかなかったのか、あるいは何かハイレベルの意思が働いたのか、この辺はちょっと明らかではありませんが、そこで何か違いが起こってしまったということは間違いないと言えると思います」


米国内の消費者の負担増 大人気MATCHAに関税の影?

関税引き上げに伴う輸入品の値上がりは、アメリカ国内の消費者の負担増につながりかねません。


ニューヨークで日本の食材などを扱う、スーパーでは…


スーパー「ダイノブ」 河内武彦さん
「ドリンク類は全部上がってますね。日本から来ているドリンク類」


4月以降、日本産の多くの商品の仕入れ値が1割から2割ほど上昇。その分を価格に転嫁してもいまのところ“客足は鈍っていない”といいますが、「15%」の相互関税の影響については…


スーパー「ダイノブ」 河内さん
「日本のお客様は、日本の値段をご存じなのでやはり影響が…。『これこんなにするの』って考える方が多いですね」


日本人客
「1週間前まで日本にいたので、改めて本当に日本は安いなと思いました。アンテナ張って日本人のコミュニティに聞いて安いもの探して生活しなきゃなって感じです」


アメリカで大人気になっているこの輸入品も、関税の影響を免れられないかもしれません。


記者
「多くの人で賑わっているカフェですが、抹茶を召し上がっている方が多いです」


ニューヨークのこちらのカフェでは、愛知県から輸入した抹茶を使ったラテなどが人気で、中でもシュークリームは1日500個以上売れるといいます。


ただ人気ゆえの品薄で仕入れ値は4倍近くに高騰。そこに“関税が追い打ちをかけるのでは”と店は懸念しています。


この状況に抹茶ファンのニューヨーカーは…


お客さん
「関係ない。それでも抹茶を飲み続けます。他の物だって全部高くなってるし」


日本の“あいまい戦略”が裏目に…?

小川彩佳キャスター:
“日米のズレ”をおさらいします。日本は15%未満の品目については15%、それ以上はもう据え置きという認識でした。一方で、アメリカは全てプラス15%上乗せという認識でした。非常に大きく異なるため、驚きましたが、なぜこの“ズレ”が生じてしまったのでしょうか。


23ジャーナリスト 片山薫さん:
実は、1週間ぐらい前に日本政府もこの“日米のズレ”に気づいたそうです。これはただ「事務的なミスだろう」と考え、修正をお願いしていたようです。しかし、その“修正”がされないままきてしまい、非常に危機感が高まっているんですけれど、元々は閣僚間で確かに合意したそうです。


ただ、アメリカ政府内の組織の中で認識の“ズレ”があるまま、今日に至ってしまい結構深刻な問題じゃないかと、日本政府も受け止めています。


実は、根本的には日本にも課題があると思います。今回、日本は“あいまい戦略”をとって、合意文書のないスピード合意を目指したんですね。合意文書なしでもいいから、まずはトランプさんと握手しようと決めたのですが、この時点で文書を作らなかったことが尾を引いてるのかなと思います。


藤森祥平キャスター:
政府の言い分としては、文書を作るのには時間がまたさらにかかっちゃうし、その間にまた何か新しいことを吹っかけられちゃうんじゃないかという懸念もあると言っていましたね。


片山さん:
そうですね。ただ、実際にはこれで“ズレ”が出てきたので、この後に問題が起きてくるというのは見えてきました。


藤森キャスター:
また一方で、日本が急いで対応したいというのが自動車関税の方です。現在かかっている27.5%を15%に引き下げることで合意をしたことになっています。ただ、いつ適用されるかが決まっていません。


8月7日、トヨタ自動車は、関税の影響で、1年間で利益が1兆4000億円押し下げられるという見通しを出しました。これはいつですか。


片山さん:
これがなかなか見えてなくてですね、関係者の中でも1か月、あるいは数か月かかるかもしれないという見方も出ています。一方で、トヨタ含め自動車各社の数字が、15%には下がるという前提で計算しているものなので、これ以上伸びるとさらに損害が増えるということです。


日米関税“15%上乗せ” 既成事実化の可能性も…

小川キャスター:
違いがもう既に出てきているという中で、中室さんは、日本のとった“あいまい戦略”についてはどうお考えですか。


中室牧子さん:
8月4日の衆院予算委員会で赤沢大臣は、今回の合意について国際約束なのかと問われて、「法的拘束力のある国際約束ではない」とおっしゃっているんですよね。これは文章にする、あるいは国会で審議をするとなると、どうしても時間がかかりますので、それよりは既に損害が出ている企業を救済するために、スピードを優先したということなんだろうと思います。


今から考えればその判断が正しかったのかという議論はあるかもしれませんが、結果論ということなのではないかと思います。もう一点重要なのは、その米国側が公表している官報の文章です。この文章を見ると、「15%を上限とする」という日本政府が日本に適用されるとしてきた関税の形態について合致しているものがあります。それは実は、欧州については適用されると書いてあるのですが、日本については言及されていません。


官報の中には付表が付いていて、そこでは日本について言及されているんですけれども、そこでは該当する品目について、「関税を15%上乗せ」というふうにはっきり書いてあるんですよね。


これは果たしてアメリカの事務的なミスなのか。あるいは日本政府の側に何らかの誤解があったのかは2、3日中に明らかになってくるだろうと思いますので、まずはそれをしっかり見極めるということが重要ではないかなと思いますね。


小川キャスター:
それだけアメリカ側の官報にはっきり書いてあるとなりますと、完全に既成事実化していく、事実であるかのように広がっていくということになってしまいますよね。


日米間でさらなる問題も…?“80兆円の投資” 認識の“ズレ”の恐れ

片山さん:
そうですね。今、ここをなんとかしようと赤沢大臣が現地で交渉・協議していると思うんですけれども…


また、トランプさんとの間にもう一つの問題が出てくるかなと思います。実は、日本側はプレゼントとして80兆円の投資をアメリカにするという約束をしています。


この件について、トランプさんは非常に喜んでいるのですが、実際に中身を見てみると、お金を出せるものは、あまり日本側は用意していないんですよ。


ただトランプさんは、80兆円手に入ると、契約金のように決まったもので、アメリカが好きに使えるお金だというふうに考えています。これが今後、火種になりそうです。


例えば、8月7日、赤沢大臣がSNSで投稿したAppleのCEOティムクックさんとの写真です。たまたま居合わせただけかもしれませんが、この日、Appleは14兆円の投資をアメリカにするというふうに発表しています。今後こういうお金の一部を日本側が投資してくれないか融資してくれないかって話になるかもしれないということです。


これが80兆円分、様々な議論がされるとなると、日本がどこまでやっていいのかは今後結構議論になるのではないかなと思います。


藤森キャスター:
これは、日本はどういうつもりなんでしょうか。


片山さん:
基本的には貸すつもりです。お金を直接出すことはそれほど多くはないと踏んでいるんですが、トランプさんはその気なので、どこまで日本はお金を出すのか、本当に日本のためになるのかという議論がこれから出てくるのではないかなと思います。


藤森キャスター:
ラトちゃんとか言ってる場合じゃない気もするんですけど…。


中室さん:
投資の中身は、わからないところもあるんですけれども、メリットがないわけではないと思います。企業がその事業の拠点を築く、そうした企業が米国内で地位を強化できるというようないいところはあると思うのですが、投資である以上、必ず利益が出るか否かはわかりません。また、国内経済にどの程度波及効果があるかという点も今後注目していかないといけないのではないかと思いますね。


小川キャスター:
政治への影響、石破政権にも影響していくことになります。


========
<プロフィール>
片山薫 記者
元経済部筆頭デスク
財務省や経産省、農水省などを担当

中室牧子さん
教育経済学者
教育をデータで分析
著書「科学的根拠で子育て」


エアコン「1℃下げる」OR「風量を強にする」どっちが節電?「除湿」はいつ使う?賢いエアコンの使い方【ひるおび】
スマホのバッテリーを長持ちさせるコツは?意外と知らない“スマホ充電の落とし穴”を専門家が解説【ひるおび】
「パクされて自撮りを…」少年が初めて明かした「子どもキャンプの性被害」 審議進む日本版DBS “性暴力は許さない”姿勢や対策“見える化”し共有を【news23】


情報提供元:TBS NEWS DIG Powered by JNN

ページの先頭へ