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薄い・軽い・折り曲げOK「夢の太陽電池」 “日本発”技術でスマホもEVも「充電いらず」に?【Bizスクエア】

経済
2025-10-08 07:30

再エネの切り札となる夢のシート「ペロブスカイト太陽電池」。日本発の技術ながら、中国での開発が勢いを増している。そんな中、京都大学発のベンチャー企業が、あえて「小規模な市場に特化する」狙いとは?


【写真で見る】薄い・軽い・折り曲げOK「夢の太陽電池」


ペロブスカイト太陽電池は「どこでも電源」

9月、幕張メッセ(千葉市)で開かれた太陽光発電の展示会。


来場者の注目を集めていたのは、ペロブスカイト太陽電池に関する発表だ。


積水化学工業やパナソニックといった大手企業とともに壇上に立っていたのは、京都大学発のベンチャー企業『エネコートテクノロジーズ』(京都・久御山町)の加藤尚哉CEO(50)。


『エネコートテクノロジーズ』加藤尚哉CEO:
「ペロブスカイト太陽電池は、“どこでも電源”。いろんなシーンに供給していきたい。ペロブスカイト太陽電池で未来を作る


ペロブスカイト太陽電池とは、独特な結晶構造を持つ材料をインクのようにフィルムなどに塗り広げて作られる“次世代太陽電池”


特徴は薄くて軽いことに加えて、折り曲げられるほどの柔軟性だ。


▼厚さ【0.03mm】⇒シリコン(従来品)の「100分1」の薄さ
▼重さ【2.5g/W】シリコンの「25分の1」
▼曲げられるほど【柔軟】
▼【曇天・雨天時】でも高効率で発電
▼量産される従来品に比べ【高価】だが安くなる可能性大


実用化で「スマホの充電不要」に?

ペロブスカイト太陽電池にはすでに様々な企業が参入しているが、『エネコートテクノロジーズ』の強みはどこなのか?


【ペロブスカイト太陽電池の開発】
▼グリーンイノベーション基金事業の採択事業者
積水化学工業・東芝・カネカ・パナソニックホールディングス・リコー・エネコートテクノロジーズ・アイシン
▼中国・アメリカ・欧州などでも研究が活発化


『エネコートテクノロジーズ』加藤尚哉CEO:
「エネコートの戦略としては“多用途展開”を考えている。太陽電池というと、屋外で発電目的でやるのがほとんどだが、ペロブスカイト太陽電池は屋内でも使える。いままでの太陽電池にない使い方が期待されているので、我々はそういう用途も狙っている」


現在取り組んでいる開発の1つが、室内の小さな明かりでも発電できるペロブスカイト太陽電池。


試作品を見せてもらうと、手のひらサイズのシートにLEDランプが取り付けてある。手のひらでシート表面を覆うとランプが消え、手をどけるとすぐに点灯する。室内の明かりで発電してるのだ。


加藤CEO:
「光さえあれば発電するので、乾電池やボタン電池の代わりになる。いろんな電子機器を電池レス化することができる。また、軽い・曲がるなど体に追従性があるので服のような環境にも搭載できる。ウェアラブルデバイス、そういう切り口での活用も考えている」


今後、実用化されれば、テレビやエアコンなどの「リモコンの電池交換」や、「スマートフォンの充電」が不要になるかもしれない。


そして、大阪・関西万博では実際に服に搭載。


豊田合成(愛知・清須市)などが開発したスタッフ用のベストの背中には、エネコートテクノロジーズのペロブスカイト太陽電池が貼り付けられている。


試着した播摩卓士キャスターも「電池を背負っているという感じは全然しない」と口にするほど重さを感じさせない着心地で、例えば夏の暑い時期なら発電した電力でネックファンなどを一日中動かせるという。


「電気自動車」も充電いらずに?

2023年からは、トヨタ自動車とタッグを組んで「クルマの屋根」や「ボンネット」にペロブスカイト太陽電池を搭載することで、“充電がいらないEV”(電気自動車)の開発も進められている。


『エネコートテクノロジーズ』加藤尚哉CEO:
「年間航続距離5000キロが1つの目標。ペロブスカイト太陽電池の性能を上げるのと、もう少し搭載面積を増やす。今はペロブスカイト太陽電池が屋根にしか載っていないが、年間5000キロぐらいに増えるようなクルマも夢ではない」


――まったく充電しなくても太陽電池だけでクルマが1年動く?


加藤CEO:
「理論的にはあり得る。野ざらしの駐車場でないとだめだが平日置いておいて充電して、週末だけ使うようなドライバーには、まったく給電はいらない」


「小型サイズ」太陽電池に取り組むワケ

京都大学発のベンチャー企業『エネコートテクノロジー』で開発を支えているのは、パナソニックやシャープなど大手電機メーカーで、太陽電池や液晶パネルの開発に携わってきた“シニアの技術者”たちだ。


かつては、日本製のシリコン太陽電池や液晶パネルが世界を席巻していたが、海外勢との厳しい価格競争に敗れた苦い経験がある。


制作本部 製造部 シニアスペシャリスト 藪本利彦さん(62):
「リベンジと言うか、以前の痛い思いをしないという思いで進めたい」


特別な思いとともに開発が進むペロブスカイト太陽電池。


今後、社会で広く実用化されるためのカギが、独特な結晶構造を持つ材料をロール状のフィルムにできるだけ広く、均一に塗りつけて“量産する技術”の確立だ。


量産化が可能になれば、現在手のひらサイズで数万円の試作品も、10分の1以下の価格を目指せるとのことで、2027年からの量産化を目標に新工場の建設を進めている。


『エネコートテクノロジーズ』加藤尚哉CEO:
「小型のペロブスカイト太陽電池から取り組んでいるのには理由がある。単価が面積当たりいくらで売れるかという話だが、その場合小型のまま出す方が効率がすごくいい。メガソーラーなんかで使われるパネルは、単価がものすごく安い」


――面積当たりの価格だと、小さいものを作った方がメーカーの取り分が大きくなる?


加藤CEO:
「産業用の電力と比べると、たとえば乾電池も電力は詰まっているが単価でどっちが高いかといえば、当然乾電池の方が高いのでそれと同じ理屈」


まずはビジネスとして成立させ、収益が上がるようになったらさらに領域を広げていく。それが基本的な戦略だという。


中国勢台頭への戦略は?

ペロブスカイト太陽電池は日本で発明され、原材料のヨウ素も国内で多く産出されるため“純国産エネルギー”として期待されている。


しかし特許の申請数では、2014年以降ずっと中国に追い抜かれているのが現状だ。


――日本発の技術なので日本は有利に戦いを進めていると思っていたがそんなことはないと?


『エネコートテクノロジーズ』加藤尚哉CEO:
「研究開発のところは日本有利の要素があるが、そこから事業化の部分は必ずしもそうではない。中国などの勢力が先行しているというのが正直なところ」


日本は研究開発の能力が高くても、事業化への過程で思い切った投資ができなかったりと劣後していく事例は様々な分野で起きている。また同じことになってしまうのかー


加藤CEO:
「このまま何もしないと同じ轍を踏む可能性は正直あるので、まずは“国が産業として育成していくことが必要”。これはお金を含めて。あとは中国勢と戦って勝つのが必ずしもすべてではないので、中国勢がなかなか参入して来ないところ。我々の場合は小型ペロブスカイト太陽電池だったり、車載はトヨタという世界最強の自動車メーカーと組んでいる。この辺りは中国勢にちょっとやそっとじゃひっくり返されないと自信を持っている。まずはそういうところで力をつけていこうという戦略」


ベンチャー企業の挑戦「課題」は?

ペロブスカイト太陽電池に参入する他の企業との差別化は、あえて「小規模市場に特化」する点だ。


【エネコートのビジネスモデル】
小規模な市場に特化⇒車・ドローン・ユニフォーム・スマートフォン・宇宙など


どちらかというとニッチなところから入っていく経営戦略だが、金融・日本経済を中心に調査研究する矢嶋さんは、「お金が循環する仕組み」が必要だと話す。


『ニッセイ基礎研究所』エグゼクティブ・フェロー 矢嶋康次さん:
「スマートフォンを充電しなくていいのはものすごく便利だし、人手不足などを考えるとロボットへの搭載など使途はすごく増えていくと思う。ニッチなところで成功することでいろんなところに市場拡大の余地があると思うが、ビジネス化した時にお金を創出できて、そのお金でまた研究開発ができる、というようにぐるぐる回せるようにしないとどうにもならない。そこは別の手立てを考えないといけないのではないか」


(BS-TBS『Bizスクエア』2025年10月4日放送より)


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