
関東から関西まで「自動運転トラック」が荷物を運ぶー。国内初の商用運行を手がける『T2』熊部雅友CEO(45)が語る“物流新時代”とは。
【写真で見る】「自動運転トラック」の商用運行開始…数年後には「完全無人」のトラックが荷物を運ぶ?
国内初「自動運転トラック」商用運行
夜の高速道路を走る1台の大型トラック。
「自動運転に切り替わりました」という音声アナウンスとともに運転が自動で行われ、運転手は緊急時にすぐに手動に切り替えられるよう運転席で待機しているだけだ。
「左車線へ移動します」
「車線変更が完了しました」
車体に取り付けられたカメラや「LiDAR」と呼ばれるセンサーなどにより周囲の状況を把握し、トラックは車線変更も自身でスムーズに行うことができる。
この自動運転のシステムを開発したのは、ベンチャー企業の『T2』(東京・千代田区)だ。
7月に国内初となる「自動運転トラックの商用運行」を開始し、関東-関西間の幹線道路で「ワンマン運行」で荷物を輸送。
神奈川・座間市の拠点で、運行管理者がトラックの現在地や、取り付けたカメラの映像を通して道路の状況などを確認している。
運行管理者:
「カメラ映像のモニターでは、天候や渋滞状況でお客様の方に遅れが出ないように運行ができているかを主に観察している。地図モニターでは今どこを走っているのか、大体の位置を見ている」
夜の8時半に大阪を出発したトラックは、翌日の朝6時前に無事東京に到着した。
「ドライバー不足」物流業界の救世主に?
週に1回、自動運転トラックでの輸送を導入している『福山通運』(広島・福山市)では、トラック運転手の残業規制により「長距離輸送での人手不足」を痛感しているという。
『福山通運』北村慎治 執行役員:
「本当にもう“運転手のなり手がいない”。5年後10年後には、特に長距離は本当に運べなくなる。どうやって補っていくかというところで自動運転、人がいなくても車が走れるところにすごく魅力を感じている」
商用運行で見えてきた「新たな課題」
自動運転トラックの商用運行が始まってから3か月。
新たな物流サービスを提供する『T2』の熊部雅友CEO(45)に現状と課題を聞いた。
――協力している数社の荷物を運んでいるが、運送会社の荷物を1台分引き受けて運行している?
『T2』熊部雅友 代表取締役CEO:
「運送会社からいただくものもあるし、パートナーの荷主からも直接いただいて運ぶこともある。飲料・食品・製紙業界の製品・建材などいろんなものを自動運転トラックでしっかりと運べているか確認している」
――自動運転で、例えば急ブレーキで荷物が崩れたりなどの問題は?
熊部CEO:
「まさにそういうところを非常に注意しているところ。弊社のトラックはそういった事態が起こらないようにしっかりと車間距離をとるようにしたり、ブレーキをかけるときも緩やかにブレーキをかけて荷物が崩れないようにしたりといった仕組みを作っている。今のところ荷崩れが起きたりダメージを受けたりということは起きていない」
実証実験から商用運行に移行するまでの課題は基本的にはクリアできているというが、商用運行では“新たな課題”も見えてきたという。
熊部CEO:
「実際に走っているといろんな条件が変わってくる部分がある。例えば天候が変わっていく、道路が混雑していて渋滞になっている、工事があるなどいろいろなことが起こるので、そこにも全て対応できるようにしないと“無人にはできない”と思っている」
2年後の運行目指す「無人走行」
『T2』が目指すのは、運転手なしの完全自動運転「レベル4」の実現だ。
『T2』熊部雅友 代表取締役CEO:
「高速道路を無人状態の自動運転トラックが走っている未来は、“実現性が高い”と思っている」
「2027年のレベル4実用化」に向け『三菱地所』と検証を進めているのが、衛星からの情報が届きにくい倉庫などの「建物内」でトラックが自分の位置を正確に把握する技術。
今後、高速道路のインターチェンジに直結した「物流施設」を作り、その建物内の荷捌き場までトラックが無人で走行することを目指すためだ。
『三菱地所』基幹物流事業推進室 桂木悠斗 室長:
「建物内走行ができるようになると、倉庫から倉庫まで物を運ぶことに関して自動運転トラックを通じて人を介さずに行うことができるようになる」
さらに『三井倉庫ロジスティクス』とは、複数の荷主の貨物を積み合わせる「混載輸送」の実証実験も行っていて、業務用冷蔵庫からシャンプーや芳香剤など、形も重さも違う貨物を組み合わせて運んでいる。
またこの実証実験では、物流拠点に届いた貨物を保管せず、すぐに仕分けて次の輸送に回すことを行っている。これは、自動運転トラックの稼働率と積載率を最大限に高める狙いだ。
『三井倉庫ロジスティクス』営業本部 松葉泰剛 営業推進部長:
「自動運転トラックをより効果的に使うには、やはり絶え間なく走らせ続けることが最もポイントだと思っている」
『T2』が目指す「2つの役割」
「建物内の自動走行」や「混載輸送」の商用への転換を、「2027年以降を目指しているレベル4の運行と連動し実現したい」と話す『T2』の熊部CEO。
将来的には、トラックの保有台数を2000台に、エリアも全国に広げる計画だ。
▼27年10月~:運転手の乗車を必要としない「レベル4」自動運転(東京‐神戸間)
▼29年中旬~:事業エリア拡大(中国・四国・九州)
――数年後には何十台もの自動運転トラックが高速道路を行き来しているということが現実に?
『T2』熊部雅友 代表取締役CEO:
「現実的になると思っている。ただ、トラックドライバー不足、トラック不足という物流の課題を解決するには、我々の自動運転トラックを導入してもその一部しか担うことができない。その一部を何とか支えたいと考えているが、これだけではなく他の物流の取り組み、多くの課題があると思うのでそれも取り組まなくてはいけない話だと思う」
――T2は、どんな会社になりたい?
熊部CEO:
「我々が掲げているのは“日本の物流を共に支える”こと。何を提供するかというと、一つは【我々自身が運送を行う】、あるいは我々の自動運転トラックを使ってもらう。また自動運転トラックを走らせるのに必要な仕組み・遠隔監視・保険・リース・整備など【周辺のサービスをまとめて提案・提供】する。トラック自体は他社のトラックでも構わない。こういった形で物流のソリューションを提案・提供することで、“日本の物流を共に支える”ことを実現したい」
『T2』は、▼自らが自動運転トラックを運行する「運送会社」としての役割と▼自動運転に必要なシステムや周辺サービスを提供する「ソリューション業者」の役割の両方を担うことを目指している。
――物流がないとやはり経済は回らない?
熊部CEO:
「物流が要だと思っているし、なくてはならないもの。今これが運べなくなる、届かなくなるかもしれないと言われている。そういうことがあってはいけないと思うので、我々が全て変えられるわけではないが、その一部を担って“解決策を提案したい”と考えている」
輸送業は「今後2分化されていく」
乗用車では自動運転実用化が進まない一方で、「トラックでの可能性は高い」と話すのは、国際経営論と経営戦略論が専門の入山さんだ。
『早稲田大学ビジネススクール』教授 入山章栄さん:
「トラックは大まかに二つに分かれていく。1つは『T2』がやっているような、いわゆる<高速道路>のところ。ここは人もいないし車線も決まっている、基本はインターチェンジで降りるので非常に自動運転が進みやすい。逆に<街中>は人もいるし信号もある、いろんな家とかお店に運ばなきゃいけないのでそこは乗用車と変わらない」
その街中での輸送では、新たな取り組みも始まっているという。
入山さん:
「例えば『CBcloud』という小型トラック専用のスタートアップ企業があって、荷主と運転手をマッチングさせる“小型トラック版ウーバー”みたいなものが出てきている。なので、毛細血管みたいなところは変わらず人がウーバーみたいな仕組みでやっていき、高速道路のような太い静脈みたいなところは自動運転でやっていくと。こういう分類みたいなものが出てくると思う」
(BS-TBS『Bizスクエア』2025年10月11日放送より)
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