
木村拓哉さんの『「無印良品」へ行く!』という動画が前後編で合計530万回再生を記録し、江頭2:50さんのエガちゃんねる「江頭、初めての無印カレー」は250万回再生、さまぁ~ずさんの「【無印カレー食べ比べ】まさかの激ウマカレーで1位は?」が180万回再生など、無印良品のカレーは多くの芸能人がこぞって取り上げる人気コンテンツとなっています。しかし、なぜこれほどまでに無印良品のカレーが人に勧めたくなるのでしょうか。その理由は、単に品ぞろえの豊富さやアレンジのしやすさだけではなく、もっと深いブランドの本質に関わる秘密がありました。
(TBS Podcast『コムギコ:資本主義をハックしろ!!』2025年10月16日配信『無印良品カレーはなぜ人に勧めたくなるのか?:日本の「余白型ブランド」が世界を制する』より)
「50種類以上のカレー」が生み出す魅力
無印良品のレトルトカレーは、その圧倒的な品ぞろえが第一の魅力です。カレーだけで50種類以上という豊富なラインナップは、動画のサムネイルとして商品を並べるだけでも視覚的なインパクトがあります。これがYouTubeなどの動画配信において、視聴者の関心を引く大きな要素となっています。
また、辛さの違いによる反応の面白さや、チーズや半熟卵を添えるなどのアレンジのしやすさも、配信者が自分なりの工夫を加えられる点で人気の理由となっています。さらに、全国683店舗という圧倒的な店舗数によるアクセスのしやすさも重要なポイントです。身近にあるものほど共通の興味関心を生み出しやすく、視聴者の注目を集めやすいという特徴があります。
ヘルス&ビューティー部門が牽引する無印良品の好調
しかし、無印良品のレトルトカレーの人気の背景には、より大きな経営戦略があります。2025年10月10日に発表された株式会社良品計画の期末決算によると、同社は2年連続で過去最高益を記録。特筆すべきは、ヘルス&ビューティー部門の売上が国内年間1,000億円を突破し、約10年で5倍の規模に成長した点です。この数字は国内化粧品企業のランキングでは7位程度に位置する規模となります。
食品部門も前年比111.1%と好調ですが、無印良品のビジネスモデルにおいて、レトルトカレーなどの食品と、スキンケアやコスメといったヘルス&ビューティー製品には密接な関係があるのです。
話題の「ジェネリック〇〇」という概念からみえる無印良品の本質
無印良品のコスメが急成長したのは、いわゆる「ジェネリック◯◯」に見られるような「本物によく似ていて、価格が安い代替品」として消費者へ広がったことが大きな理由です。デパートで売られている高級コスメブランド(デパコス)と同等の品質を持ちながら、手頃な価格で提供する戦略が功を奏したのです。
無印良品のデザイナーの一人である原研哉さんが語っている「エンプティネス(空っぽ)」という概念が、ブランドを形作るDNAの一部となっています。原さんは日本の神社の「屋代(しろ)」を例に挙げ、日本文化が持つ「空っぽ」は「満たされる可能性そのもの」と説明します。四本の柱と屋根だけの空間に神様が宿るように、無印良品の商品も「空っぽ」であることでユーザーの自己表現の場となるのです。
このような特性を持つブランドを、「余白型(キャンバス)ブランド」と呼ぶことができます。無印良品の商品はシンプルで自己主張が少ないため、使う人が自分の生活の文脈で意味づけをしやすく、SNSなどでの発信がしやすいという特徴があります。無印のレトルトカレーもコスメも、ブランドとしては「空っぽ」であり、その部分を消費者が自分自身の表現で埋めていくのです。
UNIQLOと無印良品に共通するグローバル成功の秘訣
この「余白型ブランド」の概念は、無印良品だけでなく、ユニクロにも当てはまります。ユニクロは2025年8月期の国内売上高が前期比10%増の1兆300億円前後となり、初めて1兆円を突破。グローバルでも売上収益は前期比10%増の3兆4000億円に達し、海外事業の売上比率は55.2%と過半数を占めるに至りました。
ユニクロも無印良品と同様に「余白性」を持ったブランドといえます。特に「UT」シリーズでは、世界中のアーティストやキャラクター、ポップカルチャーとコラボレーションすることで、ブランド自体がキャンバスとなり、多様な表現を受け入れています。
日本発のブランドに「余白性」が多く見られるのは偶然ではないようです。イギリスの研究者ラファウ・ザボロフスキ博士は、日本の音楽文化「ボカロ」について、「初音ミクは空っぽのうつわ(エンプティコンテイナー)で自分の感情を投影できる」と分析しています。彼は「日本の歴史や文化に根ざす"余白"はとても大きく、どう埋めるかは個人・世代・地域によって異なる」と指摘し、これが世界的にも珍しい特徴だと述べています。
日本発「キャンバス・ブランド」が持つ世界的な可能性
「余白型ブランド」は、LEGOやマインクラフト、ロブロックスのようなユーザーの創造性を活かすプロダクトにも見られます。これらはいずれも業績を大きく伸ばしており、LEGOは10年で売上が2倍以上、マインクラフトは販売本数が約4倍、ロブロックスは売上が10年で80倍近くになっています。
日本のアニメやゲームキャラクターが世界中で愛される背景にも、この「余白性」があります。人種も国籍も特定されていないファンタジーの世界観は、世界中の若者がそれぞれの文化や価値観を投影できるキャンバスとなっているのです。2025年にはネパールの反政府デモの際に、若者たちが日本の漫画「ワンピース」の海賊旗を掲げるという象徴的な出来事もありました。
無印良品とユニクロに共通する「余白型ブランド」のコンセプトは、日本発のブランドが世界で成功するための重要な鍵となる可能性があります。ユーザーの創造性や自己表現を受け入れる「空っぽのうつわ」としての特性が、グローバルな多様性の中で強みとなっているのです。
<コムギコ:資本主義をハックしろ!!>
毎日ニュースを100本を読むビジネス系VTuber兼リサーチャー・編集者のコムギ(comugi)が、日々の経済にまつわるニュースを解説するビデオポッドキャスト。本記事は2025年10月16日配信『無印良品カレーはなぜ人に勧めたくなるのか?:日本の「余白型ブランド」が世界を制する』から抜粋してまとめたものです。
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