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2026年日本経済の分かれ道、「物価目標達成」「デフレ脱却」を宣言できるか【調査情報デジタル】

経済
2026-01-17 10:00

新たな年の日本経済の行方を左右する最大の焦点のひとつが物価高に対する日銀(冒頭の写真は、植田総裁)や政府の取り組みだ。筆者は、具体的な取り組みの前提となる、“現状に対する認識”にまず注目する。ジャーナリストで、BS-TBS『Bizスクエア』メインキャスターの播摩卓士氏による論考。


世の中がこれだけ物価高で困っているというのに、「物価の番人」であるはずの日本銀行が、「物価目標達成には至っていない」と言い続けています。この不思議な現象と、私たちは、もう3年以上も向き合っています。2026年、この「矛盾」が解消され、健全な政策運営を取り戻すことができるでしょうか。


3年以上続く“消費者物価2%超”と日銀の言う「基調的物価の2%上昇」

消費者物価(除く生鮮食品)が前年比で2%を超えたのは、ウクライナ危機があった2022年の4月のことでした。第2次安倍政権が始めた「アベノミクス」による異次元の金融緩和にもかかわらず実現しなかった、「2%の物価上昇」が、戦争によるエネルギーや食料などの輸入物価上昇によって、あっけなく現実のものになりました。


暦年で見ると、2020年と2021年は前年比マイナス0.1%だった消費者物価(除く生鮮食品)は、2022年に2.3%上昇し、23年は大幅な円安を受けて3.1%に、24年は2.5%上昇しました。最新の25年11月は前年同月比で3.0%の上昇です。この3年8ヶ月間、驚くべきことに、一度も単月で2%を割っていません。


つまり、消費者物価指数と言う数字は、誰がどう見ても、「2%の物価上昇」という目標に達しているのです。


しかし、日本銀行は、目指すべきは「基調的物価が2%上昇する」ことだとしていて、未だ「物価目標」には至っていないという立場です。


「基調的物価」とは何なのか、その上昇率は何%なのか、という問いは、日銀の会見やエコノミストレクチャーで常に議論となるテーマです。日銀は、基調的物価の具体的な数字や算定根拠など詳しい中身は明らかにしておらず、目標達成までの具体的な距離感は、外からは見えない状態が続いています。要は、基調的物価は、概念的、定性的なものです。


基調的物価とは、天候、市況、為替など一時的な変動要因を取り除いた上で、需要の増加や賃金上昇の価格転嫁を含めたトータルの物価上昇の力を指すというのが、私の理解です。この基調的物価の上昇率が2%に達すれば、表面的な消費者物価上昇率も「安定的」「持続的」に2%になったと言えるというのが、日銀流の説明なのです。表面的な消費者物価指数が瞬間的に2%を超えただけでは、「物価目標達成」にはならないという論理構成です。


国民が理解できない金融政策

こうした理屈は、普通の国民感情からは、かけ離れたものでしょう。2%超えが3年も続けば、十分、基調的だろうと思うのが、普通の感覚ですし、当初、一時的と思われた天候変動による農産品の価格上昇や、円安だって、もはや一時的とは言えない構造的な変化だろうとも、考えられるからです。


そもそも、消費者が商品を購入する際に、その価格上昇が、基調的か、一時的かなどと、考えることなどあり得ません。日銀の金融政策についての説明が、国民の共感を得られていないのは、当たり前です。


日銀がこうした理屈を組み立てているのは、広い意味での「金融緩和」を継続するために他なりません。デフレの時代が長期にわたり、しかも粘着性が強かっただけに、逆戻りしないよう、慎重にも慎重に政策を進めたいという思いが、動機の一つでしょう。


また、政府がデフレ脱却宣言をする前に、勝手に物価目標達成を表明するわけにも行かないという、政治的な事情もあるように思います。政府と日銀が緊密に連携するというのが、アベノミクス以来の「合意」だからです。


そうした中で、利上げにあたって、編み出された理屈が、「金融緩和の度合いを調整する」という表現です。利上げを「引き締め」とは言わず、「緩和の度合いの調整」だと説明するのです。何だか、戦時中の大本営発表のように聞こえます。


これでは、為替市場へのインパクトが小さく、円安是正にはつながりません。そもそも「緩和を続ける」と言っていること自体、インフレ抑制への本気度が感じられず、政策が後手に回っていることを自白しているようなものです。


「基調的物価は2%に近づきつつある」と明言

日銀の苦し紛れの理屈はともかくとしても、現実に物価上昇は止まらず、その基調的物価も、いよいよ2%に手が届きそうな状況になってきています。


日銀の植田総裁は、利上げ後の昨年12月25日に経団連で講演し、「わが国の基調的物価上昇率は、緩やかな上昇傾向をたどっており、2%に着実に近づいています」と明言しました。同時に植田総裁は、「賃金と物価がほとんど変化しない、いわゆる『ゼロノルム』(注)の世界に戻る可能性は大きく低下している」とまで踏み込みました。近い将来の物価目標達成を示唆した形です。


(注)「ノルム」…人々が暗黙に抱いている通念


もともと日銀は、アメリカの関税政策などの影響で、今年は景気が一定程度減速し、物価上昇率がいったんは2%を割る水準まで下がると予測して、これまで先行きに慎重な姿勢を示してきました。しかし、関税政策の影響が思ったほど景気や物価に影響を及ぼしていないことや、足もとの物価上昇の力が強いことなどから、「基調的物価上昇率2%」の達成に自信を深めているようです。


2026年中に「物価目標達成」に到達できるか

植田総裁の期待通りに、今年中に「基調的物価上昇率2%」に到達し、「2%の物価目標を概ね達成した」と言えるかどうかが、2026年の経済運営の最大の焦点です。早ければ、今年中の、次の利上げのタイミングで、「目標達成」が訪れるかもしれません。


「2%の物価目標」が達成されれば、政策金利を中立金利以上に引き上げることも、論理的には可能になりますし、そのように政策の余地が広がること自体が、為替をはじめとする金融市場にインパクトを及ぼせるようになります。


何より、「物価目標の(概ね)達成」は、長く続いたデフレ的世界、すなわち物価が上がらない世界との闘いに決別を告げる意味でも、エポックメイキングなものになるでしょう。


政府の「デフレ脱却宣言」との兼ね合い

その際に問題になってくるのが、政府の「デフレ脱却宣言」との関係です。


もともとは、「物価目標2%達成」と「デフレ脱却」は、ほとんど同義語でした。しかし、長らく「デフレ脱却」というスローガンが使われるうちに、「デフレ脱却」は単なる物価の状態だけではない、経済全体の好循環を指すと共に、政治的な意味すら持つ言葉になったように思います。


とりわけ政治の世界で「デフレ脱却」と言う言葉が使われる際には、賃金が上がり、所得が増え、経済が成長する、要は、経済的に良い状態を指す言葉として使われるようになっています。「デフレ完全脱却のため」という名目で、これまでも繰り返し、公共事業の拡大などの経済対策が打たれてきたことはご存じの通りです。


「デフレ脱却宣言」となれば、そうした政策の正当性が失われてしまいます。「デフレ脱却」は、この間、政治的には実に都合の良い言葉として、機能してきたのです。


政府の公式見解は、「日本経済はすでにデフレではなくなったが、デフレに戻らないとは言い切れない」というもので、このため「デフレ脱却宣言」を発するに至っていません。


しかし、デフレに戻るリスクが全くなくなる保証などありませんし、物価だけでなく、所得も成長も分配も、すべてうまく回るというような「バラ色」の経済が、今の時代に簡単に実現するとは、誰も思っていないことでしょう。


デフレ脱却宣言が、政治的に、意図的に、先送りされるのであれば、それこそ、健全な経済政策からはどんどん遠ざかってしまいます。「デフレ脱却」は選挙ポスターのキャッチフレーズではないはずです。


内閣府は、デフレ脱却の具体的な指標として、(1)消費者物価、(2)GDPデフレーター、(3)単位労働コスト、(4)需給ギャップの4つの指標をあげています。


すでに、(4)の需給ギャップを除く3つの条件はクリアしており、「概ね条件を満たした」と言える時期は、それなりに近づいているように思います。


日銀が「2%の物価目標達成」を、政府の「デフレ脱却宣言」に先んじて表明することができるのか、高市政権がそれを認めるのか、或いは、政府と日銀が歩調を合わせる形で宣言を出せるのか、このあたり調整は、今年の経済運営の大きな課題となりそうです。


「デフレとの闘い」にひとつの区切りを

高市内閣が旗を振る「強い日本経済」を作るため、「成長」や「供給力強化」に財政資金を使うことに、異論のある人は少ないでしょう。そうした「新たな成長戦略」に集中するためにも、「デフレ脱却」には区切りをつける必要があるでしょう。財政資金には限りがあるからです。


自他ともに安倍元総理の後継者と認める高市総理大臣だからこそ、安倍元総理が始めた「デフレとの闘い」に区切りをつけることが期待されているのです。


国民がインフレに困っているのに、政府が「デフレ脱却」を唱え続けているという「滑稽さ」に、今年は終止符を打つ年にしたいものです。


正しい現状認識なくして、正しい経済政策は生まれません。何より、財政政策も、金融政策も、国民の理解なくしては成り立たないからです。2026年は日本経済の分かれ道です。


〈執筆者略歴〉
播摩卓士(はりま・たくし)
ジャーナリスト、BS-TBS『Bizスクエア』メインキャスター
1960年 大阪府生まれ。
1984年 東京放送(現TBSテレビ)に入社。報道局で経済全般を担当、ワシントン特派員として日米経済摩擦を最前線で取材。経済部長を経て、ワシントン支局長時代の2008年にはブッシュ大統領単独インタビューも。NEWS23キャスター、編集主幹、解説室長などを歴任。
2015年より、BS-TBSの経済ニュース『Bizストリート』、『Bizスクエア』(土曜午前11時)のメインキャスター。「TBS NEWS DIG」にて「播摩卓士の経済コラム」を連載。


【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。


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