
高市内閣として初めてとなる「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本指針)が、21日、閣議決定されました。原案段階で、日銀の利上げをけん制するような表現が盛り込まれ、市場では、長期金利が急騰するなどの「骨太ショック」が発生し、文言の修正が行われました。しかし、金融市場は、小手先の修正を全く評価せず、再び長期金利上昇と円安が加速しています。
【写真を見る】利上げけん制の「骨太の方針」、小手先の修正は市場に響かず【播摩卓士の経済コラム】
利上げけん制と受け止められた原案
「骨太の方針」の原案には、「『強い経済』の実現に向けて、適切な金融政策運営が行われることも非常に重要」という文言が盛り込まれたと、報じられました。金融市場は、これを「投資を重要視する高市政権が、日銀の利上げをけん制したもの」と受け止めたのでした。長期金利は2.9%まで急騰し、為替市場では円安が進む展開となりました。慌てた城内経済財政相は、「誤解されている」と火消しに走り、片山財務相も加わって、日銀の自主性を書き加えるよう修正を図ったのでした。
脚注に「日銀の自主性」
正式決定された「骨太の方針」の該当部分を読むと、まず、本文ではなく脚注に、「日本銀行法第3条に基づき、金融政策の具体的な手法については日本銀行に委ねられる」と記したことが目に留まります。日銀法第3条は日銀の自主性を規定した条項ですが、「金融政策は日銀に委ねられる」とは言わずに、「具体的な手法については、日銀に委ねられる」という言い方です。
これは、高市政権が好んで使う言い回しですが、具体的手法に、「利上げの判断」が常に含まれるのかどうか曖昧です。脚注といういわば姑息な修正の上に、奥歯にものが挟まった言い方では、修正感がほとんどありません。
物価上昇への警戒感が全く見えない
それどころか本文は、修正する気など全くないような言葉が並んでいます。
まず、経済の現状について、「デフレではない状況」と、インフレが4年も続いているのに、これまでの表現に固執しました。逆に「インフレの現実」に触れていません。
その上で、「『強い経済』に向けては、『安定的な物価上昇』の実現に資する適切な金融政策運営が非常に重要」と述べています。日銀には「物価の安定」より、「安定的な物価上昇」を優先して求めているのです。
さらに政府の役割のくだりで、「デフレに後戻りすることのない」よう「成長実現に取り組む」と書き加えていて、心配なのはインフレではなくデフレであると告白しているようなものです。
このように本文を読めば、一目瞭然、インフレは懸念に及ばずという高市政権の姿勢が明確なのです。この文章を読んで、日銀の利上げをけん制していると思わない方が不思議でしょう。
金融市場は修正をスルー、円安加速
案の定、金融市場は、「骨太の方針」の修正を事実上スルーし、むしろ「第2の骨太ショック」につながりかねない長期金利の上昇と円安が始まっています。アメリカの対イラン攻撃の再開激化と、原油価格再高騰が、そうした市場心理に拍車をかける構図です。
為替市場では、1ドル=164円台目前まで円安が進み、長期金利も再び2.8%台(24日現在)、夏休みの海外旅行者からは、もはや恨み節どころか、ため息も出ないほどの円安水準です。
市場は、高市政権が「インフレ容認」「円安容認」であると明確に認識したと、言っていいでしょう。そうであれば、為替市場への介入効果も、ますます小さなものになってしまいます。
「財政健全化」の文字も消え
「骨太の方針」から、「財政健全化」という言葉が消えたことも、大きな変化です。政府は、国際標準である「財政の持続性」という言葉に統一しただけだと、説明しているようですが、積極財政を謳う以上、財政の現状を「不健全」だと認めたくない本音がミエミエで、まるで都合の悪い言葉を言い換えた大本営発表のように感じます。
金融市場が、高市政権の財政拡張政策に懸念を持つのは自然なことでしょう。しかも、足もとの財政状況を左右する、「食料品消費税引き下げ」の結論は、結局、骨太の決定までには間に合いませんでした。その先行き不透明感も市場の疑念を一層深くしています。
「利上げ」と「財政懸念の払拭」が必要
アメリカ金融大手のゴールドマン・サックスのジョン・ウォルドロン社長兼COOは、日本経済新聞の取材に対し、足元の円安が日本経済に与える影響について「おそらく最大のリスクだ」と語りました(21日日経新聞)。もっともな発言です。
円安を止めるために必要なことは自明です。適切に金融引き締めを進めること、財政拡張懸念を払しょくすること、その2点に尽きます。十分条件ではなくとも、必要条件であることは間違いありません。
インフレ加速と財政悪化懸念が広がり、円安と長期金利が連鎖して進む、極めてリスクの高い動きが顕在化している中で、リフレ的な政策に固執する高市政権は、貴重な政策修正の機会を逃したようです。
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