
ドラッグストアの食品売り場、いつのまにか広くなったと思いませんか。お店に入るとお弁当とパンが並び、奥には冷凍食品の大きな棚。お米や野菜まで置くお店もあって、もうスーパーと見分けがつきません。じつは食品は、ドラッグストアで扱う商品のなかで、利幅のいちばん薄い商品です。なぜ、いちばん儲からない商品が、売り場の主役になっているのか。9兆円市場の核心について、リサーチャーのcomugiが解説します。
(TBS Podcast『コムギコ:資本主義をハックしろ!!』2026年8月24日配信『売上の6割が食品!? 激戦ドラッグストア9兆円市場』より)
売上の3分の1が、食品になった
経済産業省の統計では、2025年のドラッグストアの販売額はおよそ9兆4,000億円で、前の年より5.5%増えました。そのうち食品は約3兆2,000億円。いまやドラッグストアの売上の3分の1は食品です。お店の数も全国で2万店を超えて、なお増え続けています。
安さも目を引きます。首都圏のドラッグストアで納豆がおよそ60円~70円で売られていました。近所のスーパーでは100円を超えることもある、あの納豆です。売上の6割から7割を食品が占める大型店は、業界で「フード&ドラッグ」、略して「フードラ」と呼ばれています。ドラッグストアの食品の販売額は、この10年でおよそ2.4倍に増えました。ぱっと見はもう、食品スーパーです。
食品は、いちばん儲からない商品
ここで不思議なのは、食品の「儲けの薄さ」です。売った値段から仕入れた値段を引いた、儲けのもとになる部分を「粗利」と言います。大手ドラッグストアの決算資料を見ると、会社ごとに区分は違いますが、食品の粗利率はおおむね15%前後から18%ほど。いっぽうで薬は40%台、化粧品も30%台半ばです。
ざっくり計算すると、100円の納豆を売っても、儲けのもとは15円ほど。同じ100円分でも、薬なら40円以上が残ります。3倍近い差です。しかも食品は、期限の管理があって、重くてかさばって、補充の手間もかかります。普通のお店なら、いちばん儲かる商品をいちばん目立つ場所に置くはずです。ところがいまのドラッグストアは、いちばん儲からない食品を、入り口すぐの良い場所にどーんと並べています。
100年前の教科書「ロスリーダー」
この謎を解くカギは、100年前のアメリカにあります。1922年に出たチェーンストアの経営書に、有名な商品を原価すれすれで売ってお客さんを呼び、ほかの商品で儲ける手法が「ロスリーダー」という名前で載っています。日本語にすると「赤字覚悟の客寄せ商品」。興味深いことに、そこで例に挙がっていたのは、当時のアメリカの大手ドラッグストアチェーン、リゲットでした。
お客さんは、納豆や卵の値段をよく覚えています。そこをぐっと安くしておけば、「あのお店は安い」という印象ができて、毎日来てくれます。そして来たついでに、洗剤や化粧品や薬といった、儲けの厚い商品も買っていきます。安い食品は、いわば呼び水です。スーパーの卵の特売でおなじみのこの手法、100年前の教科書で例に挙がっていたのは、じつはドラッグストアだったのです。
教科書を半分否定した、コスモス薬品
ところが、この教科書を半分否定している会社があります。フード&ドラッグ、略してフードラの代表格、九州発のコスモス薬品です。
コスモス薬品は、日替わりの特売をやりません。ポイントカードもありません。支払いは、ほとんどのお店で現金払いが基本です。それでいて売上はおよそ1兆1,000億円と全国トップクラスで、お店は2026年5月末で1,708店、食品が売上の62.9%を占めます。同社は日替わりの特売をむしろ「おとり販売」と表現する側で、そのかわりに、商品の値段を日替わりで上げ下げせず、毎日同じ低価格で売るのを基本にしています。エブリデー・ロー・プライスと呼ばれる売り方です。
日替わりの特売をやめると、棚の値段の貼り替え作業も、売り場の組み替えもいらなくなり、浮いた人件費を値段に回せます。キャッシュレスを原則入れていないのも同じ理由で、カード会社に払う手数料の分まで値段で返す、という考え方です。廃棄ロスの大きい生鮮三品(魚・肉・野菜)の専門売り場は基本的に持たず、会社の発表では、食品の廃棄は2024年度、食品の売上100万円あたりわずか1.68キロ。安売りのお店ではなく、ムダをそぎ落とすお店なのです。
安さの裏方は物流。お店を1.5キロ間隔で建てる理由
もうひとつ、フードラに欠かせない裏方が物流です。食品は薄利で、重くて、しょっちゅう補充が要る商品なので、トラックが効率よく回れないと、あっという間に赤字になります。
だからコスモス薬品は、お店を同じ地域に密集させて建てます。九州の唐津には、店舗どうしの距離が1.5キロという区間もあるほどです。近くに集めれば、1台のトラックで何店舗も回れて、配送コストが下がります。1店舗あたりの宣伝や販売促進のコストも下がります。これが「ドミナント出店」と呼ばれる、地域を面で埋める戦略です。九州はコスモス薬品、北陸はクスリのアオキとゲンキー、東北は薬王堂、北海道はツルハやサツドラ。ドラッグストアの顔ぶれが地域によって違うのは、各社が自分の地元にお店と配送ルートを密集させて、面で固めているからです。
呼ぶのは食品、稼ぐのは薬
なぜ、いちばん儲からない食品が売り場の主役なのか。答えは、食品が「儲ける商品」ではなく「毎日来てもらう理由」だからです。
洗剤は月に1回、薬は具合が悪いときにしか買いません。でも食品は、毎日買います。だから食品を安く並べておけば、お店が生活の動線に入って、ついでに粗利の厚い薬や化粧品が売れていきます。この業界の方程式を短く言えば、「呼ぶのは食品、稼ぐのは薬」です。もちろん食品も赤字で売っているわけではなく、薄い儲けを、回転の速さとそぎ落としたコストで、きちんと利益に変えています。
ドラッグストアがスーパーみたいになっていくのは、迷走ではなく、設計どおりの進化です。いちばん儲からない商品が、いちばんお客さんを連れてきます。この逆説が、9兆円市場の成長を支える仕組みのひとつになっているのです。
<コムギコ:資本主義をハックしろ!!>
毎日ニュースを100本を読むビジネス系VTuberのリサーチャーであるコムギ(comugi)が、日々の経済にまつわるニュースを解説するビデオポッドキャスト。本記事は2026年8月24日配信『売上の6割が食品!? 激戦ドラッグストア9兆円市場』から抜粋してまとめたものです。
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