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悲運の35歳…春場所の“真の主役”は高安か「悔いがないと言えば、嘘になる」計9度の好機も賜杯に届かず【大相撲】

スポーツ
2025-04-07 11:55

3月の大相撲春場所は、千秋楽に12勝での優勝決定戦で勝った大関・大の里が3度目の優勝。5月の夏場所で横綱昇進へ挑むことになった。だが、この場所の「真の主役」は、3度目の決定戦でまたも敗れ、優勝同点に終わった高安だったと思う。未だ賜杯を抱いたことのない悲運の35歳に、相撲の神様はどこまで試練を与えるのか。


満員御礼の垂れ幕の下がったエディオンアリーナ大阪。千秋楽の幕内土俵入りを見たが、呼び上げられた高安が東から土俵に上がると、地元出身の人気者・宇良や大の里を凌駕する歓声と拍手が巻き起こっていた。


「タカヤス~」「ガンバレ~」。甲高い女性ファンの声や、男性客のだみ声が入り混じる。化粧まわしのまま、他の力士とともに支度部屋に下がっていくと、大阪っぽい野球帽に高安の似顔絵としこ名がプリントされたTシャツを着た中年男性が現れ、小走りで通路に向かって突進していった。


この春場所で初土俵を踏んでちょうど20年目になる元大関は、初日から絶好調だった。3連勝後、4日目に翔猿に敗れたものの、8日目には新横綱・豊昇龍、9日目にカド番の琴桜、そして10日目には大の里を破り、3日連続で横綱・大関陣を総なめにした。そして9度目となる優勝の可能性を残した千秋楽を迎えていた。


本割の対戦相手は2022年九州場所の千秋楽本割と優勝決定巴戦でともに敗れた阿炎だった。だが、落ち着いて相手の立ち合いの変化に対応すると、左で上手まわしを引き、出し投げを決めた。1差で単独首位だった前日14日目の美ノ海戦は、これまでによく出た終盤の硬さが顔を出し、思わず引き技で墓穴を掘ったが、この日は気持ちの開き直りも出来ているように見えた。


支度部屋に戻り、並んでいた大の里の結果を待つ間、いったんまわしを外した高安は腕組みをして静かに目を閉じていた。テレビまで約5mの距離だったが、一切見ようとしない。大の里が琴桜を破り、2人での優勝決定戦が決まると、その実況を聞いて自らに気合を入れるように「ヨシッ」と声を出して、準備に入った。


そして運命の決定戦。立ち合いは頭からぶつかって行った。右と左のけんか四つ。先に大の里に攻め込まれたが、得意の左を差し勝った。踏み込まれてはいたが、勝機は十分あった。ところが、ここで呼び込むような下手投げに出たのが敗因だった。自らバランスを崩し、腕がすっぽ抜けて後ろを向いた土俵際で送り出された。


「またしても、あと一歩のところで・・・」。生で見ていた館内のファンの歓声はため息に変わった。恐らく、テレビ観戦していた全国の相撲ファンも、同様の反応になったのではないか。近い将来、横綱昇進の可能性の高い大の里は、もちろんたくさんの人が応援している。しかし、「ベテランになっても気迫を持ち続け、真摯に土俵に向き合う高安に一度は賜杯を抱かせたい」。判官びいきではないが、そんな熱い感情が角界の内、外に渦巻いていたと思う。


高安にしてみれば、大の里は少なからず縁のある相手だ。元横綱・隆の里の鳴戸部屋に自分が入門した際に兄弟子でいたのが、同じ茨城県出身者でその後、ずっと稽古を付けてもらうことになる元横綱の稀勢の里だ。大の里がまだ大学生だったころに、その稀勢の里の二所ノ関部屋への入門を薦めたのが高安だったという。二所ノ関親方を挟んで繋がりの深い2人は、普段から親交もある。


戦い終え、3度目の技能賞を獲得した高安に笑顔はなかった。「今、出来ることはやりきった。ファンの声援は力になった。悔いがないと言えば、嘘になる。また、次、優勝を狙う」。ただ、これまで優勝を逃した千秋楽のように悲壮感でいっぱいになる表情ではなかったことは伝わってきた。


地力はあり、何度もチャンスを迎えながら優勝を逃し続ける姿をみると、同じように賜杯には届かなかったが、多くのファンを魅了したと聞くある力士が頭に浮かぶ。1961年春場所で学生横綱として初のプロ入りを果たした元大関・豊山だ。私が大相撲の取材を始めたころはすでに協会理事、後に理事長に就任した。鳴り物入りで双葉山の下に入門し、入幕後7場所で大関昇進。優勝者に次ぐ成績を8度も納めている。


「末は横綱」と期待されたが、ちょうど当時は大鵬、柏戸が東西の横綱に君臨する「柏鵬時代」。幕内で13勝、12勝がともに4回あるが、いずれも優勝には届いていなかった。とくに2横綱の千秋楽全勝対決となり、柏戸が全勝優勝した63年秋場所では、その2人に敗れた以外は勝って13勝したが、優勝次点にもなっていないという不運な記録も。


「実直で気品がある」と言われた土俵態度は、高安と重なるものがあると思う。「最大の好機」と言われたのが68年春場所だ。13日目を終えて1敗で単独首位だったが、14日目に小結・麒麟児に苦杯。それでも千秋楽は、その麒麟児と平幕・若浪とともに12勝2敗で首位に並んでいた。だが、千秋楽は関脇・清国に敗れた。麒麟児も敗戦し、1人だけ白星を重ねた若浪が平幕優勝を飾っている。


歴代最多の45度の優勝を誇る元横綱・白鵬の宮城野親方が、現役晩年、対戦相手で最も地力のある力士として挙げたのが高安だった。「高安関は頭で当たる、かちあげ、もろ手突きといろんな立ち合いがあるし、離れても、組んでもうまさとパワーがある」と話していた。


これまでは終盤になると持病の腰痛が起こることも多く、残り5日間で失速する傾向があった。それを反省し、春場所は場所直前の稽古量を落としたという。スタミナを温存した年齢に見合った調整法が、春場所で千秋楽まで持ちこたえることが出来た要因の一つなのだろう。来場所はまた三役に返り咲くことが予想される。大関から転落して5年余。悲願を夢見る高安の挑戦は終わらない。


(竹園隆浩/スポーツライター)


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