
9月開催の東京2025世界陸上の最重要選考競技会である日本選手権が、7月4~6日に東京・国立競技場で行われている。初日の4日に行われた女子5000mは田中希実(25、New Balance)が14分59秒02で優勝。2位に13秒59差を付ける圧巻の走りだった。
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昨年のうちに世界陸上参加標準記録(14分50秒00)を突破している田中は、日本選手権3位以内の成績を収めたことで世界陸上代表に内定した。田中陣営は“存在感”をアピールする勝ち方をしようとしていたが、合格点と言える内容だったのだろうか。
廣中と久しぶりのライバル対決
田中希実と廣中璃梨佳(24、JP日本郵政グループ)の2人は、日本の女子中・長距離を牽引するビッグ2と言っていい。
東京五輪1500m8位の田中と、同五輪10000m7位入賞の廣中。翌22年のオレゴン世界陸上は2人とも入賞できなかったが、23年のブダペスト世界陸上は田中が5000m8位、廣中が10000m7位と、そろって2度目の入賞を果たした。24年のパリ五輪は廣中が故障の影響で出場できず、田中も入賞を逃した。1学年違いの2人が激突する種目が5000mだが、廣中が24年シーズンはトラックレースにほとんど出られなかったため、直接対決は23年12月以来、1年7カ月ぶりになる。
廣中が先頭に出て1000mを2分59秒の速いペースで入り、1000mを過ぎると廣中と田中のマッチレースになった。2000m通過は6分00秒とペースを維持したが、3000m通過は9分09秒にペースダウン。2700m付近で後続集団が2人に追いついた。
「(ペースが落ちて)前に出ようか迷ったのですが、今日は残り4周(3400m)から行こうと決めていました。そこまで璃梨佳ちゃんのペースに乗らせてもらっていましたし、あとは自分1人で後ろをしっかり離さないといけません。そこで躊躇したら後ろの集団がついてきてしまう。覚悟をもって上げました」
4000mを12分06秒で通過すると、残り1000mを2分53秒でカバーし14分59秒02でフィニッシュ。女子長距離のレジェンド的存在の福士加代子が、04年にマークした15分05秒07の大会記録を21年ぶりに更新した。
「そこをすごく意識していたわけではありませんが、頭の片隅に福士さんの大会記録はありました。いつも惜しいところまで行っていたのですが、今回はチャンスだと思っていました。日本選手権で初めての14分台を国立競技場でお目にかけられたことは、自分の中でも財産になったかな、と思います」
田中のこれまでの日本選手権5000mのタイムは以下の通り。優勝した年は2位とのタイム差を示した。
18年:15分31秒65(2位)
19年:15分29秒00(4位)
20年:15分05秒65(1位・1秒46)
21年:15分18秒25(3位)
22年:15分05秒61(1位・5秒47)
23年:15分10秒63(1位・11秒09)
24年:15分23秒72(1位・10秒92)
25年:14分59秒02(1位・13秒59)
大学1、2年時の18~19年はまだ、それほど力がなかった。20年に大きく成長し、その年の日本選手権は長距離種目だけ12月開催で、記録が出やすい気象条件だったが福士の大会記録にわずかに届かなかった。それが今回は、高温多湿の気象条件の中での大会新だった。
“田中流”の日本選手権に集中した戦い方
田中陣営は今回の日本選手権を、自身の立ち位置を確認する好機と考えた。世界トップ選手たちと常に戦っているとはいえ、グランドスラムトラック(今季新設された大会で1試合で3000mと5000mの2レースを走る。当初は4大会の予定だったが3大会に)では7~8位、ダイヤモンドリーグでは11~14位と、満足のいく成績を残せていない。
「あれも欲しい、これも欲しいと手を出し過ぎて、元の自分の姿がわからなくなってしまっていました。色々手を伸ばして掴もうとしていたところや、掴んで手を離さなかった部分を一度、全て手放したことが今回の走りにつながりました」
日本選手権もこれまで、選考基準をクリアして世界大会につなげることをメインに考えることが多かった。また3種目に出場するなど、さまざまなテーマを設定していくつものトライをしてきた。しかし「世界を意識しすぎてぼやけたレースが多かった」ことも事実である。
世界を相手に苦戦が続いている状況だからこそ、日本選手権に集中する方法を採った。父親でもある田中健智コーチは大会前の取材で「日本選手権を超えることで世界がある。走り方になるのか、記録になるのかわかりませんが“存在感”を示したい」と話していた。
残り4周だけで2位に13秒59差と5回の優勝中最大差をつけたこと、日本選手権初の14分台を出したことは、“存在感”を示したといえるだろう。世界陸上入賞に少し近づいた、と言えるかもしれない。
しかし田中自身は合格点を出していなかった。スパートした後のラスト4周を、1マイル(約1609m)の自己記録(4分28秒54)くらいで走ることを目標としたが、6~7秒及ばなかったのだ。
「璃梨佳ちゃんの後ろに付かせてもらって余裕を残せていたのに、自分が思ったよりは上がりきりませんでした。世界ではペース変動がある中で急激にペースが上がったり、最初からハイペースで行きながらさらにペースが上がったりします。そういった状況ではまだ全然力が出せないんじゃないか、という怖さはあります」
日本選手権を走った後に考えることはやはり、“世界でどう戦うか”である。存在感を示すことができても、田中自身が満足することはない。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
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