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「いちいち泣かないの」古賀紗理那の叱咤と、書けなくなったノート…バレー佐藤淑乃が味わった地獄と覚醒の2年間【バース・デイ】

スポーツ
2026-07-11 06:00

6月3日に開幕した、バレーボール最強国決定戦「ネーションズリーグ」。2大会ぶりのメダル獲得へ向けて突き進む女子日本代表の攻撃を牽引するのが、佐藤淑乃(24)だ。日本の若きエースとしてバックアタックなどを次々と決め、その活躍と共に人気も沸騰している。


【画像でみる】書けなくなった“バレーノート” 突きつけられた「マイナス12%」の現実


「バース・デイ」が取材に訪れた日、佐藤は同い年の日本代表・和田由紀子と共に美容雑誌の撮影に臨んでいた。「慣れてないですよ」と笑う彼女だが、「メイクはすごく自分のモチベーションが上がるから、自然とプレーも良くなる」と語る。女子バレー界に現れたニューヒロイン。しかし、その輝きの裏には、人知れぬ苦悩があった。かつて代表のコートから遠ざかった、空白の2年間が存在するのだ。


佐藤は「そのステージに立ったから。『また立ちたい』と思うようになってから落ちてしまったので」と、当時の心境を明かす。挫折を乗り越えた日本のエース、その覚醒への軌跡を追った。


「絶対に古賀の対角の1番候補」大学生で日本代表初選出

現在、日本代表の中核を担う存在となった佐藤。今年、代表に招集されたのは37人。10代も加わった若いチームの中で、佐藤は精神的支柱でもある。


練習後、初めて代表に選ばれた母校・筑波大学の後輩である大森らに「いっぱい持っていきなよ、和田のやつも持って帰りな。いいよ、これ由紀子が忘れていったから」と気さくに声をかける。「お金は足りてる?お金足りないですよね、大学生」と笑いながら後輩を気遣う姿があった。


千葉の強豪・敬愛学園高校でキャプテンを務めた佐藤は、3年生のインターハイで優秀選手に選ばれ、高校選抜にも名を連ねた。卒業後は名門・筑波大学へ進学。大学2年で迎えた全日本インカレでのプレーが、当時の日本代表監督・眞鍋政義の目に留まった。


眞鍋は当時の印象をこう語る。 「インカレ見て筑波の中西監督に『絶対に古賀の対角は一番候補、佐藤です』って言ったくらいです。打つねえ、あんな細いのにバネがあって打つ。サーブも良い!」


2022年3月、大学生にして日本代表に初選出された佐藤は、「背番号38番、佐藤淑乃です。世界を相手に戦うのは初めてなのですが、自分の良さであるスピードとパワフルさを活かしてチームの勝利に貢献していきたいです」と意気込みを語っていた。


身長178センチ。力強いスパイクと、強烈なジャンプサーブ。サーブで流れを変える切り札として期待を寄せた眞鍋は、次世代を担う3人を「ブレイクスリー」と命名し、佐藤はその1人に選ばれた。


突きつけられた「マイナス12%」の現実と、書けなくなったノート

代表選出から5か月。世界バレーを1か月後に控えた代表合宿で、当時の監督である眞鍋から「今日からゲームするね。自分の中で最高のパフォーマンスをしてアピールしてほしい」と告げられた。


しかし、ここから歯車が狂い始める。佐藤の放つスパイクは次々とシャットアウトされた。試合後、眞鍋から厳しい現実が突きつけられる。


「数字。嫌だとは思うけど試合に勝つためにはコレだからね。シャットアウト、ミス。1人が2本もミスしてたら勝てないよ、淑乃。自分だけじゃない。チームに迷惑がかかるよ」


突きつけられたのは、攻撃の貢献度を表す効果率の値だった。数値が高いほど大きく貢献したことになるが、佐藤はアタッカー陣で最低の「マイナス12%」。誰よりもミスが多いことを意味していた。自慢のスパイクが通用しない。それが現実だった。


自信が崩れ、涙を流す佐藤に、先輩の古賀紗理那は「いちいち泣かないの。期待されてるってそういうことだよ、泣くな、泣くな」と言葉をかけた。


同年9月の世界バレー。佐藤の役割はアタッカーではなく、リリーフサーバーだった。しかし、得意だったはずのサーブすら決まらず、アウトを連発。トップサーバーの成功率が10%前後とされる中、佐藤は5%にも満たなかった。


「自分の強みはサーブ。世界バレーでその強みを活かせなかった。サーブはメンタル。少しでも気持ちが弱くなったらサーブも弱くなると思うので、そこのメンタルを一定に保てるようにしたい。大きな舞台で自分のプレーをどう100%発揮するかというところは結構難しいなと思った」


初めての大舞台で、自信は失われた。日頃から心の拠り所だった“バレーノート”について、取材ディレクターから「世界バレーの時はなにか書いてる?」と問われると、「あの時は書いてなかった…ネーションズリーグの時は真面目に書いてたんですけど、世界バレーはしんどかったので…」と言葉を詰まらせた。文字にすることさえ、怖かった。


その後の2年間、佐藤が代表のコートに立つことはなかった。


転機となった恩師との出会い、1年間コートに立ち続けた覚悟

どん底にいたアタッカーはいかにして這い上がったのか。転機は、ある人物との出会いだった。


日本代表の舞台に立てず、苦悩を味わった佐藤が自らを鍛え直す場所に選んだのは、国内屈指の強豪「NECレッドロケッツ川崎」だった。佐藤は「選手の経験値が高い選手が多いというのがあって。他のチームにいったら試合には出られるかもしれないけど、成長できるかと考えたときに、NECに入って周りから教えてもらうことで成長したい」とその理由を語る。


そこで、覚醒の鍵を握る人物が待っていた。当時の監督・金子隆行である。金子は入団当初の佐藤について「ああいうふうに豪快さはあるんですけど、内面的には弱い部分もたくさんあったので、そこが強化されれば良い選手になる」と見抜いていた。


自信を失い、傷ついた佐藤に、金子は試練を課した。 「日本のエースになってもらいたいというのはあったので、良い時も悪い時も体がしんどかろうがコートに立ってパフォーマンスを見せ続ける責任を感じてほしくて、1年間とにかくコートに立たせた」


1年目の序盤は決定率の波が激しく、結果が出ない日もあった。それでも金子は、佐藤に自信を取り戻させるため、どんな状況であろうと使い続けた。「1年目は身体もしんどかったと思う。ファイナルも含めたら50試合以上戦い抜いてくれたので、そこでいいも悪いも全て感じたと思う」と金子は振り返る。


指揮官の覚悟に、佐藤も応え始めた。公式戦全51試合に出場し、日本人最多得点の活躍で最優秀新人賞を獲得したのだ。


佐藤は「すごく長いリーグで辛い時期もあったんですけど、毎試合出していただいて、自分の中で毎回課題を見つけて成長を求めてできて、結果個人賞もいただけて、成長できて良いシーズンだった」と手応えを語る。


名実ともにチームのエースとなった佐藤の成長を、NEC入団当時から共に見守ってきたのが、日本代表の先輩でもある古賀紗理那だ。エースの重圧を誰よりも知る古賀は、こう語る。


「金子さんがずっと試合に出し続けたからここまで成長できたと思うので、監督とかスタッフが淑乃に見切りつけて代えるとかしてたら、ここまでなってない。頑張ったと思いますよ。淑乃に伝えたいのは、1年目とか関係なくこのSVリーグで1番成長したの、他のチーム含めて、絶対淑乃だと思ってるから。でもそれってずっと試合に出続けたから成長できたところもあると思うし、それに応えようと淑乃がプレーし続けたから成長できた、気づけたこともいっぱいあったと思うから、それは自信にしていい」


3年ぶりの代表復帰、そして「世界から恐れられる選手」へ

そして2025年、佐藤は3年ぶりに代表のコートに戻ってきた。再出発の舞台はネーションズリーグ。全試合にスタメン出場を果たし、一躍、日本の中心選手となった。


続く世界バレー、ブラジルとの3位決定戦。メダルを懸けた大一番で、佐藤はさらなる覚醒を遂げる。バックアタックやダイレクトアタックを次々と決め、チーム最多の34得点をマーク。メダルにはあと一歩届かなかったが、確かな結果を残した。


大会後、ディレクターから「石川選手とどんな話をした?」と問われ、佐藤は「来年こそもっと上手くなってメダル取ろうねみたいな感じ。所属チームは違うけどまた成長して一緒にやろうね」と約束を交わしたことを明かした。


その約束から1年。東京・銀座の美容院を訪れた佐藤は、ディレクターからの「おしゃれもしてバレーも強いと、若い世代から憧れられるけどどう?」という問いに対し、こう答えた。


「マインドが上がるのが1番だし、バレーだけじゃない部分を楽しんでるのも知ってもらえたら嬉しいです」


心を満たし、コートでは、常に強く。ネーションズリーグで悲願のメダルを獲得し、9月のアジア大会では真価を見せるつもりだ。


「世界でも恐れられるような選手。日本にはこの選手がいるっていう、日本にはこの選手がいるから気をつけろみたいな感じ。『この選手をおさえないと』という選手になりたい」


どん底を味わった若きアタッカーは、確固たる自信を胸に、世界の頂点を見据えている。


(TBSテレビ「バース・デイ」2026年7月4日放送より)


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