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やせたい子ども~小学生からダイエット・増大する健康リスク~【調査情報デジタル】

国内
2025-10-11 08:00

日本の若い女性の「やせ率」は世界でも突出している。小学生のうちから「やせたい」と考え、ダイエットを行う例も少なくない。その背景には、SNS上に氾濫する「理想的な体型」の画像、家庭内の価値観、「細いことが美しい」という社会概念がある。しかしそこには様々な健康リスクが存在する。順天堂大学国際教養学部の吉澤裕世准教授(グローバルヘルスサービス領域)による考察。


日本の若年女性、突出する「やせ率」という現実

日本の若年女性は「やせ」の割合が国際的に突出している。2023年の国民健康・栄養調査によれば、20~30歳代女性のうち20.2%がBMI18.5未満であり、過去10年で最も高い水準に達した。(BMIは体重と身長から算出される肥満度を表す指数。18.5未満が低体重<やせ型>とされる)


OECD諸国と比べても、この「やせ率」は異例の高さである。しばしば、「小学校から人気のあるK-POPアイドルを輩出している韓国の方がやせ率は高いのではないか」と思われがちだ。しかし実際には、日本の方が韓国よりもやせ率が高い。


欧米で「肥満の増加」が社会課題とされているのとは対照的に、日本では「やせ」が深刻な健康問題となっているのである。特に高校生から大学生、そして新社会人へと移行する年代は、美意識の形成や外見への関心が高まる時期に当たる。周囲の目を気にして無理な食事制限を行うケースも少なくない。


2024年に医学誌 The Lancet に掲載された国際共同研究によれば、1990年から2022年の間にやせの割合は多くの国で減少傾向を示した。しかし、その中で日本は例外的に成人女性の「やせ率」が増加した数少ない国のひとつとして報告された。


世界200以上の国と地域を対象とした大規模解析の中で、日本が際立った特徴を示したことは、単なる個人の問題ではなく、我が国の社会や文化に根差した構造的な課題があることを強く示唆している。


さらに、私たちが行った小学生を対象とした調査では、1年生の段階ですでに男子の約25%、女子の約35%が「やせたい」と答えていた。学年が上がるにつれその割合は増加し、6年生になると男子約30%、女子では約50%に達した。特に6年生女児の約3割は、実際にダイエットを行っていたのである。


つまり「やせたい子ども」という現象は、個人の問題にとどまらず、日本社会全体が向かうべき重要な課題ではないだろうか。


SNSの時代、「加工」と知りつつ憧れる矛盾

SNSは若い世代の「やせ志向」を加速させる大きな要因の一つである。InstagramやTikTokには、加工によって細く仕上げられた体や磨き上げられた肌の女性たちの姿があふれている。たとえ現実離れした画像であっても、子どもや若者はそれを「理想」として受け止めやすく、理想の体型に近づこうとするプレッシャーが高まっている。


ある調査では、多くの女子学生が「画像は加工されている」と理解しているにもかかわらず、「それでもそうなりたい」と憧れを抱き、現実とのギャップに苦しんでいることが示されている。つまり、情報リテラシーを持っていても、憧れや欲望の力の前では十分な防波堤にならないのだ。


さらに、SNS上での「いいね」やフォロワー数といった評価軸は、ユーザーの外見への意識や行動に影響を及ぼしている。私自身が「やせ」に関する投稿を検索した際も、アルゴリズムは「ダイエット方法」や「シンデレラ体重」といった情報を次々に提示してきた。このようにSNSの仕組みそのものに、繰り返し「理想像」を提示して「やせ志向」へと導いてしまう構造的な問題が潜んでいる。


もっとも、SNSに登場する理想像は突如現れたものではない。幼少期から人形やキャラクターを通じて「細く長い体型」が理想と刷り込まれてきた可能性がある。近年の研究(Nature, 2023)では、やせ型の人形に触れることが、幼い子どものボディイメージや自己肯定感を低下させることが報告されている。


この点はバービー人形をめぐっても議論がなされ、社会的な批判を受ける中で、現在では車いすや多様な体型、さらには糖尿病患者をモデルにした人形へと展開するなど、多様化が進められている。


しかしながら、日本のアニメやSNSで拡散されるキャラクター像は依然として細長い体型が主流である。こうした文化的背景がSNSで拡散される「理想像」と重なり合い、子どもたちの「やせ志向」を一層強めているのではないだろうか。


親のダイエット文化が家庭に与える影響

家庭もまた、子どもの「やせ願望」を形づくる重要な場になっている。私たちが行った若年女性の調査では、BMI25未満で「やせ願望」をもつ人の約50%が、体型に関して本人にとって不快なコメントを受けた経験があることがわかった(BMI18.5~25未満は「普通体重」とされる)。


特に、「母親」からの発言が最も多く、次いで兄弟、父親の順であった。つまり、身近な家族からの言葉が強く影響しているのである。


さらに、小学生を対象とした調査では、子ども自身が「太っている」と感じていなくても、親が「ダイエットした方がいい」と勧めたり、親自身が日常的にダイエットをしている場合、その子どもがダイエット行動をとる割合が高いことが明らかになった。親の何気ない一言や日常的な態度が、子どもの体型認識や行動に直結している可能性があるのである。


この背景には、日本社会に根強く存在する「女性は細くあるべき」という暗黙の規範があるのではないだろうか。親自身もまたその価値観に縛られてきた世代であり、無意識のうちに子どもへ受け継いでしまう。


つまり、家庭という本来安心できる場が、「やせなければならない」という無言の圧力を再生産し、同調圧力として子どもに作用している可能性がある。親の言葉や態度が、子どもに「周囲に合わせなければならない」という感覚を強め、体型や食行動に影響していると考えられる。


「やせ」が未来に及ぼすリスク

「やせている方がかわいい」「細いほどスタイルがいい」という価値観をもつ若年女性は少なくない。しかし、過度なやせには外見からはわかりにくい多くの健康リスクが潜んでいる。


月経は思春期女子にとって、体の成長と健康状態を示す大切なバロメーターであるが、過度なやせや食事制限により、ホルモン分泌が抑制されて排卵が止まり、月経が不規則になる「機能性視床下部性無月経」が起こることがある。


また、思春期は骨の成長と強化が最も著しい時期であり、この時期に十分な栄養が得られないと最大骨量(ピークボーンマス)の形成が不十分となり、将来の骨粗鬆症リスクが高まる。20歳時点と中年期の両方でやせている女性は、中年以降に骨減少症となるリスクが約4倍に上るという報告もされている。


さらに、「やせていれば糖尿病にはならない」と思われがちだが、やせていても糖尿病を発症することはある。実際、やせた若年女性に耐糖能異常が見られ、その割合は正常体重の女性に比べて約7倍と言われている。


こうしたリスクを体系的に整理するため、日本肥満学会は「FUS(Female Underweight/Undernutrition Syndrome:女性の低体重/低栄養症候群)」という概念を提唱した。FUSは「低体重または低栄養の状態を背景として、それを原因とした疾患・症状・徴候を合併している状態」と定義される。


18歳以上の閉経前女性を対象とすると、BMI18.5未満や低筋肉量、鉄欠乏性貧血、ビタミンやミネラル不足、月経異常、骨密度の低下に加え、倦怠感や冷え性などの身体症状、さらには抑うつ、不安、睡眠障害といった精神的影響も無視できない。すなわち、心身両面の健康に影響する課題として捉える必要があるだろう。


教育は希望をもたらすか

教育現場からはこの課題に対した取組の結果から希望も見えてきた。私たちが高校生に実施したボディイメージ教育では、「美の基準は時代や文化によって変わる」ことを考えるワークを取り入れた。


授業前後の測定ではポジティブ・ボディイメージ尺度が有意に上昇し、「自分のことを大切にしている」、「自分のからだのことをよいと感じている」、「自分のからだが何を欲しいのか気にしている」などの項目に変化が見られた。


小学生への授業でも、「自分だけにしかないことがあるということに気づいた」、「将来、自分の体型を気にすることがあっても、ありのままの自分を大切にしたい」、「人はみんな違うから痩せなくても自分自身の魅力が絶対にあるから、自分らしく生きていたら良いと思う」といった変化が確認されている。


同年代同士の対話はピア・サポートとなり、安心感を生む。教育には、子どもの意識を変える力が確かにある。


しかし同時に、これは学校だけに責任を押し付ける話ではない。教育は一つの突破口にすぎず、家庭、地域、社会全体が「やせ志向」を是正する空気をともに育む必要があるだろう。


社会全体で取り組むべき課題

「やせたい子ども」という現象は、SNSにあふれる理想化された画像、家庭に根付く価値観、そして社会がつくり出す「細いことが美しい」という規範の総体から生まれている。子どもの心身を守るためには、以下のような取り組みが不可欠だ。


•    家庭:体型を否定する言葉を避け、「健康を支える行動」に目を向ける声かけを。
•    学校:栄養・運動を中心とした健康教育(ヘルスリテラシー)に加え、SNSリテラシー教育を授業に組み込み、現実との違いを考える力を育む。さらに、同調圧力に流されず、多様な体型や見た目を尊重する態度を育む。
•    社会:行政・メディア・企業が連携し、「多様な美の基準」を積極的に発信する。


こうした健康リスクを包括的に示す概念として「FUS(ファス:Female Underweight/Undernutrition Syndrome:女性の低体重/低栄養症候群)」が提唱された。これは医学的な枠を超え、社会全体が価値観を問い直す契機とすべきだろう。


おわりに~個人ではなく社会の責任として~

「やせたい子ども」という現象は、子ども自身ではなく社会がつくりだしているのではないだろうか。SNS、家庭、文化、規範が絡み合い、子どもたちを「細くなければならない」という呪縛に追い込んでいる。


しかし、介入教育の成果が示すように、意識は変えることができる。その経験は、社会全体の変化への小さな希望の芽ともいえる。必要なのは、家庭・学校・地域・社会のすべてが一体となり、「やせたい」ではなく「健康でありたい」と願える社会をつくることであり、将来を担う子どもたちのために、この問題を「個人の悩み」としてではなく「社会的課題」として捉え直すことが求められている。


もし社会全体が価値観を見直し、多様なあり方を認め合える文化を育むことができれば、子どもたちは「やせなければならない」という同調圧力から解放され、「自分らしく生きていける」未来を手にできるだろう。


参考文献
1).    厚生労働省(2024).令和5年国民健康・栄養調査. 
2).    NCD Risk Factor Collaboration (NCD-RisC). (2024).Worldwide trends in underweight and obesity from 1990 to 2022: a pooled analysis of 3663 population-representative studies with 222 million children, adolescents, and adults. The Lancet. 403:1027–50.
3).    Sato M,et al. (2021).Prevalence and features of impaired glucose tolerance in young underweight Japanese women. The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, 106(5), e2053–e2062.
4).    Brown Z, Tiggemann M. (2016) Attractive celebrity and peer images on Instagram: Effect on women's mood and body image.Body Image.19:37-43.
5).    Fardouly J, Diedrichsb PC, Vartaniana LR, Halliwell E.(2015). Social comparisons on social media: The impact of Facebook on young women’s body image concerns and mood.Body Image.13:38-45.
6).    マイウェルボディ協議会.
7).    日本肥満学会(2025).閉経前までの成人女性における低体重や低栄養による健康課題‐新たな症候群の確立について‐


<執筆者略歴>
吉澤 裕世(よしざわ・やすよ)
順天堂大学 国際教養学部 グローバルヘルスサービス領域 准教授


博士(スポーツ医学)、看護師、保健師、養護教諭


専門は地域看護学、公衆衛生看護学、老年医学、身体活動。ヘルスリテラシー、ウェルビーイング等について研究


筑波大学医療技術短期大学部看護学科、明星大学人文学部心理教育学科、筑波大学大学院人間総合科学研究科卒


【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。


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