
総裁選終了から3週間近くが経過し、ようやく高市早苗内閣が発足した。内政、外交の課題が山積する中、この新政権は荒波を乗り切れるのか。元衆議院議長の伊吹文明氏に新内閣の課題と展望について話を聞きました。(聞き手:川戸恵子 収録:10月23日)
【写真を見る】高市内閣と維新の“異例の協働”はなぜ実現? 伊吹文明氏が指摘する憲法の精神と政治転換点
「行政権が蘇った」と伊吹氏 論功行賞との批判にも一定の理解
ーーやっと新内閣が発足したと私は思いますけれども、どうお感じになりますか。
元衆議院議長 伊吹文明氏:
そうですね。参議院選挙が終わってから自民党のゴタゴタがあって、そして総裁選で、また1か月。その間、政治空白があって、ほとんど行政権が動いていなかったので、高市内閣というよりも行政権が蘇ったっていうことが、一番よかったんじゃないかと。
ーー「改革の内閣」がスタートとなりましたが、組閣をみていかがですか。
元衆議院議長 伊吹文明氏:
党役員がずいぶん偏ってるっていう批判がありましたね。派閥が機能していたときは派閥バランスとよく言われて、それも良いところと悪いところがあって。論功行賞っていうのも、やはり内閣は一体となってやらないといけない。
日本国憲法は、総理大臣に行政権の責任と権限を与えていないので、内閣で閣議決定をしないと予算も出せないし法律も出せない。そういう意味では、やはり考えの同じような人、そして一緒に誠意を持ってやってくれる人を任命するっていうのも一つの考え方であって、論功行賞っていうだけで考えるべきでもないと思うんですね。
ーー昔は強いリーダーがいてその人がやりたいようにやっていましたが、前回、前々回ぐらいからやっぱり官邸チームがいかに大切かっていうのがわかってきて、そういう意味ではやりやすい内閣になってるのかなと思いますが、いかがですか。
元衆議院議長 伊吹文明氏:
私もそう思いますね。同じような考えの人がわりに多いように思いますからね。それから、自民党は今、石破さんよりも遥かに厳しい政治状況。石破さんのときはまだ、最初は衆参ともに多数があって、選挙をやって衆議院が過半数を割って、また参議院が過半数を割って。だから、そういう意味じゃ石破内閣発足よりも遥かに厳しい状況を受け継いじゃったってことですよね。
安倍・サッチャー両氏に学ぶバランス感覚と国民との協働の重要性
ーーチームワークといえば、今回は補佐官や秘書官も同時に発表されました。このメンツを見ると“第3次安倍内閣”じゃないのって人もいますけど、そういう意味ではどうですか。
元衆議院議長 伊吹文明氏:
それはこれから見ていかないといけないんでね。高市さんは安倍さんに見出されて今の立場にいるっていう思いもあるだろうし。サッチャーという人を非常に尊敬してるっていうこともあるだろうし。2人をよく学んで、一歩一歩急がずにやった方がいい。
安倍さんはどちらかというと右寄りの政策が多いように思われてるけれども、特に第2次安倍政権は、「消費税の税率先延ばし」とか、「女性活躍社会」「1億総活躍」「地方創生」など極めてリベラルのことを政策面ではやっている。保守とリベラルのバランスをよく取りながら権力を維持してきたんですね。だから、高市さんが言われてるような理念だけで突っ走るとかえってその穏健保守から自民党の中にもいるリベラルとか中立的な人たちの支持が失われていく可能性があるんで、ここは安倍さんを見習って欲しい。
それからサッチャーは、政府がいろいろなことを準備はできても、国民が一緒に動いてくれなければ英国は再生できない、「皆さん、大英帝国の栄光を取り戻すために私と一緒に立ち上がってくれませんか」っていうメッセージを出してるんですよ。
「物価上昇を上回る賃金を!」なんて言ったって、政府がそんなことを独裁国家じゃないから決められないでしょ。だから、企業の経営者にも下請けの人にも配慮してくれるっていう雰囲気を作って、そうでない経営者は何となく居づらいっていう社会風潮を作り出す。これが高市さんの大きな仕事なんですね。政府が何をやりますこれをやりますって言っても国民が一生懸命やってくれなければ、あらゆることは前に進まないということは、サッチャーからよく学んでおいて欲しいと思いますよね。
ーー確かに意欲は、この前の総理会見でもすごく見えました。世論調査でもやっぱり期待値って高いですよね。
元衆議院議長 伊吹文明氏:
これからですよ。あまり高揚感にとらわれて急いでやらない方がいいね。
維新との「婚約期間」設定と異例の政党人事
元衆議院議長 伊吹文明氏:
今回は吉村さんの熱意とそして彼の決断によって、この内閣はできたと思うんですね。そういう意味では非常に行政権が復活したっていう意味ではよかったけれども、憲法の精神からすると、やっぱり国会議員じゃない人が行政権を作ることについて、これだけ大きな影響力を行使するっていうことは、ちょっとどうかなっていう感じがある。これは維新という政党の特殊事情だと思うけども、閣内に入った連立をしなかったっていうのは、僕は非常に維新としては賢明だったと思います。
閣内に入って国務大臣になると、必ず内閣としての意思決定に参画をして、そして署名をしないといけない。閣内協力をした場合は全面的な責任を負うんでね。やっぱり橋下さんがいみじくも言ってた、初めての連立ですから結婚の前に婚約期間をしっかり置いておくべきだっていう。そうすると誰かが繋がないといけないんで、国務大臣としてやるっていうんならもうこれ完全な連立になるからわかりやすいんだけど、閣外協力をしたから誰かがいないといけないんですね。補佐官という形でやるのか、見えないところでやるのかっていう違いじゃないですか。
ーー維新との連立なんですけれども、吉村さんは高市さんの情熱に負けたみたいな感じでおっしゃっていましたが。
元衆議院議長 伊吹文明氏:
いや、高市さんの熱意もあったと思うんだけども、吉村さんの決断というのが非常に大きかったんじゃないですかね。私は京都にいるんでね。関西なんかだとひしひしと感じるんだけど維新もやっぱり今転換点に来てる。なかなか地方ではね。大阪では立派なものなんだけど、地方へのびていかないんでね。だからいわゆる副首都なんかについても、吉村さんの名誉のためにも大阪ありきじゃなくて、やっぱり議論した方がいいと思いますね。
ーー選挙制度改革に関してはどうお考えですか。
元衆議院議長 伊吹文明氏:
これは突然出てきたわけじゃなくて、維新は前からそういう主張をずっとやってきましたし、政治改革の中にも定数の問題、それから政治資金の問題をいくつか書いてありますのでね。
ーー今回の臨時国会で法案が出せなければ、離脱するというふうに共同代表、代表自らおっしゃってるっていうのはいかがなものかと思いますが、どうでしょうか。
元衆議院議長 伊吹文明氏:
いや、離脱するっていうのは、共同代表が言ってるのか、かつてのリーダーの人たちが言ってるのか、僕はそこは確認してないんでわからないんですけども。法案を出すっていうことはそれは構わないんですよね。その後ですよ。問題はね。これは国会でやっぱり議論をしながら決めるんで、出したけれども反対があるとかいうようなことではいけないし、ギリギリの多数決で、こういう問題を押し切るっていうことは議会制民主主義のあり方からしていいかどうかっていう、当然批判は出てくるでしょうね。だから今後の各党との話し合いだから、そういうニュアンスのことがこの合意文書に欲しいってことですよ。
まあ自民党の中にもいろいろな意見があると思いますけどね。しかし、形式論を言えば総裁一任をしたわけだからね。だから、一任を受けた高市さんがサインしてる限りは、自民党の中はまとめないと、それは高市さんの責任になるでしょう。
物価高対策と財政規律のジレンマ
ーーやっぱり喫緊の問題は「物価高対策」ですよね。その中で高市さんの積極財政。いろいろな意見がありますが、どうお考えになっていますか。
元衆議院議長 伊吹文明氏:
物価が上がるっていうのは二つのケースがあってね。一つは「景気が良くなって消費が伸びて、設備投資が伸びて、有効需要がどんどん増えるから物価が上がってくる」っていう、ある意味いい物価上昇。それから、人手不足で給与が上がってくる。国民も「ワークライフバランスが…」とか言って働きたいけれども、なかなか働けないような風潮になってるって言う人たちもいるんですよ。
何より、安倍さんのときは、1ドル110円だったんですよね。だけど今150円でしょ。だから輸入物価だけでも110分の150倍上がってるわけ。これが最大の原因なんですよ。だから、輸入物価をいかに抑えるかっていうことになると、やっぱりこれは円高の方へ持っていかないといけない。
円高の方へ持っていくためには、やっぱり金利が少しずつ日本で上がってきて、円を持っていればドルよりもいいっていう状況を作らないと円の価値が上がってこないんですね。もう一つは、借金が多い会社の株が上がらないのと一緒でね、やっぱりある程度、国債の増加を抑制していくっていう政策。だから、この円高誘導しようということになると、今の表現で言えば、積極財政っていうのはちょっと逆方向なんですよね。
ーーなおかつ高市さんは日銀の政策に対して色々言いたそうですよね。
元衆議院議長 伊吹文明氏:
だけどね、新しい財務大臣はやっぱりその辺は非常に慎重にね、記者会見では日銀の独立性を侵さないような表現を取ってますから。少し様子を見てね。そして、積極財政って言うけれども、維新と自民の合意の中で、お互いに相いれないことがやっぱりたくさんあるんですよ。例えば、食料品に対しての軽減税率。これなんかは最大のそのバラマキなんですね。
だから、本来はやっぱり所得制限をつけて、困ってる人たちに給付をするっていう方が物価対策としては、私は効果があると思いますけども、給付はしないっていうことをもう決めちゃってるし。例えばガソリン税を減税するっていうのも一見いいように思うんだけど、価格が下がると今度は物を買う意欲が増えてくるんですね。そうするとガソリン価格が、需要が増えてくると、税金は下がったけど、流通価格が上がってくるっていうことも起こってくるんでね。この辺は自民と維新でよほど慎重にこれから協議をして決めていってほしいと思いますね。
ーーさっきバラマキとおっしゃいましたけど、やっぱりどの項目とっても財源が必要。ここら辺はいかがですか。
元衆議院議長 伊吹文明氏:
積極財政とは言いながらね、なるほどなかなか高市さんも配慮してるなと思ったのは、片山財務大臣にわざわざ「補助金等、租税特別措置の再検討担当」なんていうのをつけたでしょ。租税特別措置でも本当に役に立ってるものがあるのか。これを、いや役に立ってないからやめようよっていうことになると、税収が増えるでしょ。それで補助金でも、バラマキ補助金だとか不公平な補助金をカットすれば、歳出の財源が余ってくるわけですよ。
だからそういうものを使ってね、新しい例えば施策の財源にしようっていうことを考えてるんだなと。だから積極財政といっても、常に赤字国債を発行して何やってもいいっていう感じではないんじゃないかなと僕は期待してるんですけどね。
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