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「日本版CIA」そして“スパイ防止法”は本当に実現するのか?高市政権が進めるインテリジェンス改革とそのハードル【edge23】

国内
2026-06-07 07:00

アメリカのCIAやイギリスのMI6。映画や小説でおなじみの対外諜報機関だが、日本にはこれに相当する組織が存在しない。


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そうした中、高市政権が「日本版CIA」とも呼ばれる対外情報組織の創設、そしていわゆる「スパイ防止法」の制定に向けて動き始めた。背景にあるのは、複雑で不安定な国際環境への危機感だ。


高市総理が掲げる「インテリジェンス改革」は実現するのか。官邸や自民党を取材するTBS政治部の山﨑匠記者と、改革の実像、そしてそこに立ちはだかる課題に迫る。


現行法では“偽造パスポート”使えず…日本版CIA構想のジレンマ

高市政権が設置を目指す「対外情報組織」は、海外で情報収集を行う専門の組織である。山﨑記者によれば、この組織で強化しようとしているのが「ヒューミント(HUMINT)」だという。
これはHuman Intelligenceの略称で、人とのやり取りを通じて情報を得る手法。例えば食事や酒の席での会話の中から、相手の本音や内部事情を引き出すといった活動が含まれる。
インテリジェンス活動の基本的な手法の一つだが、日本がこれまで諸外国に比べて著しく立ち遅れてきた領域でもある。


ただ、現行の日本の法律の中でできることは非常に限られている。諸外国の情報収集では、対象者のスマートフォンから情報を取得したり、身分を偽るために偽造パスポートを使用したりするケースもある。しかし、前者は日本国憲法が保障する「通信の秘密」に抵触する可能性があり、後者も現行法では認められない。


「ヒューミント」の壁 免責規定と人材育成

また、諸外国では、スパイが海外で国内法に反する行為を行ったとしても、帰国後に免責されるルールが存在しているが、日本にはそうした免責規定はない。国益のための活動であっても、日本の法律を逸脱すれば帰国後に処罰される可能性がある。また、「倫理的にどこまでの活動が許されるのか」というのも、非常に難しい問題であると山﨑記者は指摘する。


一方で、人材確保の問題も指摘されている。外務省にある「国際テロ情報収集ユニット」を拡充する案などもささやかれているが、人材を育て、指導役が次の世代を育成するというサイクルを確立するには、長い年月が必要となる。(※国際テロ情報収集ユニット…東南アジア、南アジア、中東、アフリカ、欧州などで国際テロ情報の収集を行う組織)


加えて、海外で活動する中で危険にさらされた場合の安全確保の課題もある。


山﨑記者の取材によれば、ある政府関係者は「諜報活動を行ったとき、中国やロシアなどはどんな手を使って潰してくるかわからない。そこまでのリスクを考えた組織作りを考えてほしい」と不安を漏らしていたという。

諸外国では、捕まえたスパイ同士を交換するという手法も取られている。しかし日本にはそもそも国内にいる外国のスパイを取り締まる法律が存在しないため、いざという時の「交渉カード」を持てないという点も大きい。


日本でもいよいよ“スパイ防止法”?「登録制」導入で抑止力なるか

情報を「取ってくる」対外情報組織の設置と並行して、政府が検討を進めるのが、国内の情報を「守る」ための法整備だ。その柱とされるのが、いわゆるスパイ防止法の一環として検討されている外国代理人登録法である。


これは、外国政府などの指示や依頼によって日本で情報収集や宣伝活動を行う人物について、氏名や活動内容、資産などを事前に登録させることを義務付ける制度だ。アメリカやイギリスなどの国で導入されているが、日本にはこれまで存在せず、「スパイ天国」と揶揄される一因となってきた。


山﨑記者によれば、この法律の狙いは、外国勢力による活動を透明化し、抑止力とすることにあるという。実際にスパイ活動を行う人物が自ら登録するとは考えにくい。しかし「登録義務」を課すことで、登録せずに行った活動を「登録義務違反」として取り締まることも可能になる。


しかし、この法律もまた、諸刃の剣となりうるリスクをはらむ。最大の課題は、「外国代理人」をどう定義するかという点だ。定義が広すぎれば政府の権限が強まり、逆に厳格すぎるとスパイ側に抜け道を与えてしまうと山﨑記者は指摘する。


線引きの仕方によっては、報道機関や学者、研究者などの活動に影響を及ぼしかねない。アメリカの制度では、外国政府の指示・依頼に基づかない民間メディアの活動は対象外とされ、学術活動には免除規定もある。

正当な経済活動や言論活動に「萎縮」をもたらす恐れも指摘される。ジョージアでは、外国から資金の20%以上を提供されているNGOやメディアを「外国の代理人」と見なす法案をめぐり、市民社会を抑圧するものだとして大規模な抗議活動も発生した。


山﨑記者は「あえて(定義を)曖昧にしておかないといけない部分もあるかと思う。どのような人が日本に入ってきているのかという特性を踏まえた上で、どういう法律を作るかを考えないといけない」と法整備の難しさについて語った。


動き出したインテリジェンス改革 懸念は払拭されたのか

対外情報組織の設置や外国代理人登録法の制定に向け、助走はすでに始まっている。先の国会で、「国家情報会議」とその事務局となる「国家情報局」を設置する法律が成立したのだ。


これまで官房長官がトップだった「内閣情報会議」が、総理をトップとした「国家情報会議」へ格上げされ、関係省庁の情報を一元的に集約して分析する「総合調整権」も付与される。いわばこれから進んでいく改革の「土台作り」だ。


ただ、この法案成立にあたっては、野党側から▼プライバシーの侵害、▼選挙利用、▼民主的監視の欠如などの懸念が示された経緯もある。

プライバシー侵害の懸念、例えば「抗議デモに参加する一般市民も調査対象になるのではないか」との問いについては、総理は「デモや集会に参加しているということのみを理由として、普通の市民の方が調査の対象になるということも想定しがたい」と答弁した。選挙利用についても否定し、現政権側を勝たせるための情報収集活動を行うことはない旨を明言した。


高市総理の答弁に一部の野党からも評価の声 一方で“権力集中”危惧も

これらの答弁について、一部の野党側からも一定の評価の声が上がった。またプライバシー保護への配慮などを盛り込んだ付帯決議を加味し、中道改革連合などは最終的に賛成に回った。山﨑記者は、野党内にも日本のインテリジェンス能力の弱さへの危機感は共有されていると指摘した。一定の歯止めをかけた上で、一部の野党も改革の第一歩を容認した形だ。


改革の本丸とも言える「対外情報組織」と「外国代理人登録法」については、来年(2027年)の通常国会で進めることが目指されているが、山﨑記者によれば、政権幹部の1人は「ハードルが高いかもしれない」と漏らしているという。


使い方によってはかなり強い権限を持つものになる可能性もあり、その道のりは平坦ではない。政府は今後、有識者会議を設置するほか、「国家情報戦略」の策定も検討していて、改革の道筋を示す方針だ。


高市政権の悲願であるインテリジェンス改革。その一歩目が踏み出された今、この国の情報との向き合い方が大きく変わる可能性がある。政府には、国民の理解を得るための透明性の高い議論が求められている。 


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