ホンダと日産自動車は去年12月から経営統合に向けて協議を続けてきましたが、「破談」となる見通しです。その理由の一つとなったのは、日産の“プライド”でした。
「日産だけでこれから生き残っていけるのか」従業員からは不安の声も
ホンダとの経営統合が破談となりそうな日産自動車。関係者からは不安と憤りの声が聞かれました。
日産の工場で働く人
「不安だよね。日産だけでこれから生き残っていけるのか、それが心配」
「ホンダから言われたら、ようは馬鹿にされたような感じ。子会社と言われれば、経営者もやっぱりカチンときたんじゃないかなと」
そもそも日産は、ホンダとの関係について、あくまでも「対等の関係」を強調していました。
日産自動車 内田誠 社長
「どちらが上、どちらか下ではなく、共に未来を切り開く仲間として」
しかし、関係者によりますとその後、ホンダから示された案は横並びではなく日産をホンダの子会社にするというものでした。それには日産側が猛反発。
日産幹部
「子会社化は到底受け入れられない」
関係者によりますと、日産はホンダとの経営統合に向けた基本合意書を撤回し、協議を打ち切る方針を5日、固めたということです。
一方、ホンダ側も日産に対し不満がありました。今回の経営統合の一因は、日産の業績不振。リストラを進めることが協議の前提条件でしたが、日産から出てきた案に工場閉鎖などはありませんでした。
ホンダ幹部
「いい加減にしてくれ。ホンダと日産で意思決定のスピードが違っていた」
ホンダとしては、子会社化で経営の主導権を握り、リストラなどを迅速に進めていきたい狙いがあったとみられます。
“破談”の背景にあるものとは
うまくいかなかったのは、自動車メーカーならではの理由も。
経済部 梅田記者
「日産は技術の日産を標榜していて、ホンダはF1に出場するなど、両方とも技術を強みにした会社です。そのプライドがやはり邪魔をしてしまったのかなとみている」
「技術の日産」をかかげる日産。独自のハイブリッド技術に「e-POWER」があります。街中を低速で走るときに低燃費を発揮します。しかし、高速道路では燃費が悪く土地の広いアメリカを走るには不向きです。
一方、ホンダのハイブリッド車は「e-POWER」と比べて高速走行時の燃費が良く、北米で販売が伸びています。
ホンダ幹部
「いまのところうちのハイブリッドが、日産のe-POWERに負けているとは思えない」
ホンダと日産の経営統合は、このまま本当に破談となるのでしょうか。
経済部 梅田記者
「そもそも現場主義のホンダと、効率を重視する日産で社風が全然異なる。結果として“水と油”と言われていた両社の関係が、経営統合で協議をしても交わることはなかった」
“子会社化”に猛反発 日産のプライド
23ジャーナリスト 片山薫 記者:
手を取り合おうとしていたところ、急遽、1か月ぐらいで破談となりそうです。ここには、特に日産側のプライドが邪魔したところが関係しているのではないかと思います。
そもそも、この統合協議に入るにあたって「日産側がある程度リストラを進める」という約束が前提にありました。しかしそこを決めきれなかった。
ホンダとしては対応が遅いということで日産側に、「ホンダが親会社になってリストラも含めて進めていきたい」「上下関係をはっきりつけよう」と、子会社化を打診。対等だと思っていた日産にとっては話が違うということで、協議の打ち切りに進んだ。
おそらく両社の社長が6日に会うと見られていて、そこで改めてこの方針が伝わるんじゃないかと見られています。
トラウデン直美:
「プライドが邪魔した」ということでしたが、「プライド」とはどのようなことなのでしょうか。
片山記者
日産の伝統とか技術力に対する自信だと思います。
藤森祥平キャスター:
40年近く天皇陛下が乗られた「御料車」を作ってきたのは日産ですし、スカイラインやフェアレディZなどに、技術的な誇りがある。
一方で、2024年度の上期では営業利益は前年同期比で90%減となっています。
片山記者:
特にアメリカと中国市場で不振で、日産の社内からも「売れる車がない」という言葉が出てくるぐらいに今厳しい状況。これまでの伝統と格式と自信というのがある中で、このギャップを埋めきれなかったのではないでしょうか。そのうえで「子会社になれ」と言われ拒否感が出たんだと思います。
まるで「水と油」日産とホンダの企業風土の違い
小川彩佳キャスター:
「水と油」というほどの企業風土の違いとはどう言うものなのでしょう。
片山記者:
日産はやや官僚的とホンダからは見られています。意思決定が遅く、縦割りが多い。一方、ホンダの方は現場主義で、わいわいがやがや決めていくような感じで、スピード感もある。
今回はスピードが重視されていたなかで、出てこないことにホンダ側は苛立ちがあったんだと思います。
藤森キャスター:
日産の皆さんの声はどのようなものがありますか。
片山記者:
日産の一部幹部は、「この協議は破談しかない。せいせいしている」とはなしています。「そんなに自分たちが下に見られてるんだったら、破談で当然だ」ということでしょう。特に、子会社化というのに対してプライドが許さなかったっていうのがあります。
一方で、日産の工場従業員からは「日産だけで生き残っていけるのか、生活が不安だ」という声が挙がっていて、「先に進まなければいけないのではないか」と現場の人たちは考えている。経営陣と現場にギャップがあると感じました。
トラウデン直美さん:
働いている人たちからすれば、「経営統合するとおもったら、やっぱりやめた」と、方向性が定まらない、先行きが不透明な感じが一番不安だと思います。
難しい局面ではあるが、いったんプライドは置いておいて、方向性を示してもらえたら少しはそこに向けて、対策ができると思います。
片山記者:
1か月でコロッと状況が変わってしまったというのも、従業員にとってもショックだったり、会社がどこに向かっているのか見えなくなる可能性はありますね。
協議打ち切りで日産側の次の一手は
小川キャスター:
この協議打ち切りで、次の一手というのは日産側には何かあるんでしょうか。
片山記者
ホンダ側の関係者は「日産1社でやっていけないことぐらい分かっているはず」とはなしています。中国メーカーの台頭や、テスラのような新しいメーカーが出てくる中で、「このままでは生きていけない」という危機感でこの協議を始めました。しかし、それが見えなくなってしまった。
今後、日産がどう動いていくのか。一つは、完全に決別するわけではなく、EV事業などはホンダと協力していくということは変えないのではないか。統合することに比べたらスピード感は絶対遅いと思いますし、これが最善の道ではないのでは、という意見が多いです。
また、買収したいという意向を持っている台湾の「ホンハイ精密工業」による買収を受け入れ子会社になる、というのも一つの選択肢だと見られています。ホンダとの協議が破談になれば、もう一度ホンハイが出てくる可能性はあると思います。
トラウデン直美:
日産はホンダの子会社化は嫌だけど、ホンハイの子会社であれば良いという事なのでしょうか。
片山記者:
「子会社自体は嫌だ」というのは、基本的にあると思います。しかし、ホンハイは車の会社ではないことから、クルマ作りは自分たちが主導できるのではないか、と期待している日産幹部もいます。
小川キャスター:
日本経済への影響というのはあるんでしょうか?
片山記者:
自動車産業は非常に裾野が広いです。そういう意味では、ホンダも日産も、このまま先に進む道がないと下請け工場や部品メーカーなども困ることになる。そういった意味では、「早く成長できる道筋を見せてほしい」という声が部品メーカーからもあがっています。
放っておいて衰退していくことになると、日本経済全体にも打撃は大きくなると思います。
トラウデン直美さん
放っておくよりは、海外の企業のからの買収でも良いということでしょうか。
片山記者:
条件次第だとは思いますが、新たな道を行かないと、いずれにせよ単独でやってけないというのが見方です。
『ホンダ×日産』について「みんなの声」は
NEWS DIGアプリでは『ホンダ×日産』について「みんなの声」を募集しました。
Q.ホンダと日産の統合“破談” どう思う?
「日産の反発は理解できる」…15.8%
「日産の再建が不安」…20.1%
「統合の難しさを感じた」…28.1%
「日産側が譲歩すべき」…18.3%
「率直に残念」…4.1%
「統合は不要」…11.1%
「その他・わからない」…2.4%
※2月5日午後11時13分時点
※統計学的手法に基づく世論調査ではありません
※動画内で紹介したアンケートは6日午前8時で終了しました。
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