
廃食用油などを原料に作られる“持続可能な航空燃料”「SAF」。日本初のSAF量産化を実現したコスモエネルギーホールディングスの山田社長に今後の戦略を聞いた。
【写真で見る】「天ぷら油で飛行機が飛ぶ」日本初の「SAF」量産化の先にあるエネルギー戦略とは?
航空燃料「SAF」でCO2削減
大阪府・堺市にあるショッピングセンター『イオンモール堺北花田』。
入口に設置されているのが、家庭で揚げ物などで使用した「廃食用油」の回収ボックスだ。
客
「家庭の油が飛行機の燃料になるんやね。こういうところで役に立てるって素晴らしい名案」
政府が掲げる「2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする」目標達成に向け、航空業界でも様々な取り組みが進められている。
カギを握るのが持続可能な航空燃料(Sustainable Aviation Fuel)の「SAF」。
▼廃食用油や植物などを原料とする燃料で▼従来の航空燃料に比べCO2排出量を8割削減すると言われている。
そのSAFの量産化を、4月に日本で初めて開始したのが石油元売り大手の『コスモエネルギーホールディングス』だ。
コスモ石油堺製油所にあるプラントでは、年間3万キロリットルのSAFを生産できるという。
通常燃料の「2~3倍の価格」
なぜ、SAF量産化に積極的に取り組むのかー
『コスモエネルギーホールディングス』山田 茂社長(59)
「ひとつは、日本で最初の大型製造装置なので挑戦、チャレンジの気持ちがあったのは確か。また我々にとってジェット燃料は非常に大事な燃料で、“SAFの需要が非常に大きく見込める”という予見があったのでスタートした。日本政府の【2030年までに航空燃料の10%をSAFに置き替える】目標もあり、今後さらに需要は増えていくと思っている」
――てんぷら油を使うと「サステナブルな航空燃料になる」のはなぜ?
山田社長
「SAF自体は燃やせば同じようにCO2が出るが、食用油はほとんど植物からとられている。その植物が成長する過程の光合成でCO2を吸収するので、ライフサイクル全体で見るとCO2を削減できているという考え方」
――価格は通常のジェット燃料よりも高い?コストダウンの方策は?
山田社長
「国際的な指標に基づいて販売しているが、通常の化石燃料のジェット燃料の2~3倍の値段。コスト削減は非常に難しいが、原料の調達で非常にコストがかかっている。何とか効率よく安く調達するというのも一つの手段かなと思う」
廃食用油回収に企業も協力
SAFのコスト削減のため重要となってくるのが、原料となる廃食用油の回収量を増やすことだ。
コスモエネルギーホールディングスは、7月から東京都内55か所のガソリンスタンドでも廃食用油の回収を開始した。
日本で排出される廃食用油は年間約50万トンで、その8割を占めるのが飲食店など「事業系の廃食用油」だ。
全国に867店舗を展開するうどんチェーン店『丸亀製麺』。
店内で揚げる天ぷらも人気で、毎日大量の食用油を使用するため、天かすから再び油を搾り取って再利用。その後使えなくなった油をSAFの原料として提供している。
『トリドールホールディングス』サステナビリティ推進部 宇井千明さん
「なるべく資源を有効活用していきたい。回収した油をSAFにぜひ活用してもらいたいと考えている」
茶色い廃油が「無色透明」に
回収した廃食用油は、どのようにSAFへと生まれ変わるのだろうか。
コスモ石油堺製油所に大型トラックで運び込まれた廃食用油。茶色く濁り、揚げ油の匂いがまだ残っている状態だ。
『コスモ石油』次世代プロジェクト推進部長 後藤真也さん
「常温で液体の植物油。オリーブオイルやコーン油など何が来ても大丈夫」
廃食用油から揚げカスなどの不純物を除去し製造装置へ投入。水素と化学反応をおこし“無色透明”なSAFが生成される仕組みだ。
「足りない廃食用油」どう対応?
しかし、SAFの量産化はまだ始まったばかり。
【2030年までに航空燃料の10%をSAFに置き替える】という政府目標を達成するには、現状は原料となる廃食用油の量が足りないという。
『コスモエネルギーホールディングス』山田 茂社長
「政府目標を量に直すと年間170万キロリットルぐらいになる。そうすると(国内での年間廃食用油量)50万トンは単位を直すと60万キロリットルぐらいなので、全然合わない」
――そうなると、今後どうやってSAF事業を拡大していく?
山田社長
「SAFの作り方はいくつかあり、一つは我々がやっている食用油を原料にして作るやり方。二つ目は、非可食の植物、茎とか葉っぱを使い、エタノールにしてSAFにする。計画としてはバイオエタノールを使ったSAFを、香川県にある我々の坂出物流基地で作りたい」
――将来はジェット燃料と同じ価格まで下げることを目指すのか、あるいは高いSAFを世の中に受け入れてもらうという方向なのか
山田社長
「理想を言えば石油由来のジェット燃料の価格に近づいていくと。我々はそういう努力は常にやっていかなきゃいけないが、従来燃料と同じ値段にすることは難しい。使っていただける方に、きちんと理解をしていただいて“一定程度コストを負担していただく”ということも必要かなと思っている」
すでに国際航空貨物では、グリーンエネルギーの物流をする企業が負担をして、SAFプログラムにのった料金を払って荷物を運ぶということも増えてきているとのことで、「まずはそういうところから広がると非常にいい」と考えているという。
今後のエネルギー戦略
では、今後の事業展開の中で「SAF事業」はどういう位置づけにあるのか。
山田社長は、2030年を少しこえたところまでは化石燃料が自動車や飛行機・船といった燃料の主力になっていると予測したうえで、その先を見ていると話す。
『コスモエネルギーホールディングス』山田 茂社長
「その後、自動車は顕著だがEV等々もかなり普及してくる。その時に化石燃料に代わるエネルギーとしてSAFもそうだし、バスやトラックについてはEVではなくFCV(燃料電池車)のような水素を燃料にした動力、こういったものも普及する可能性があると思っている。そういったところも今取り組んでいる」
――コスモといえば石油会社とみんな思っているわけだが、どういう企業に変わっていきたいと考えているのか
山田社長
「まだまだ石油が我々の事業の中心を占めているのは間違いないが、グループの名前が『コスモエネルギーホールディングス』なので、化石燃料に関わらずエネルギー全般を安定的に供給する会社を目指す。SAFの事業としては全体に比べると非常にまだ小さい事業ではあるが、新しい取り組みでありグループの中でも一つのポイントとして目玉として発信できたと思っている」
最後に、脱石油時代を見据え石油業界の再編が進む中で「コスモが目指す立ち位置」をたずねるとー
山田社長
「これ以上業界再編のようなことが起きるとはなかなか考えづらい。安定的に供給するという意味では今の体制は非常に必要な体制になっているし、石油需要自体は比較的安定しているので、各社次のエネルギーを探していくような状況になっていると思っている」
――現時点では独立したグループとして十分やっていけると
山田社長
「現時点というか、これからずっとやっていけると思っている」
各社が進める「SAF製造」課題は?
経済産業省の「SAF需要見通し」では、2025年:25万キロリットル⇒30年:172万キロリットル。(※24年1月時点)
コスモ以外のエネルギー会社も製造に乗り出している。
【国内でのSAFの主な製造計画】
▼稼働中⇒「コスモ堺製油所」(生産量3万キロリットル)
▼2026年度⇒「出光千葉事業所」(10万キロリットル)
▼2028年度⇒「ENEOS和歌山製造所」(40万キロリットル)・「出光徳山事業所」(25万キロリットル)
▼2029年度⇒「太陽石油沖縄事業所」(20万キロリットル)
▼2029年以降⇒「コスモ坂出物流基地」(15万キロリットル)
――各社で計画が進んでいるが、それだけまたバイオ燃料を作るためにトウモロコシなどの原料が必要になり輸入する。クリーンなエネルギーはやはりコストが高い。それを誰が負担するのかという問題になる
経済ジャーナリスト 磯山友幸さん
「少しぐらい高くても環境に優しいものをという思考は日本人にもすごくあると思うが、価格差がどこまで許容できるかという問題。今これだけ物価が上がっているので、物価対策なのか、環境重視なのかというトレードオフ(両立できない状態)。ここのバランスがなかなか難しいのではないか」
(BS-TBS『Bizスクエア』2025年8月30日放送より)
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