
退任間際の「花道」として、ワシントンを訪れた加藤財務大臣が、アメリカ側から思わぬ宿題を持たされる結果になりました。ロシアに対する制裁下でも日本が輸入を続けてきた、極東サハリンからの液化天然ガス(LNG)の輸入を停止するように求められたのです。新内閣発足後、すぐに来日することになるトランプ大統領から、新しい総理はいきなり難題を突き付けられるかもしれません。
【写真を見る】ベッセント長官、日本にサハリンLNG輸入停止要望、トランプ来日の火種に
ベッセント氏、ロシア産LNG輸入停止を
新内閣の誕生と共に退任する加藤財務大臣、連立模索で新内閣発足が遅れたことから、逆に日程に余裕ができ、恒例の国際金融会議のための外遊が可能になりました。加藤大臣は、15日ワシントンでG7や日米財務大臣会合に臨みましたが、アメリカのベッセント財務長官から予期せぬ要望が伝えられました。
日米財務大臣会合についてアメリカ財務省は、「日米関税合意に伴う対米投資やロシアへの経済的圧力を強めるG7の約束の重要性について議論した」と明らかにしました。その後、ベッセント財務長官はXに、「日本がロシアからのエネルギー輸入を停止することへのアメリカ政府の期待について話し合った」と投稿しました。
ベッセント長官は、これに先立って共同通信など一部メディアに対し、「いかなるロシア産のエネルギーも他から代替すべきだ」、「ロシアからエネルギーを購入する国は、どこもウクライナへの攻撃を支援していると考える」などと、強い表現で主張していました。ベッセント長官は、日米財務大臣会合で、日本がロシアのサハリン2からのLNG輸入を停止するよう、明確に求めたものとみられます。
輸入LNGの9%がサハリンから
ロシア極東のサハリンにある「サハリン2」から、日本はLNGを輸入し続けています。三井物産や三菱商事が事業に参画しており、今も東京電力と中部電力の発電会社JERAや東京ガスなど、国内の電力、ガス会社が契約を結んでLNGを購入しています。2024年の調達量は568万トンと、日本のLNG輸入量の8.6%がロシアのサハリン2から輸入されています。
ロシアによるウクライナ侵攻で対ロシア制裁が強化された際も、アメリカのバイデン政権は、日本による輸入継続を事実上黙認し、ロシアを国際決済システムから除外する中でも輸入代金の決済も例外的に認めてきました。
日本にとっては、地理的に他の産地より近く、権益まで有するサハリン2は、エネルギー安全保障上も、価格安定上も、手放せないプロジェクトだったからです。バイデン政権もその点を理解してくれていたのです。
トランプ政権は、ロシア産エネルギー「LNGはアメリカから」
時はめぐって今やトランプ政権。ロシアから買うぐらいなら、アメリカからLNGを買えというのが、トランプ大統領の理屈でしょう。しかも、トランプ政権は、ウクライナ和平の実現に向け、ロシアに圧力を加えることに躍起になっています。ロシア産エネルギーの輸入停止は外交上の優先事項なのです。
トランプ大統領は、ロシア産石油の8割を、インドと中国が輸入していることに大いに不満を募らせていました。インドに対しては、輸入停止を求め、関税を50%にまで引き上げていました。
トランプ大統領は15日、「インドのモディ首相がロシア産石油の購入停止を約束した」と誇らしげに発表すると共に、「中国にも同じことをさせる」と話しました。ベッセント財務長官と加藤財務大臣の会合が行われたのは、まさにそれと同じ日のことです。
実は、当事者のインドは、このトランプ発言に公式には反応しておらず、いつ、どこまでロシア産石油の輸入を減らすのかはっきりしていないのですが、トランプ大統領は、中東の次はウクライナと、自らの外交課題解決に、腕が回っています。
関税交渉など日米間の懸案は片付いたばかり
長く厳しかった日米関税交渉が、80兆円の対米投資計画と共にようやく決着したのが、この夏のことです。為替についても、日米間の温度差を埋める共同声明まで発出するなど、懸案が片付き、円滑な意思疎通ができたところでした。加藤財務大臣にしてみれば、とんだお土産を抱えてしまった最後の外遊となりました。
新政権はいきなり大統領訪日の試練に
新しい政権が誕生するのは、21日以降になりそうです。そこから1週間もしないうちに、韓国でのAPEC会議を機に、トランプ大統領が日本を訪れる予定です。新総理大臣は、わずかな準備期間で、トランプ大統領との日米首脳会談を行わなくてはなりません。
全体の9%近くを占めるサハリン2からのLNGが輸入できなくなると、代替供給先を確保するのは大変なことですし、そのためにLNG価格が上昇すれば、電気・ガス代が上がることも覚悟する必要があります。物価高対策を最優先とする新政権にとっては、さらに頭痛のタネが増えることになります。
トランプ大統領からの様々な要求に身構えなければならない中で、新総理大臣には、サハリンLNGという難題も背負う、試練の外交スタートとなりそうです。
播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)
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