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「また無くなるのでは」と買い占めも…コメ豊作なのに続く高値「増産」は実現可能なのか?【Bizスクエア】

経済
2025-10-22 07:48

豊作なのにコメの価格の高止まりが続く中、政府は増産へ舵を切る方針を示した。長引く残暑を逆手に取り「1回の田植えで2回収穫」に取り組む農家がいる一方で、「増産は難しい」という戸惑いも。


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豊作なのに「高いよね…」

東京足立区のスーパー『ベニースーパー佐野店』。発注した新米は問題なく入荷でき店頭に並んでいるものの、例年に比べ売れ行きは良くないという。


新潟県産の新米「新之助」は、5kgで税込5398円。秋田県産「あきたこまち」は4741円、千葉県産の「ふさこがね」は4525円だ。


24年8月に取材した時は、銘柄は違うものの同じ千葉県産「ふさおとめ」の新米は3218円。この1年で大幅に上昇している。


男性客
「高いよね…。でもね作っている人のことも考えないといけない。でもやっぱり5kg5000円超えは高いよね。2000円…2500円ぐらいになってほしい」


「また無くなるのでは…」と今年も“買い占め”

農水省の発表によると、9月末時点で2025年のコメの予想収穫量は、24年より68万5000トン多い「747万7000トン」。2017年以降で過去最高となる見込みだ。


小泉農水相(10日)
「収穫量・作付面積・民間在庫量のいずれにおいても近年で最大の水準」


稲刈りの最盛期を迎えた埼玉県吉川市の農家『吉川受託協会』でも、「出来はまあまあ良い。“24年の3~4倍は獲れている”」と話す。


24年の不作から一転、農家からも豊作を実感する声が聞かれるが、その一方で…


『吉川受託協会』日暮美明さん
「25年はコメ自体は足りているんだろうけど、『また無くなるのではないか』ととりあえず“買い占めている”みたいな人もいると聞いたことはある。生産者から直接買ったほうが飲食店の人にとっては安く手に入る。ラーメン屋さんをやっている人とか毎週来る」


コメ卸業者によると、2025年に埼玉県のJAが生産者に払った概算金(コメの前払い金)は「60kgあたり3万1500円」で、24年より1万円ほど高くなっているとのこと。


日暮さんのところでは、業者から「3万2000円」ほどを提示されたという。


日暮さん
「1円でも高く買ってもらえるなら、やはり高く買い取ってくれるところに売りたい。うちも後継者がいないと困るけど、今までの状態では子どもに『うちの会社で働け』とは言えない。売り上げも随分少なかったので」


――今だと「農家になれ」と言える?


日暮さん
「この状態が何年か続けば、間違いなく良いほうにはいくと思う」


田植え前から「コメ確保」競争過熱

農家にとっては価格上昇は収入増、そして経営の安定化につながるという期待もあるが、この高値はいつまで続くのだろうかー


コメ卸売『ナカムラ米販』中村貞昭さん
「年内は新米人気もあるので、値段的にはそんなには安くならない。ただ、小売や業者は売れないと困るので、特売攻勢をかけたり売り上げを維持しようとする動きがあると思う。“年明けは値段が下がるような動き”が出てくると思う」


高値が続くコメの価格について、専門家は市場の“過熱感”を指摘する。


『東京大学』大学院 特任教授 鈴木宣弘さん
「25年の収穫量は24年よりも1割ぐらいは増えるのではということで、市場においてはコメは十分にあるという情報の方が強くなってきている。ただ、25年も猛暑の影響で非常に不作になるのではと心配され、3月のまだ“田植えの前の段階”で、25年秋のコメを“非常に高い値段”でいろんな業者が農家に直接買いに来ていた。『何とかコメを確保したい』という“競争が非常に過熱した”結果が今の状況」


コメ増産「地域によっては難しい」

政府は8月、事実上の減反政策との指摘もある「生産調整」を見直し、コメの増産を進めていく方針を示した。


しかし、急な方針転換に農家からは「そんなに簡単ではない」という声があがる。


コメや麦などを作っている茨城県筑西市の農家では、麦の後にコメを栽培する「二毛作」に取り組んだものの、思うように収穫量は伸びなかったという。


『K-AGRI』谷中恭介さん
「今年コメが高いからということで麦の後に植えたけど、経験がないと難しい」


“増産は簡単ではない”という理由が、筑西市が取り組んでいる「ブロックローテーション」という仕組みだ。


複数の農家が農地を区画に分け、それぞれが自分の区画でコメや麦、大豆など「作る農作物を毎年順番に変えていく」手法だ。


これにより、大量の水を必要とするコメ作りに使う農業用水を複数の農家で公平に利用することができる。


谷中さん
「そもそも用水路に水が足らないからだと思う。取り合いになって喧嘩になる。何リッターでも流せるというわけではないので、『どこでもコメ作れるよね田んぼなら』ということはない。増産できるエリアはあるかもしれないが、“この地域ではそんなに簡単ではない”


温暖化を逆手に「1回の田植えで2回収穫」

一方、新たな方法で増産を目指しているのが、茨城県水戸市の『照沼農園』だ。


通常より収穫の早い早場米を刈り取った後で、再び伸びる稲を育てる「再生二期作」に取り組んでいる。


照沼洋平さん
「暑いほうがいい。温度が高くないとコメはなかなか育ちづらい。“温暖化を逆手に取る”みたいな。再生二期作には逆にありがたい気候」


長引く残暑を逆手にとり、収穫量を1.3倍ほどに増やすことに成功したというが、誰もが簡単にできるわけではないと話す。


照沼さん
「法人化すればみんなで肥料を撒いて、ドローンで撒くとかいろんなことを分散してできる。かといってこれが1人だったらどこまでできるか」


また専門家は、減反政策が生み出した“ある問題”が、急な増産を難しくしていると指摘する。


『東京大学』大学院 特任教授 鈴木宣弘さん
「農家の皆さんが所得が上がらず『コメではやっていけない』ということで、非常に苦しくなってきていた。そういう状況の中では農家の体力が落ちてきている。“生産基盤の脆弱化”。こういう中での増産といっても、そんなに一気に増やせるものではない」


そして、早急に手を打つ必要があると危機感を口にする。


鈴木特任教授
「日本の農業はこのままだとどんどんやる人がいなくなって、“あと5年が正念場”。こういう流れを放置していることに早く気付かなければ、手遅れになる」


コメは「マーケット機能」が働かない

豊作にもかかわらず、コメの価格が高止まりしている理由として「マーケット機能が働いていない」と指摘するのは、経済政策から企業活動まで幅広く取材している磯山さんだ。


要因の1つは、農家に前払いで支払う「概算金」。


【2025年産米の概算金】※60kgあたり
▼JA全農とちぎ:コシヒカリ⇒3万1000円(前年比+1万4700円)
▼JA全農みやぎ:ひとめぼれ⇒3万1000円(前年比+1万4500円)
▼JA全農にいがた:魚沼産コシヒカリ⇒3万2500円(前年比+1万3000円) 


――コメは主食だから、どうしても市場機能が直ちに機能しない面もあるのか


経済ジャーナリスト 磯山友幸さん
「“統制価格”みたいなものがずっと続いてきて、今も自由に売買していると言いながらも、農協が決めた価格がベースになるので売れないから値段がガンと下がるとはなかなかならない。良いコメは需要もそれなりにあって値段が上がっても売れると思うが、例えばブレンド米や24年のコメは値段が大きく下がるはずなのに概算金を払っていると下がらない。やはりマーケット機能が働いてないということ」


(BS-TBS『Bizスクエア』 2025年10月18日放送より)


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