
経済対策の規模は21.3兆円とコロナ後最大となったが、金融市場では財政悪化への懸念から円安債券安が大きく進んでいる。
【写真を見る】「バラマキに市場も警鐘」高市政権の経済対策に潜むリスクとは?
コロナ後最大の21.3兆円規模
高市総理(21日):
「財政の持続可能性にも十分配慮した姿になっている。国民の皆さまの暮らしを守り強い経済を作るために“戦略的な財政出動を行う”」
21日に閣議決定された高市政権の「総合経済対策」は、コロナ後最大規模の【21兆3000億円】。
<総合経済対策 3本柱>
▼1:生活安全保障・物価高対策【11兆7000億円】
▼2:危機管理・成長投資【7兆2000億円】
▼3:防衛・外交力強化【1兆7000億円】
予備費【7000億円】
自民党の会合では、河野太郎元デジタル大臣が「コロナ禍でもなく、リーマンショックのような経済危機でもないのに、本当にこんなに財政出動していいのか」と苦言を呈したとのことだが、『BNPパリバ証券』グローバルマーケット統括本部副会長の中空麻奈さんも「明らかに大きな数字」と口にする。
『BNPパリバ証券』中空麻奈さん:
「コロナの時は30兆円を超していたが、補正予算はそういう特別なことが起きたときに何十兆円も組まれるもの。通常時ではこんな数字が出てくるはずはない。本来、“補正”だから組まないのが当たり前なのに、これだけ大きなものを組んでくるというのは、やはりマーケットは驚かざるを得ない」
「的を絞らないバラマキはインフレを助長」
【物価高対策】としては、
▼18歳までの子どもひとり一律2万円給付
▼電気・ガス料金7000円程度補助(26年1~3月)
▼ガソリン・軽油 1万2000円程度減税(世帯あたり)
▼「年収の壁」引き上げ 2~4万円程度減税(1人あたり)
また、各自治体がその実状に応じて自由に使える「重点支援地方交付金」は2兆円を計上。▼「おこめ券」など1人あたり3000円相当の食料品支援が実施される方向だ。
所得制限なしの子ども支援なども盛り込まれ、“バラマキ感”が否めない物価高対策だが、中空さんは「的を絞らないバラマキはインフレを助長し国民の怒りを買う」と指摘。
所得税や住民税などの税額、所属する企業の情報、資産状況など各機関がバラバラに持っている個人情報を連携し一元管理する【ガバメント・データ・ハブ】の構築が必要だと話す。
『BNPパリバ証券』中空麻奈さん:
「世の中の問題を解決しようとすると『能力を持ってる人が払ってください』となるが、その能力を持っている人は一体誰で、いくら払えばフェアなのか。本当にサポートを必要とする人たちがきちんと声を上げられているか。所得だけでなく実は金融資産をたくさん持っているとか、あるいはある程度の所得はあるが何人も扶養していて実は苦しかったりする。杓子定規に数字だけで切ってしまうと、そういう人たちを取り残す可能性がある」
――同じ年収400万円でも、単身なのか、親や子どもも一緒なのか、介護が必要な人がいるかなどで全然違う。様々なデータを集めないとわからないと
中空さん:
「給付付き税額控除も、これをやらないと本格的なものはできない。数字で切ってしまうと、年収の壁の働き控えのようなものを必ず生んでしまう。それを生まないためにも、誰が困ってるのかを明らかにする。できれば病院の情報も入れて、何回通院していてどれぐらい大変なのかとか、そういう話も入ってくるとよりきめ細やかな対応ができるはずだ」
財政悪化を懸念…市場が警鐘?
大規模な経済対策による財政悪化懸念が高まり、市場は大きく反応した。
円相場は約10か月ぶりに、1ドル=157円台に。ユーロも、導入以来初めて1ユーロ=180円台の円安水準となった。
『三菱UFJモルガン・スタンレー証券』植野大作さん:
「1か月の10円の円安速度というのは確かにものすごく速い。“今の政策運営に対して警鐘を鳴らしている”面もなきにしもあらずだと思う。短期的に物価高で苦しんでいる人に1回お金をばらまくとか、付け焼刃的なものになっているということもマーケットのネガティブなリアクションの一因になっているのかもしれない」
一方、日本国債を売る動きも加速している。
20日の債券市場では、長期金利の代表的な指標である「10年物国債」の利回りが一時1.835%まで上昇。“約17年半ぶり”の高い水準となった。
植野さん:
「もともと市場から財政規律が緩い国だと思われていただけに、日本経済を強くするための支出であれば財源は赤字国債でも構わないというような高市内閣の経済対策に、やはり市場も懸念を持っている。それで満期の長い国債ほど売られて超長期金利が上がる。野放図な放漫財政じゃなく、“日本経済の国力を上げる方向に財政を使いつつ、実質金利のレベルも上げる”。そういう方向感を見せていくことが必要になってくるのかもしれない」
『BNPパリバ証券』の中空さんも、円安や長期金利の上昇は「市場からの黄色信号」だと指摘する。
『BNPパリバ証券』中空麻奈さん:
「マーケットというのは、みんなの総意みたいなものが出てくる。それは恣意的に動かないもの。そうすると金利や為替などは『結構大変なことが起きるのでは』という懸念を示してる数字になってきている。長期金利がこのまま上がって、例えば10年物で2%をつけてきたら、割と多くの金融機関のポートフォリオには影響が出てくると思い、30年とか40年の金利で4%となると様変わりだと思う」
――心配なのは、円安と長期金利上昇のシンクロや、長期金利の上昇⇒財政圧迫⇒財政悪化懸念で長期金利上昇、という「悪循環」
中空さん:
「その悪循環を止めるためには、日銀が政策金利を上げていけるかどうか。金融緩和と財政出動のミックスでやるとなると、結構厳しくなってくる」
日本国債の「格下げ」も…?
財政悪化が進むと日本国債の格付けにも影響が出る。
格付け会社S&Pグローバルによる日本国債の格付けは現在「A+」となっていて、G7の中では最下位のイタリアに次ぐ低さだ。
▼AAA:オーストラリア・カナダ・ドイツ
▼AA:アメリカ・韓国・イギリス
▼A:日本・中国・フランス
▼BBB:イタリア
▼BB:ブラジル・トルコ
――2000年に日本はAAAだったが徐々に格下げ。さらに引き下げられることはあるのか
『BNPパリバ証券』中空麻奈さん:
「正直言えば、格付け機関は民間会社なので日本での事業も続けたいし、日本政府からのプレッシャーもあるかもしれないので簡単に格下げはできないと思う。ただ、長期金利が上昇して次の債権を持ってくれる人もなかなかいなくて、財政がもっと弛緩して、おまけに経済成長できなかったら、これは格下げ要件だとは思う。そうすると、格下げ方向で見直しのウォーニング(警告)が出たりすることはあり得る」
――怖いのは1回下がり始めるとスピードが速いことだ。格付けが落ちたことで財政状況がより悪化し悪循環が早まる
中空さん:
「格付けは遅行指標なので本当に悪くなるまでなかなか落ちないが、いざ落ち始めたら早い。格付けが落ちると資金調達のコストがぐっと上がる。今のうちからどうしたら落ちないかを考える必要がある」
債務残高は他国と比べて突出
では、日本の財政はどれくらい危ないのか。
政府が重ねてきた借金の総額「政府債務残高」の対名目GDPの割合は、2025年は「229.6%」(推計値)で、これは“戦時経済下の1940年から45年の割合を上回る数字”だ。
――かつては戦時下で戦時国債を大量に出して上がった後、ハイパーインフレで元に戻した
『BNPパリバ証券』中空麻奈さん:
「それしか戻すことが出来なかった。つまりは、第二次世界大戦しかその状態を止めてくれなかったということ。今はその時よりも悪くなっている状態で、このままだと大災害とか、第三次世界大戦とか、そういうものしか止められないのではと不安にも陥る」
――他国と比べると日本は突出して高い状態が続いている
<2025年 政府債務残高対名目GDP比>(推計値・IFM)
▼日本:229.6%
▼アメリカ:125%
▼フランス:116.5%
▼イギリス103.4%
▼ドイツ:64.4%
中空さん:
「今ドイツも日本と同じように財政を使おうとしているが、リスクをウォーニングされない。なぜなら、ドイツは“のりしろ”があるから。日本も“のりしろ”を作るためにも今みたいな状況の時に頑張らないといけない」
債務残高対名目GDP比をどう下げていくのかー。
責任ある積極財政の“責任ある”の部分が見えないままでは、マーケットの信認は回復しないのかもしれない。
(BS-TBS『Bizスクエア』2025年11月22日放送より)
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