
2025年の「休廃業・解散」件数は年間7万件を超える勢いで推移しており、倒産と合わせると年間約8万社もの企業が市場から消えていく計算になります。驚くべきは、廃業企業の約半数が「黒字」であるという事実です。突然、取引先から「企業のエンディングノート」を提示される事例も……。
なぜ、ビジネスが成立しているにもかかわらず、多くの経営者が幕を下ろす決断をしているのでしょうか。その背景にある「2025年問題」や後継者不在の実態、そしてサプライチェーンを維持するための新たな解決策について、調達・購買コンサルタントの坂口孝則さんに詳しくお話を伺いました。
東京ビジネスハブ
TBSラジオが制作する経済情報Podcast。注目すべきビジネストピックをナビゲーターの野村高文と、週替わりのプレゼンターが語り合います。今回は2025年12月14日の配信「“企業の“倒産”ではなく“廃業”が急増!その背景とは?(坂口孝則)」を抜粋してお届けします。
倒産と廃業の違い、「年間8万社退出」の衝撃
野村:帝国データバンクの発表によると、2025年1月から8月の「休廃業・解散」件数は4万7087件にのぼり、このままでは年間7万件を超える見通しだということです。
坂口:これは非常に深刻な問題です。まず前提として、「倒産」と「廃業」の違いを整理する必要があります。「倒産」は負債が返済できなくなり、裁判所を通じて破産手続きなどを行う法的処理を指します。一方、「廃業」は後継者不在などの理由で、自ら事業を停止する「自主廃業」のことです。
かつては年間5万件程度だった廃業件数が、今や7万件を超えようとしています。これに年間1万数千件に達するといわれる倒産件数を合わせると、年間約8万社が市場から退出することになります。日本企業の総数は約350万社ですから、毎年全体の約2%もの企業が消えているという、非常に大きなインパクトがある数字なのです。
深刻化する「黒字廃業」と2025年問題
野村:坂口さんは本業のコンサルティングの現場でも、こうした変化を感じることはありますか。
坂口:相談が非常に増えています。例えば、ある大企業の取引先である中小企業の社長が突然訪ねてきて、「心が折れてしまったので、今年か来年で事業を辞めさせてほしい」と切り出されるケースが頻発しています。
いわゆる「企業の終活」として、今後のスケジュールが書かれた「企業のエンディングノート」を提示されることもあるそうです。さらに衝撃的なのは、廃業する企業の約半数が「黒字」のまま幕を閉じているという事実です。
野村:黒字なのに、なぜ辞めてしまうのでしょうか。
坂口:経営者の年齢が75歳から85歳くらいになると、たとえビジネスが順調でも、将来の事業拡大に向けた気力が続かなくなってしまうという側面があるのかもしれません。
野村:やはり「後継者不足」という問題が大きく関わっているのですね。
坂口:その通りです。サプライチェーンの世界では「2025年問題」と呼ばれており、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となるタイミングが大きな節目となっています。
また、事業承継を難しくしている「お金」の問題もあります。例えば、長年社長を支えてきた「右腕」のような人物に会社を譲ろうとしても、会社が成長しすぎて企業価値が10億円にまで跳ね上がっていた、というケースがあります。引き継ぐ側がその株を買い取る資金がなく、さらに配偶者から「多額の個人保証を背負うのはやめてほしい」と反対され、断念してしまうのです。
野村:企業価値が高すぎることが、逆に仇となってしまうのですね。
坂口:そのため、名刺には「社長」と書いてあっても、実際には株を持たず代表権もない「雇われ社長」という形が増えています。抜本的な承継が進まないまま、創業者が代表権を持ち続けているのが現状です。
倒産の背景にあるコロナ禍の「ゼロゼロ融資」
野村:一方で、倒産に関してはいかがでしょう?
坂口:コロナ禍で行われた「ゼロゼロ融資(実質無利子・無担保融資)」の元本返済が始まったことで、「ゼロゼロ融資後倒産」が急増しています。かつては民事再生などで再建を目指す道もありましたが、現在の倒産の96~97%は「破産処理」、つまり再建を選んでいません。
野村:再建を目指す体力が、企業側にも残っていないということでしょうか。
坂口:そうですね。日本経済の高齢化を象徴しているようで、非常に危ういと感じます。資産がプラスの状態で辞める「廃業」と、再建を諦めて消滅する「破産」。この2つのルートで、日本の貴重な技術やリソースが失われようとしています。
解決の糸口「サプライチェーン承継」とは
野村:この危機を乗り越えるために、どのような対策が必要だと思われますか。
坂口:最近注目されているのが、「サプライチェーン承継」という考え方です。例えば、廃業を考えている町工場の生産ラインや技術を、大企業や同業他社が買い取って維持する手法です。
また、近年人気になってきているのが、取引先を集めて「サプライヤーミーティング」を行うという取り組みです。そこでふだんから取引先同士のネットワークを作っておき、もしも廃業を考えている企業があれば、別の企業に相談できる態勢をつくっておくというものです。
野村:取引先が消えて困る前に、会社同士を繋げる努力をしておくということですね。
坂口:人手不足と高齢化が進行する中で、限られたリソースをいかに維持し、次の世代へ引き継いでいくか。経営層は今こそ、劇的な生産性向上に向けたDX投資や、親族以外への承継も含めた柔軟な道を探るべき時期に来ているのだと思います。
<聞き手・野村高文>
Podcastプロデューサー・編集者。PHP研究所、ボストン・コンサルティング・グループ、NewsPicksを経て独立し、現在はPodcast Studio Chronicle代表。毎週月曜日の朝6時に配信しているTBS Podcast「東京ビジネスハブ」のパーソナリティを務める。
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