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高市総理『円安ホクホク』発言「レートチェック」効果は台無しに【播摩卓士の経済コラム】

経済
2026-02-07 14:00

高市総理大臣が、1月31日、「円安で外為特会の運用が今、ホクホク状態だ」と円安メリットを強調する発言を行いました。外国為替市場では、円が一気に1ドル155円台にまで急落、その後もジリジリと円安が進んでいます。日米通貨当局による「レートチェック」の効果で、せっかく円高に巻き戻したのに、その効果の7割が失われた形で、政策当局の努力は台無しです。


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高市総理の「円安容認」発言とは

高市総理の発言は川崎市での遊説で飛び出しました。以下が、その内容です。


「民主党政権の時、1ドル70円台の超円高、日本でモノを作って輸出しても売れないから、日本の企業は海外にどんどん出て行っちゃった。それで失業率も高かった。そっちがいいのか。今円安だから悪いって言われるけれども、輸出産業にとっては大チャンス。アメリカの関税があったけれども、バッファーになった。ものすごくこれは助かりました。円安でもっと助かっているのが、外為特会。これの運用、今ホクホク状態です。だから円高がいいのか、円安がいいのかわからない、これは総理が口にすべきことじゃないけれども、為替が変動しても強い日本の経済構造を一緒に私は作りたい。だから国内投資をもっと増やしたい」


その後、高市総理は釈明

この発言が「円安メリットを強調」「円安容認」などと伝えられ、市場が大きく動いたことに慌てたのでしょうか。高市総理はその後、SNSに投稿し、こう釈明します。


「一部報道機関に誤解があるようです。私は円高と円安のどちらが良くてどちらが悪いということではなく、為替変動にも強い経済構造を作りたいとの趣旨で申し上げました。一部報道にあるように『円安メリットを強調』したわけではありません」


また、盟友の片山財務大臣も3日の記者会見で、「教科書に書いてあることを申し上げたのであり、特に円安メリットを全然強調しておりません」と、釈明に援護射撃を行いました。


円安のデメリットには一切触れず

しかし、この釈明には相当無理があります。演説での発言を読めばわかる通り、高市総理は、かつての円高の時のデメリットと、今の円安のメリットを具体的に説明して、「そっちがいいのか」、「助かりました」などと評価しています。その一方で、円高の時のメリットや、今の円安のデメリットには、全く触れていません。どうみても円安のメリットを説いています。


確かにそのあとに、「どっちがいいと総理が言うべきことじゃない」とは述べていますが、言いたいことを言った後に、立場上の「留保」をつけるという、政治家の常套文法です。だからこそ、各社一斉に報じたのであって、それを、報道機関の「誤解」などと言うのは、どうでしょうか。


日米政府間の政策努力が台無しに

総理の発言の最大の問題は、日米通貨当局による円安是正の努力を台無しにしたことです。1月の日銀の政策決定会合を機に円安が1ドル159円台まで進んだことを受けて、日米の通貨当局は23日に東京とニューヨーク市場で、為替取引の状況について具体的に聞き取りを行う「レートチェック」を、それぞれ実施したと見られています。これを受けて、円相場は152円台まで円高に巻き戻したのでした。介入という資金を使わずに円安是正につなげた、今回の「レートチェック劇」は、クリーンヒットと高く評価されています。


ところが、高市発言で円相場はあっという間に円安方向に反転、一気に1ドル155円台へ戻った後も、影響はジリジリ拡大し、5日には157円台と、結局、レートチェック効果の7割もが失われてしまったのです。


通貨を司る政府機関が、懸命にアメリカ政府と連携しながら円安を押し戻そうとしている時に、当の政府の代表者が、その効果を打ち消すような発言を平気でするというのは、ちょっと信じられない事態です。今後の通貨当局間の連携にも微妙な影響を及ぼしかねません。


外為特会は「打ち出の小槌」ではない

また、外為特会(外国為替資金特別会計)が円安によって潤っていることを、「ホクホク」と表現し、財源として大いに期待できるというニュアンスで語ったことも問題でしょう。


確かに外為特会の運用益の大半は米国債の利子なので、ドル建ての利子を円換算すると膨らむことは間違いありません。現に2024年度には剰余金が過去最高の5兆3603億円も出ています。しかしすでに、剰余金の最大7割は一般会計に繰り入れられることになっていて、25年度予算では3兆2007億円が繰り入れられました。うち1兆円は防衛費増額に充てられています。今後、繰り入れ比率を高めたり、さらに円安が進んだりすれば、繰入額を増やすことは一定できるでしょうが、兆円単位の新たな大きな財源になるわけではありません。


もちろん、外為特会の資産はほとんどが米国債なので、円安によって円建ての評価額が上がり、大きな含み益が出ていることは、事実です。しかし、それは円建てに限った話ですし、この資産こそが外貨準備そのもので、国にとっては、虎の子、最後の砦となる外貨なのです。簡単に売却することはできません。


実務的にも、日本が外貨準備の米国債を大量に売却して円資金に変えることは、巨額の為替介入をすることと同じですから、事実上、不可能でしょう。外為特会は、「打ち出の小槌」ではありません。


円安で国内投資増というのは幻想

さらに総理の発言が、「円安によって国内投資が増える」という文脈で語られている点も疑問です。このキャッチフレーズはこれまでも繰り返し謳われてきました。しかし、リーマン危機前、アベノミクス、いずれの円安時も、輸出企業の懐具合は潤っても、結局、国内投資の本格的な回帰にはつながりませんでした。


日本企業が国内ではなく海外に投資をするのは、人材をはじめとする日本国内の供給力不足や、国内需要の低迷など、様々な要因があるからで、為替は主因ではありません。日本は国内投資を増やすべきで、そのために政策支援が必要だという、高市総理の主張に、私は大賛成ですが、円安と直結させる思考は、幻想です。


物価高の火元は円安

今回の衆議院選挙で大きな争点となった消費税減税も、「食料品価格の高騰を何とかしてくれ」いう、家計の悲鳴に端を発した議論です。食料品価格の高騰が収まらない最大の理由が円安にあることは明白です。第一生命経済研究所の熊野英生氏は、「物価高のいわば『火元』が円安なのに、『火元』を鎮圧せずに、減税や家計支援といった対策によって『延焼部分だけ手当てしても、被害は消えない』と論じています。その通りでしょう。


今回の高市総理の「ホクホク」発言は、物価高の『火元』が円安にあることを、全くスルーしています。


市場が発する警告

長期金利の上昇、すなわち日本国債売りと、円安が、呼応しながら進む「悪循環」は、リスクの高い現象です。そこに思いを致さず、「ホクホク」などという表現を使ってしまうところに、危うさを感じざるを得ません。


円高・円安への評価は、人によって、時によって、変わるものだとしても、政府の最高責任者にとっては、最大限注意を払うべきテーマです。安全保障政策における台湾問題と同様に、経済問題における通貨価値や外貨準備の問題は、国家そのものに関わる、最も機微に触れるテーマだからです。


選挙期間中の失言や不用意な発言は、選挙が終われば、チャラになるかもしれませんが、高市総理のこうした状況認識は、選挙が終わっても、政権の経済運営に大きな影を落とすことになるでしょう。


播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)


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