「やる気ホルモン」ともいわれる甲状腺ホルモン、その働きと病気
2018-01-31 18:30:39
執筆:南部 洋子(助産師・看護師・タッチケア公認講師)
医療監修:株式会社とらうべ
「甲状腺」という名称はよく耳にするかと思います。
しかしこの甲状腺、カラダのどこにあってどのような役割を担っているかご存知でしょうか。
今回は意外と知られていない、私たちのカラダにとって大切な働きをする甲状腺について解説したいと思います。
甲状腺とは
甲状腺は「のどぼとけ」のすぐ下にあり、羽をひろげた蝶々のような形をしています。
甲状腺は、脳の下垂体から甲状腺刺激ホルモン(TSH)を受け取ると、甲状腺ホルモンであるトリヨードサイロニン(T3)とサイロキシン(T4)を分泌します。
これら甲状腺ホルモンは全身の代謝にまつわるさまざまな働きをします。
甲状腺ホルモンと甲状腺刺激ホルモンの関係
甲状腺ホルモンには、体の発育を促し新陳代謝を活発にする役割があります。
甲状腺ホルモンを調節するために、脳の下垂体前葉から「甲状腺刺激ホルモン(TSH)」が放出されます。
このTSHは、甲状腺ホルモンのわずかな変動も敏感にキャッチし、甲状腺ホルモンの量が一定に保たれるように調節しています。
一方甲状腺ホルモンは、脳に作用してTSHの分泌を抑制しています。
つまり、両者は互いにバランスを取りあっている関係なのです。
甲状腺ホルモンの役割
甲状腺ホルモンのおもな役割は次の3つです。
成長や発達を促す
:胎児や小児の正常な成長・発達を促す
細胞の新陳代謝を高める
:脂肪などを燃やして必要なエネルギーをつくり、体の成長や機能を高める
交感神経を刺激する
:交感神経が刺激されると、手が震えたり脈が速くなったりする
このように、甲状腺ホルモンには「活動のためのエネルギーをつくりだす」という働きがあります。
「やる気ホルモン」といわれるのは、快適な生活をするために必要不可欠なホルモンという見地からでしょう。
甲状腺機能の異常にともなう病気
甲状腺の働きが悪くなると、次のような病気になる可能性があります。
甲状腺機能亢進症
甲状腺の機能が過度に高くなり、ホルモン分泌が過剰になる病気です。
代表的なのはバセドー病(バセドー氏病・グレーブス病とも呼ばれる)です。
思春期や更年期の女性に多いのですが、甲状腺の病気のなかでは比較的男性にも多く発症しています。
動悸や息切れ、月経不順、不妊、下痢、体重減少、多汗、震え、甲状腺の腫れなどの自覚症状があります。
また、病状が進むと、この病気の特徴としてよく知られる、眼球が飛び出してくる症状が現れます。
甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンの分泌が足りなくなる病気で、橋本病に代表されます。
原因は自己免疫疾患といわれ、顔のむくみやだるさ、眠気、無気力、皮膚の乾燥、月経異常などの自覚症状がでます。
甲状腺の炎症
甲状腺の炎症には次の3つがあります。
(1)急性化膿性甲状腺炎:甲状腺に細菌感染が起こり、炎症となり痛みがでる
(2)亜急性甲状腺炎:甲状腺に腫れや痛み、しこりなどがでる。ウイルス説が有力だが原因は不明
(3)慢性甲状腺炎(橋本病):甲状腺が炎症を起こす
甲状腺腫瘍
甲状腺腫瘍には、良性の濾胞腺腫(ろほうせんしゅ)や腺腫様甲状腺腫などと、悪性の甲状腺がんや悪性リンパ腫など、また、両者が合併しているケースがあります。
(1)良性腫瘍
甲状腺腫瘍の8~9割は良性です。
大きくなってくると首の腫れやしこり、ものを飲み込む時の違和感などの症状がでてきます。
最近は、乳がん検診時に甲状腺の超音波検査をするようになりましたので、良性腫瘍のほとんどをなす10㎜以下の微小な腫瘍が発見されやすくなってきています。
(2)悪性腫瘍
悪性腫瘍には、乳頭がん、濾胞がん、髄様がん、悪性リンパ腫、未分化がんの5種類があります。
最も多いのは乳頭がんで80~90%を占めます。
次いで濾胞がんが4~8%、髄様がん・悪性リンパ腫・未分化がんは、いずれも1~2%と稀な病気です。
甲状腺疾患の原因
甲状腺疾患は自己免疫性疾患といわれていますが、明確な原因はわかっていません。
遺伝の可能性が高いのではないか、という見方があるものの結論には至っていません。
ですから、家系に甲状腺の病気の人がいるからといって過度に心配する必要はありません。
甲状腺疾患の治療法
甲状腺機能亢進症(おもにバセドー病)の治療法
(1)内服
甲状腺の腫れが小さい人、病気の程度が軽い人、妊婦さんなどに向いています。
ただし、長期間を要する治療なので、薬を飲み続ける必要があり通院も必須です。
治療薬はメルカゾール、チウラジールなどです。
(2)アイソトープ
薬で治りにくい人、薬の副作用が強い人、心臓や肝臓が悪い人などに用いられます。
放射性ヨードを使用するため医療機関は限られます。
(3)手術
薬で治りにくい人、甲状腺の腫れが大きい人、早く治りたい人などに適しています。
甲状腺の一部を残して切除する方法です。
術後は首に傷跡が残りますが、最近ではかなり小さく目立たなくすることが可能です。
また、術後に薬などを飲む必要はありません。
甲状腺機能低下症の治療法
不足している量の甲状腺ホルモンを服薬して補充する療法を用います。
ほとんどのケースで、一生飲み続けることになります。
甲状腺疾患と食事
甲状腺の健康維持のためには、主食は未精米穀物(玄米、分づき米、全粒粉のパン、蕎麦など)、ビタミンB群、ビタミンA、ミネラル、大豆などがよいとされます。
とくに、甲状腺を正常化させる働きをもつ亜鉛(牡蠣、魚介類、アーモンド、納豆、玄米発酵食品)は重要なのでしっかり摂る必要があります。
また、水分は十分に摂り、脱水にならないようにします。
甲状腺ホルモン機能亢進症と食事
食生活で避けなければならない食品は、ヨードを多く含む食品(海藻類、昆布、寒天、昆布だしなど)や、カフェイン・白砂糖・唐辛子・アルコールなどの刺激物、食品添加物などです。
甲状腺ホルモン機能低下症と食事
ヨードを豊富に含む食品を摂るとよいのですが、ヨードの過剰摂取も低下症を招きますので、医師の指示に従ってください。
甲状腺ホルモンの疾患はストレスや過労が発症の引き金となります。
症状が全身に現れることから、どこが悪いか判別できないままいつも体調が悪い…といった状態になりがちです。
また、本人が気のせいと思ってしまったり、周囲から怠け者と思われたりする人も少なからずいます。
日ごろから自分の体調ときちんと向きあい、体調不良が長引いているときは早めに受診して適切な診断を受けましょう。
定期的な甲状腺ホルモン検査も予防になります。
<執筆者プロフィール>
南部 洋子(なんぶ・ようこ)
助産師・看護師・タッチケア公認講師・株式会社 とらうべ 社長。国立大学病院産婦人科での経験後、とらうべ社を設立。タッチケアシニアトレーナー
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供
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情報提供元: mocosuku