
前回3位のしまむらが、さらに戦力の充実を見せている。クイーンズ駅伝(第45回全日本実業団対抗女子駅伝)は11月23日、宮城県松島町文化観光交流館前をスタートし、弘進ゴムアスリートパーク仙台にフィニッシュする6区間42.195kmコースに、24チームが参加して行われる。区間・距離・中継所は以下の通り。
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1区(7.0km)塩竃市地域活動支援センター前
2区(4.2km)NTT東日本塩釜ビル前
3区(10.6km)富士化学工業前
4区(3.6km)聖和学園高等学校前
5区(10.0km)仙台第二高等学校前
6区(6.795km)弘進ゴムアスリートパーク仙台
しまむらは前回、エース区間の3区とインターナショナル区間の4区以外は、全員が区間2~5位でタスキをつないだ。過去7位が最高のチームで駅伝ファンを驚かせた。「去年は10位以内を狙って3位。上手く行き過ぎでしたね。今年は8位以内を狙って、しっかり8位以内を取りたいと思います」。就任4年目の太田崇監督は8位以内を続けて足元を固めてから、さらに上を目指して行く。しかし11月に入って9人が5000mで15分台を出すなど、選手たちの状態は上がっている。
世界陸上で無念の結果も、監督より先に前を向いた安藤
昨年8月に入社したばかりだが、安藤友香(31)がチームを活性化させている。
17年の名古屋ウィメンズマラソンに、初マラソン日本最高記録(2時間21分37秒)をマークし、同年のロンドン世界陸上に出場した(17位)。21年の東京五輪には10000mで出場(22位)。そして今年の東京世界陸上マラソンを、8年ぶりに走った。
28位という結果に「本当に不甲斐ない。応援してくれた人たちに合わせる顔がない」というほど落胆したが、11月8日の京都陸協記録会5000mでは15分48秒77を、後輩たちのペースメーカーを務めながらマークした。安藤自身は「思ったより戻りが遅い」と感じているが、太田監督の想定を上回るスピードで立ち直った。「安藤は悔しさが大きかった分、しっかり駅伝に合わせて来られています」。1、3、5区の主要区間を任せられるところまで復調してきている。
辛かったことも数多く経験している安藤だからこそ、早い立ち直りができたのかもしれない。加入して1年少ししか経っていないが、若手選手たちの頼れるお姉さんになっている。昨年5区で区間2位と快走した鈴木杏奈(23)が、安藤のことを次のように話していた。
「競技面でも生活面でも、こういうときはどうしたらいいですか? と聞いたら、必ず良いご返答をくださいます。私、いつも不安な気持ちでスタートラインに立っていましたが、『別に自信を持って立たなくても、今やるべきことをしたらいいんじゃないか』と言っていただいて、考えを変えられました。競技力が少しずつ上がってきたんです。私にとって良い影響を与えてくれる存在ですね」
安藤は世界陸上からどこまで回復するか、やってみないとわからない。太田監督は年度初めから、安藤に頼らないチーム作りを目指してきた。それが良い形に表れているのが、今季のしまむらの強さとなっている。
主要区間候補の山田が大学4年で急成長した理由とは?
主要区間候補には鈴木と、同じ2年目の山田桃愛(24)の名前も挙げられている。前回は2区では区間4位。5位で受けたタスキを3区の安藤に3位で渡している。専門の3000m障害では9月の全日本実業団陸上で2位。9分50秒97の自己新をマークし、今後は代表入りも狙っていく。11月の京都陸協記録会5000mでも15分33秒70と自己新をマークし、今勢いに乗っている選手だ。
「監督から10月の合宿で、どこでも走れるようにしておくよう言われて、長い区間もあるかもしれない、と距離を踏み始めました。でも、まだ準備が足りないかもしれませんね」
控えめなコメントになるのは性格もあるかもしれないが、遅咲きの選手だったことも関係しているかもしれない。山田は大学3年まで、玉川大の駅伝メンバーにも入れなかった選手なのだ。
「玉川大は自由な雰囲気のチームなので、やる人とやらない人の違いが大きく出ます。私自身やらない側の人間で、2年生の時に同期全員から“ちゃんと頑張ろうよ”と言ってもらったことで、自由な中でも自分ができることをやっていく選手が強くなると考えを改めました。それで3年生では初めて、駅伝メンバーに入れるかもしれないと思っていたのに、第5中足骨(足の甲の小指側の骨)を骨折してメンバーに入れなかったんです。そのときに陸上をやめようとも思ったのですが、母から『それでいいの。感謝の気持ちをみんなに、走りで示した方がいいんじゃないの』と言われたことで、自分を変えることができました。それからはどんなときでも、たとえ熱が出ても解熱剤を飲んででも毎日走りました。朝6時のバスでスキーに行くなら、朝4時に起きて走ってからスキーに行く。誰にも負けない何かを作るところから始めて、自分自身を律するようにして、4年生の時にタイムが伸びたんです」
自分を注意してくれた同期や、見捨てないで指導してくれた玉川大の山下誠監督。白血病を克服した過程では、家族に全面的に支えられていた。そして今はしまむらのチームメイト、スタッフたちに支えられている。そうした人たちに感謝をする気持ちが、山田を強くしている。
元日本代表の山ノ内も復調
しまむらには安藤ともう1人、日本代表経験選手がいる。山ノ内みなみ(32)は通信制の高校を卒業後、市民ランナーとして走っていた。その後実業団入りして18年アジア大会5000m(6位)、19年ドーハ世界陸上10000m(19位)に出場。20年以降は故障も毎年のように繰り返して代表から遠ざかっているが、シーズンベストは15分30~40秒台を維持している(自己記録は18年に出した15分21秒31)。
クイーンズ駅伝でも昨年は1区で区間5位、区間賞選手から11秒差で、チームを上位の流れに乗せた。チームの3位に大きく貢献した選手だった。「上り坂が好きなので、1区を走りたかったんです。念願がかないました」。
近年は以前よりもケガが少なくなって、今年も夏から練習が継続できている。「トレーナーさんから動きづくりも教わって、動きの面から変えています。今年は久しぶりに良い動きの感覚をつかめていますね。冬には実業団入りしてから初めてのマラソンも予定しています」
今年も1区なら昨年以上の走りが期待できるし、代表だった頃のレベルに戻れば3区の有力候補になる。
今年のしまむらは選手層が、昨年より明らかに厚くなっている。安藤が間に合わないことも選手全員が自覚し、安藤抜きでも8位以内に入れるチームを目指してきた。世界陸上の結果は良くなかったが、「安藤のマラソンへの取り組みや、最後まであきらめない走りは、チームに浸透しました」と太田監督。
前回6区区間3位で1人を抜き、3位でフィニッシュした髙橋優菜(26)も、太田監督が日本トップレベルに成長してほしいと期待する選手。9月末にケガをした影響で絶好調ではないが、主要区間以外で区間上位が期待できる。今年4月に移籍加入した田中那奈(21)は中距離選手だが、太田監督に「ビックリした」と言わせる走りを夏以降の駅伝に向けた練習で見せている。入社5年目の髙橋は「過去最高のチーム。1人1人の意識が変わりました」と感慨深そうに話す。
主要区間以外でも昨年のように、区間上位で走る選手が続出する可能性は十分ある。それができたときしまむら、駅伝ファンを驚かすタスキリレーを再び見せるのではないか。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
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