
今年、日本人として初めてアメリカ野球殿堂入りを果たしたイチローさん(52、マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)が24、25日の2日間、九州国際大付属高校(九州国際大付、福岡)の指導に訪れた。8、9日の中越高校(新潟)に続き今年2校目で、通算12校目の訪問。指導2日目は天候に恵まれず室内での練習となったが、今秋、神宮大会を制した球児たちに野球人としての教えを説いた。
【写真を見る】イチロー「“自分はこうありたい”をしっかりと持っておくのが大人」米留学の生徒には「日の丸がついてると思って行動して」
目を瞑ってキャッチボール「絶対にいい練習になるから」
イチロー:それぞれどう?結構いろんなことあったけど、みんな整理してきたかな?理解出来ました?
(うなずく選手たち)
イチロー:ほー優秀ですね。昨日の練習を反復すること、みんなが疑問に思うこと、やってみたいことをやってみましょう。
数日前の太ももの肉離れの影響で、選手たちとは別にウォーミングアップを行ったイチローさん。この日のキャッチボールの相手は明治神宮大会の決勝に先発し、11奪三振をマークした岩見輝晟投手(1年)。選手たちはその様子を並んで見つめた。
イチロー:僕のキャッチボールのターゲットは相手の右肩に置いています。こっち(向かって右側)に行くのが嫌いで、その時には動きに問題がある。(体の開きが)早いとか、(投げる時の左肩が)キープ出来ないとか、腕がしっかり上がってくるのが待てないとか。ポイントはひとつ、バッティングと同じで下(下半身)から力を伝えています。最後に勝手に腕が走る、そういうイメージ。
さらに送球練習では、驚きの方法を伝授した。
イチロー:僕のスローイングがここ(テークバック時)で決まっています。内野手とかピッチャーはここ(リリース時)でコントロールするんだけど。基本的にはステップ、(左肩の位置)でボールの行き先は決まっています。
イチロー:みんなやっぱりここ(リリース時)だよね。ここ(テークバック時)で決まっているのを体に覚えさせるために目を瞑ってターゲットに向かって投げられるか。みんなやったことないよね。結構、いい練習になります。いかにバランスを保つことが大切なのかということが分かる。
実際に、イチローさんが目を瞑ってキャッチボールを実戦すると、1球目はやや外れたが、選手がキャッチできる範囲に。3球目は、約30mの距離から相手の胸の位置に綺麗に投げ込み、選手から歓声があがった。
イチロー:よーっしゃ、絶対にいい練習になるから。岩見くん、やってみる。目瞑って。
1球目は大きく左に逸れる大暴投。
イチロー:まぁ、そうなるよね。普通の事です。
それでも2球目以降はイチローさんがキャッチできる範囲に修正した。
イチロー:優秀だよね。ここ(捕球者の顔の位置)に来ればすごく優秀だと思う。(送球の)上下のブレは全く問題ない、横にブレて欲しくないんだよね。特に外野手はどんなに強い球が行っても横にブレたら刺せないから。まずは精度を高めてほしい。それはキャッチボールから始まっているので。
米大学に留学の生徒へ「日の丸がついてると思って」
8月に引退した3年生からは、こんな質問がとんだ。
選手:自分、アメリカの大学に進学することが決まったんですけど・・・
イチロー:えーーーそうなの!
選手:アリゾナ州のすごく強豪のカンファレンスと聞いていて、そこでプレーできる楽しみもあるんですけど、言語とか環境のストレスとか不安も抱えているのでアドバイスがあれば…。
イチロー:いやーそれはなかなかできない経験だから。それは苦労すると思うけど、絶対にいい経験になる。めちゃ苦労すると思うよ。絶対にいい経験になる。野球だけじゃなくて、価値観が変わるというか、ものの見方が変わるというか、もっと日本が好きになったり、アメリカっていいイメージだけど、こんな所もあるのかとか見え方が絶対に変わってくるから視野がすごく広がる。絶対に行った方がいい。
選手:シアトルの大学も見に行って、学校のコーディネーターさんが「日本人はイチローさんのおかげで野球も上手いし、人間性も素晴らしい」と言ってくれて。シアトルの大学は日本人の受け入れをすごくしているという話をしてくれました。
イチロー:それは嬉しい話だね。アメリカに行ったら、自分は日本代表というか、自分の行動がイコール日本人だって思われるということはしっかりと持っておいて欲しい。もう、ここ(胸)に日の丸がついているって思って行動してほしい。例えば今、僕がアメリカで野球がある都市に行ったら、僕がする行動は日本人というよりも「イチローってこうなんだ」ってなる。評価としては。でもさ、アメリカ人が知らない日本人の行動はイコール日本なの。
選手:そうですね。
イチロー:そうでしょう。だからそういう自覚を持って、それこそ日本代表だから頑張ってほしいね。その自覚は絶対に持っていないとダメ。うわーうれしい話、頑張ってね。
ブルペンではエース・岩見投手の投球を打席に入って確認した。
イチロー:(スライダーに)お、お、お、曲がるね。ベストピッチ(決め球)がスライダー?
捕手:はい。
バッターボックスで1球1球じっくりとボールの軌道などを見極めた。
「社会の厳しさに耐えうる大人になってほしい」
2日間の練習を終え、最後には球児たちにイチローさんからメッセージが贈られた。野球人である前に、人として大事にすべきことを球児たちに伝えたイチローさん。1日目の打撃練習で自身のアッシュのバットを手渡した高校通算24本のスラッガー・牟禮翔選手(むれ しょう、2年)には、バットをプレゼント。自身の経験をもとにプロを目指す上での心構えを説いた。
イチロー:迎える選抜大会は当然優勝候補筆頭になるわけね。そのときにみんな、九国を目指して倒すっていうモチベーションでやってくる。それはかなり大変なこと。今回2日間やった練習を僕は生かして欲しいと思ってる。僕にとってはかわいい後輩のような存在に既になっている。
野球で結果を残す。甲子園に出て結果を残す。もちろんなんだけれども、みんながその後、大学に進学したり社会人になったり、プロに行ったり、そのときに、社会の厳しさに耐えうる大人になってほしい、立派な大人になって欲しい。そっちの方がもっと強いということも知っておいてほしい。それがすごく大事なことなのね。
牟禮くん、アッシュはどうぞ使ってください。感触がなかなか味わえないので折れるまで、それはどうぞ使ってください。明確にプロを目指してるでしょ。もう目指すというより、入ることを前提として、取り組んでください。
僕の高校時代はね、プロに入るかどうかわからないドラフト4位の選手だったんで、そんな余裕はもちろんなかったんだけど、それでもプロに入ってから、高卒だったらここまでに結果を残してレギュラーを取る、というプランは明確にあった。高校時代もそうやって僕は過ごした。プロに入ってからの事を考えて、そういうプランがすごく大事なんでプロに入ることを前提として生活して欲しい。
みんなと勝利を分かち合う、甲子園を目指す、トップを目指す。それがあってこそなんだけれども、それとは別次元の話として、個人的にそこは当然のこととして、組み立てていってほしい。それができたらプロに入った時点で同い年の選手たちとはもう大きな差がついてるはずなんで。そこをイメージしてください。
みんなすごく個性があってね。面白いチームだなと思った。今はなかなか個性を見出しづらい流れ、世の中になっている中、この個性は素晴らしいなと思ったね。僕も個性の塊です。プロ野球選手の中、個性が多い中、割とその中でも強い。そうやってなかなか貫くのは大変なんだけれども、やっぱり人との違いがあった方が、それは面白いし、見てる人も面白いしね。
みんなの個性を大事に。それは当たり前にあるものではないので、個性と能力ね。なんか時代の流れとかさ、トレンドとかってあるじゃん。それに乗っかってるとなんか楽な感じあるよね多数派になるからさ。ある程度その多数派っていうのは、今ある世の中の流れの正解みたいなことでしょう、多数派だから。それは認めるんだけれども、自分はこうありたいっていうのをしっかりと持っておくのが大人だと僕は思うので。ぜひみんな、今回、大切な言葉として心に留めておいてください。みんなの個性はやっぱり特別なものなので絶対にそんなトレンドとか、左右されて欲しくない。
◆イチローさんの高校野球指導
今年で6年目を迎えるこの取り組みは2020年の智弁和歌山から始まり、21年は国学院久我山(東京)、千葉明徳(千葉)、高松商(香川)、22年に新宿(東京)、富士(静岡)、23年の旭川東(北海道)、宮古(沖縄)、24年の大冠(大阪)、岐阜(岐阜)、今年は中越(新潟)と通算12校目。
◆九州国際大付
夏の甲子園に10度出場、最高は2015年の準々決勝進出、その時は清宮幸太郎(現日本ハム)擁する早稲田実業に敗れた。センバツは3度出場、2011年にはのちにDeNAに入団する高城俊人を擁し決勝まで進んだが、東海大相模に敗れた。今年の夏は決勝まで進んだが西日本短大付属に敗れ、甲子園出場とはならず、新チームになり、秋の大会では4年ぶりに九州王者となり、先日19日に行われた神宮大会では初優勝を飾った。
・「インフルにかかる人・かからない人の違いは?」「医師はどう予防?」インフルエンザの疑問を専門家に聞く【ひるおび】
・「彼女から告白を受けていた」26年前の未解決事件、逮捕された安福久美子容疑者は被害者の“夫の同級生” まさかの人物に夫は…「事件の前年OB会で…」【news23】
・【全文公開】“ラブホテル密会” 小川晶・前橋市長の謝罪会見【後編】「どちらからホテルに誘うことが多かった?」記者と小川晶市長の一問一答(9月24日夜)
