
旧統一教会との関係が急浮上したある宗教団体についてです。この団体は旧統一教会の解散が確定した場合、財産の移転先に指定されています。どんな宗教団体なのか、実態を追いました。
【写真を見る】「乗っ取られた」旧統一教会“財産移転先”の宗教団体「天地正教」2代目教主の証言【報道特集】
旧統一教会 事前に決めていた残余財産移転先
世界平和統一家庭連合 田中富弘会長
「教団にとってみたら、法人にとってみたら、死刑です」
2025年3月、東京地裁から「解散」を命じられた旧統一教会。
教団は即時抗告。舞台を東京高裁に移し、審議は今も続けられている。
2021年度末時点で、教団の総資産は約1136億円。もし、解散命令が確定した場合、これらの資産はどこへ行くのか。東京地裁が出した解散命令の中で、ある事実が判明した。
東京地裁の解散命令
「旧統一教会は、残余財産の帰属先について、北海道帯広市に主たる事務所を置く宗教法人・天地正教とする決議を行った」
解散を命じられた際、清算を済ませた後に残る財産の移転先を、2009年時点ですでに決めていたというのだ。
当時、旧統一教会をめぐっては、信者による霊感商法が刑事事件に発展していた。
旧統一協会の“財産移転先”天地正教 聖地を訪ねると…
財産の移転先として指定されている天地正教とは、一体どんな宗教団体なのか?
天地正教が毎年行ってきた儀式「浄火祈願祭」の映像がある。
天地正教では、弥勒菩薩が信仰の対象とされ、信者向けの会報誌によると、かつては参加者が1万人にも上ったという。
北海道・十勝の山の中にある、その聖地を訪ねてみると…
記者
「北海道清水町にある剣山の麓です。『関係者以外、立入禁止』と記された看板がありますが、周囲に人影はなく、ほとんど車も通りません。入口には『聖火の郷』と書かれた大きな看板が掲げられています。すぐ下には『世界平和統一家庭連合』と記されています」
敷地内に建てられた石碑をよく見ると、「天地正教」の文字も確認できた。周囲に人影はないが、荒れた様子はなく整備が行き届いているようにも見える。
登記を確認すると、土地の所有権は2003年に天地正教から統一教会へと移っている。その面積は、天地正教の聖地だった場所と、周辺の土地をあわせて約83ヘクタール。
帯広市内にある天地正教の本部を訪ねると、人の気配は全くなく、何度電話をかけても繋がらない。
記者
「中にインターフォンがありますが、インターフォンすら押せない状況ですね」
近隣の住民は…
近隣住民
「全然人の出入りない。何十年前は人の出入り結構あったけど、それ以来もう人いなくなったから」
「晩にも電気ついてないしね。入っていないね、誰も」
少なくとも10年ほど前から、人の出入りがほとんどないという。
東京都内の天地正教の代表者宅を訪ねてみても、代表には会えなかった。
元信者が語る 天地正教から旧統一教会への移行の内情
そんな中、天地正教の元信者が私たちの取材に応じた。
和歌山市内に暮らす、80代の夫婦と義理の娘。1988年ごろ、妻が自宅の玄関先で勧誘を受けて、先に信者となった。
天地正教・元信者 妻(80代)
「“先祖供養しませんか?”と言ってきたと思う、最初に若い人が。“私もう先祖供養やってますんでいいですよ”と断って。ドア閉めかけた時に、“手相を見ましょうか?”と言ってくれて、それで見てもらったのがきっかけだったと思う」
――手相占いが当たっていたんですか?
天地正教・元信者 妻(80代)
「当たっていた。びっくりするほど」
その後、勧誘してきた人物は家系図を見せながら、きちんと先祖供養をしないと、今度生まれてくる孫に不幸が起こるかもしれないなどと告げてきたという。
夫と義理の娘も、これを聞いて天地正教の信者となった。
天地正教は、仏教系の「天運教」がその母体とされている。
初代教主は帯広の霊能者だという、川瀬カヨ氏。1956年に設立され、1987年に宗教法人格を取得。1988年、天地正教に名称を変えた。
信者に対しては、先祖供養のためには、弥勒信仰が必要だと説いている。
和歌山の元信者は入信してすぐに、自宅の敷地内にあった倉庫を天地正教の道場へと改装した。
天地正教・元信者 夫(80代)
「男のメンバーを呼んできて、日曜日にトンカチやって。天地正教の場合は“道場”というんですけど、それを作って。ここを天地正教の事務所にしたりとか。祭壇を作るのに全部で1500万円ほどかかっている。弥勒仏とか多宝塔とか、一式で1500万円やったかな」
祭壇の中央には、真っ白な弥勒菩薩像が据えられていた。だが、信仰の対象だった弥勒菩薩像は、現在物置の片隅に置かれている。何があったのか。
「弥勒様は文鮮明氏」 天地正教に変化
1993年に撮られた写真には、初代教主の川瀬カヨ氏と、旧統一教会の設立者・文鮮明氏が写っている。3か月後、川瀬氏はこの世を去った。
川瀬氏の死後、2代目教主には娘の新谷静江氏が就任した。信者向けの会報誌の中で突如、驚きの宣言をする。
「弥勒様は文鮮明師である」
弥勒菩薩が、実は文鮮明氏だったというのだ。新谷氏は、川瀬カヨ氏が生前に、“弥勒が文鮮明氏である”との「お告げ」を受けていたと信者に説明していた。
和歌山市の天地正教・元信者によると、この宣言の後から自宅の道場に旧統一教会の信者が次々とやってくるようになったという。
天地正教・元信者 夫(80代)
「旧統一教会の方へ合流というか、吸収というか、一緒になってしまった。全部ですわ。天地正教一式全部が統一協会に移行したという形」
――きょうから私たちは統一教会だと?
「そうそう、移行しますということで。“みなさん入りますか?”ということで、全員そっくりそのまま」
――その時に疑問は抱かなかったのか?
「天地正教は仏教系だったけど、統一教会はキリスト教系だったので、ちょっと“ズレ”はありましたね。なんかこっちは見下げられたような、そういう心境にはなりましたけど。最初は」
義理の娘は当時、道場の庭先でこんな光景を目の当たりにしていた。
天地正教・元信者 義理の娘(50代)
「信者が叶えたいことを書いていた護摩木を全部焼いていた。何人か“上の人”らが来て、ドラム缶が置いてあって、そこでボンボン焼いていた。もう天地正教のもの要らんやん。だからちゃうん」
祭壇取り壊す指示 エスカレートする献金要求
1500万円をかけ、信者仲間と手作りした道場の内部も大きく変化していった。
天地正教・元信者 妻(80代)
「ここ、祭壇あったところ」
かつて弥勒菩薩像があった祭壇。旧統一教会側から、取り壊すよう指示を受けたという。
――統一教会に変わった後は?
天地正教・元信者 夫(80代)
「後はもう、こっちを塞いでしまって。“そんなもん石ころやから埋めてしまえ”とか、ある人に言われた。“全部砕いてしまってこれも捨ててしまえ”と言われたけど、もったいないから置いている」
祭壇を壊した後、部屋には文鮮明夫妻の写真が飾られた。天地正教の道場は、いつしか旧統一教会の集会所になっていた。
こうした旧統一教会への実質的な「移行」は、天地正教の信者に対して、和合(わごう)と説明された。旧統一教会で、「摂理」と呼ばれる様々な計画を実現するためとして、献金を求められ始めたという。その要求はしだいにエスカレートしていく。
天地正教・元信者 夫(80代)
「とにかくね“家にあるだけ出せ”ということなんですよ。献金のたびに“摂理”だった。韓国・清平で館を作るとか、費用のいる、お金のいる話」
天地正教・元信者 妻(80代)
「“ワールドセンターの摂理”とか。そういうの“摂理 摂理”って」
夫婦によると、献金額は2億円を超えるという。保険を次々に解約し、それでも足りず、消費者金融などから借金を繰り返していった。
天地正教・元信者 妻(80代)
「慌てて“やってあげなあかん”と思って。恥ずかしい思いして、キャッシュコーナー行ってお金をつくって、30万円ほど精一杯出して。プロミスも行った、武富士も行った。震えてくる。なんか、そこらから見られているような感じで」
夫婦は1999年に韓国へ渡り、文鮮明氏から祝福を受けた。
一方その前年に、弥勒菩薩が文鮮明氏であるとの宣言をした、2代目教主・新谷静江氏が天地正教を去っていた。一体何があったのか。
「乗っ取られた」2代目教主の証言 高額献金に疑問も
旧統一教会の被害者支援などを行ってきた弁護士に対して、新谷氏はこう話していたという。
新谷静江氏に聴き取り 渡辺博弁護士
「本来の天地正教の信者がいたにもかかわわらず、そこに、その数倍・数十倍の信者を送り込まれて乗っ取られる形になって、(新谷氏は)“不本意だった”と言っていますね。旧統一教会信者が運営を牛耳るようになって、猛烈な献金の強要と、借金をしてまで献金しろとノルマが課されて。そういう時代になっていきました。“そこはやり過ぎじゃないか”ということで反発は持ったと」
旧統一教会が信者に要求する高額献金に疑問を抱き、反発する姿勢を見せていたという新谷氏。
新谷静江氏の陳述書(2006年10月)
「文鮮明氏に何度か手紙を出し、話を聞いてもらうことを切望しましたが、その機会は一度も与えられませんでした。結果的に私は教主という立場を解任させられました」
新谷氏は、天運教から天地正教へと名称を変更したことも、宗教法人格を得たことも、旧統一教会からの「要請」だったと話していたという。
2代目教主の新谷静江氏が去った後も、天地正教の法人格は存続している。教主制度は廃止され、旧統一教会から来た人物が「代表」の座に就くようになった。
旧統一教会は名称変更や法人化の要請について、「そのような事実はない」と否定。新谷氏が“解任された”としていることも「把握していない」とした。
旧統一教会と天地正教 現在の関係は…
旧統一教会の実態を研究してきた宗教学者は、当時日本で若者を中心に信者を増やしていた旧統一教会にとって、仏教系の天地正教が都合の良い存在だったのではないかと指摘する。
宗教学者 北海道大学 櫻井義秀特任教授
「日本で資金を調達するためにはどうしたらいいかということで、中高年の人に入ってもらった方がいいだろうと。日本には先祖祭祀っていうのがあって、先祖のために供養するとかですね、先祖のために喜捨をするとか、献金するとか、お布施を出すとか、そういう文化がある。キリスト教系であるよりも、仏教系の宗教を作った方がいいということで、仏教系新宗教として、天地正教を作った。作りたかったわけです。その土台として、天運教(のちの天地正教)を利用したということだった」
旧統一教会は取材に対し、天地正教とは教団の枠を超えて交流を深めてきたが、指揮命令する関係にはないなどと回答した。
旧統一教会の回答
「当然ながら当法人に(天地正教が)“乗っ取られた”という事実はありません。当法人が残余財産の帰属先として、天地正教を指定したことは事実ですが、宗教法人法に則って正当な手続きを行ったに過ぎません」
また、天地正教にも質問状を送ると、教団の代表者から「信者が約4000人いる」とする回答があった。
旧統一教会に、残余財産の移転先として指定されている事については「把握するところではない」とした。
天地正教の回答
「当教団は家庭連合(旧統一教会)とは別の宗教法人であり、友好的な関係を続けています。家庭連合に吸収されたという事実はございません」
そのうえで…
天地正教の回答
「私は家庭連合の会員でもあります。日本では神棚と仏壇を奉安しているケースも多く、私が天地正教と家庭連合の信仰をしていることも自然なことで、違和感は持っておりません」
天地正教の代表者は、旧統一教会の会員でもあることを自然なこととしている。
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