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ボーナス月でも実質賃金マイナスの衝撃、トランプ関税で賃上げ失速リスクも【播摩卓士の経済コラム】

経済
2025-08-09 14:00

大いに失望させられる内容でした。夏のボーナス月にも関わらず、6月の実質賃金が前年比で1.3%減少し、プラス圏に浮上できなかったのです。ボーナスが期待ほど伸びなかったためで、今後の賃金上昇には不透明感が高まっています。


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6月の実質賃金1.3%減

6日発表された毎月勤労統計によりますと、6月の現金給与総額(名目賃金)は、前年同月比で2.5%上昇しました。しかし、持ち家の帰属家賃を除いた消費者物価が3.8%の上昇だったため、実質賃金は1.3%減少しました。実質賃金のマイナスは6か月連続です。


「物価高に賃金が追いつかない」という基本的な構造に変わりはありませんが、6月の調査で衝撃的だったのは、ボーナスなど「特別に支払われた給与」が3.0%上昇に留まり、名目賃金を大きく引き上げるほどの貢献ができなかったことです。


ボーナス月でも実質賃金がプラスにならないのであれば、この先実質賃金がプラスになるのは、しばらく難しいのではないかという見方が広がっています。


去年はボーナス月に実質賃金プラスに浮上

去年、2024年の場合、実質賃金は6、7月と11、12月の4回、プラス圏に浮上しました。いずれも「特別に支給された給与」が大きく伸びたためでした。去年6月の「特別に支給された給与」は7.8%の増加、冬のボーナス月にあたる12月は6.2%の増加で、3.0%だった今年6月の倍以上の伸び率でした。その影響で名目賃金は、去年6月の場合は4.5%、12月は4.4%も増加し、これらの月には物価上昇率を上回って、実質賃金のプラス化が実現したのでした。


今年6月の名目賃金が、わずか2.5%増と普段の月と変わらない増加にとどまったのは、それだけボーナスが「しょぼかった」からです。


今年の春闘は、連合まとめで平均5.25%という高い賃上げが実現しました。中小企業を含めて、人手不足に対応するためにも、多くの企業が、いわば「頑張って」賃上げしたものとみられます。そのため、一部の大企業を除いた多くの企業で、夏のボーナス支給が「渋く」なった可能性が高いと見られています。春闘で基本給を引き上げた分、ボーナスを抑え気味にしたケースがあったのでしょう。また、春以降のトランプ関税騒動が、経営者に現実的な判断を迫った可能性もあるかもしれません。


トランプ関税の影響はこれから

トランプ相互関税は、ついに8月7日に正式発動され、これまでの10%に猶予されていた相互関税は、15%に引き上げられることになりました。しかも、日本政府が説明する日米の合意内容が大統領令に反映されず、当面、過去の関税率に15%が上乗せされる過大徴収が行われるほか、27.5%もの自動車の関税率が15%に引き下げられる期日もはっきりせず、各企業にとっては、今後の負担増の正確な計算さえできない状態が続いています。冬のボーナスや来年の賃上げに高い期待感を持てる環境ではありません。


自動車産業はトランプ関税で大幅減益へ

とりわけ日本の基幹産業である自動車への影響は大きくなりそうです。7日に発表された最大手のトヨタ自動車の4-6月期の決算は、生産増加で売上高が4%も増加したにもかかわらず、関税に加え円高もあって、純利益は前年同期比37%もの減少となりました。


4-6月決算で言えば、経営再建という構造要因を抱える日産の他、対米輸出依存の高いマツダも赤字転落となりました。


26年3月期の通期見通しを見ると、トヨタの場合、関税の影響が1兆4000億円にも上り、営業利益が33%減少するという予想です。しかもこれは、8月から関税が15%に下がる前提での計算だと言います。


自動車7社合計では、関税の影響は2兆7000億円にも達し、各社の本業のもうけである営業利益は2割から7割減ると見通しています。打撃が大きいマツダでは営業利益73%もの減益見通しです。


基幹産業の利益が3割、あるいはそれ以上減るという環境で、どうやって今年並みの高い賃上げを続けられるのか、というのが、今の日本経済に突き付けられている重い課題なのです。


今年度の最低賃金は6.0%引上げへ

こうした中で今年度の最低賃金の大幅引き上げが決まったことは、賃上げにとってはエンカレッジングなニュースでした。


国の中央最低賃金審議会は4日、今年度の最低賃金の引き上げの目安を、全国加重平均でこれまでで最も高い、63円、率にして6.0%引き上げて、全国平均で1118円とするという目安を決めました。これで、全国すべての都道府県で最低賃金が1000円を超えることになります。


最低賃金は、賃上げに対して国が直接的に関与できる、数少ない事柄であり、賃上げのモメンタムを維持することへの強い決意の表れと言えるでしょう。最低賃金の引き上げ率は、当然、働く人全体の賃上げに影響を及ぼします。


最低賃金引き上げの実施は、毎年10月からです。ちょうど、春の賃上げと、次の春闘の中間の時期にあたることから、来期の春闘、賃上げへの一つの目安になる動きです。今のようにトランプ関税の影響など先行き不透明な中で、去年を上回る最低賃金引き上げが決まったことは、それなりに大きな意味を持つものと言えるでしょう。


筒井経団連会長、賃上げに強い決意

経団連の筒井義信会長は、先日、私の単独インタビュー(『Bizスクエア』7月26日放送)に対し、「好循環の起点は、あくまで賃上げだ」と、賃上げへの強い決意を表明しました。その上で筒井会長は、「関税など不透明な状況に直面はしているが、内部留保も含めた総合体力を勘案して賃上げに取り組むべきだ」、「賃上げはコストではなく投資という位置づけで」、「物価上昇を差し引いた実質1%程度の賃金上昇を確保すべき」と語り、来年の春闘でも高い賃上げを続ける必要性を強調しました。


剣が峰に立つ「好循環」路線

政府や経済界の賃上げへの強い意志は今のところ揺らいでいません。そのこと自体は好ましいことですが、問題はそれを可能にする状況が続くかどうかです。同時に、実質賃金をプラス化するために、物価上昇を巡行速度に引き下げる政策努力が極めて重要な局面です。正直、自民党内の権力争いなどやっている暇などないはずです。


賃上げ失速リスクを回避する経済運営ができるのかどうか、この数年間の、ウクライナ危機に端を発した新インフレ時代の「好循環戦略」は、まさに剣が峰に立たされています。


播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)


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