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“不平等条約”80兆円対米投資…「不利益を生じさせない」ために必要なことは?【Bizスクエア】

経済
2025-09-17 06:30

相互関税や自動車関税を15%にするための、いわば条件になった80兆円の対米投資。「不平等条約」との声が上がる中、日本がすべきこととは? 


【写真で見る】“不平等条約”80兆円対米投資…「不利益を生じさせない」ために必要なことは?


車部品メーカー「9月からは増産」

「8月までは自動車メーカーの生産台数が落ちていたので、当社の生産も“8月までかなり低稼働の状態が続いていた”


こう話すのは、「マツダ」関連の受注が7割を占める自動車部品メーカーの『荻野工業』(本社・広島県熊野町)だ。


トランプ関税の影響で5月以降、製品の納品先のマツダが生産台数を減らしたため、売り上げが10~15%ほど減ったというが、ここに来て変化が…。


佐々木裕孝社長:
「9月からはマツダの生産がかなり回復してきている。当社も自動車メーカーの生産に合わせて、“9月からは8月までに比べると増産”になっている」


一方で、朝令暮改のトランプ政権に不安もあるという。


佐々木社長:
「トランプ政権は、いきなり話が変わったりすることはあり得る。日本サイドが約束したことを実行できなければ、またアメリカから新たな条件が出てくることは当然考えられる」


日本は投資先を選べない?

佐々木社長が心配しているのは、約80兆円に上る日本の対米投資の問題。


日米両国が署名した合意文書では、これを実行しなかった場合「再び関税が引き上げられる可能性」が示されている。


【対米投資 覚書】9月4日
▼投資額は5500億ドル(約80兆円)
“大統領が投資先を選び”即時利用可能な資金を口座に拠出
▼投資は2029年1月19日まで随時
▼利益は融資返済まで“日米で50%ずつ”分配し、その後は“アメリカに90%・日本に10%”分配
日本が資金を出さなければ“関税引き上げも”


また、この対米投資をめぐっては、日本側は「協議委員会」のメンバーという立場で、その上の大統領に投資先を推薦する「投資委員会」のメンバーには入っていない。


12日の参院・予算委員会では、この問題について野党から追及が―

日本維新の会・片山大介参院議員:
「日本が同意しなかった案件は、投資委員会は大統領に上げるのか上げないのか」

赤沢亮正経済再生担当大臣:
「当然戦略上あるいは法的に協議委員会で私どもの考えを伝える。懸念しているような選択肢というものが、投資委員会から大統領に上がるということはないと理解している」


また、別の議員からは「不平等」との指摘も―

立憲民主党・高木真理参院議員:
“日本企業が投資するが投資先を選べない”。日本人が入っていない投資委員会の推薦に基づいて“トランプ大統領が決める”となっている。“令和の不平等覚書”ではないかと思うが」

赤沢大臣:
「日米双方で経済安全保障上重要な分野について、米国の中にサプライチェーンを作り上げようということなので、私はwin-winの関係にしっかりなっているもので、“不平等条約というふうに呼ばれるような内容ではない”と理解している」


日本も参加「協議委員会」の役割

赤沢大臣が「不平等条約」ではないという対米投資だが、その仕組みを見てみる。


▼米「投資委員会」が案件検討⇒▼日米の「協議委員会」で協議⇒▼米「投資委員会」の推薦の中からトランプ大統領が投資案件を決定

トランプ大統領が案件を決めたら
▼プロジェクトを管理する「SPV」(特定目的事業体)が設立され
▼その「SPV」に対し、日本の政府系金融機関である「JBIC」(国際協力銀行)や「NEXI」(日本貿易保険)が、出資・融資、民間金融機関の融資保証を行う


つまりは、日本企業の対米投資の促進ではなく、アメリカに産業復興させるための「日本の公的金融支援」のようなものだ。


その上で、日米の通商交渉に詳しい細川昌彦さんは、日本も加わる「協議委員会」の役割に注目する。


『明星大学』教授 細川昌彦さん:
「日本が協議委員会で何を提起するのかというと、JBIC(国際協力銀行)やNEXI(日本貿易保険)が、JBIC法などの“法律に基づいて”やる。法律には投資案件を審査する要件、さらには日本企業が関与することや、日本の経済安全保障にプラスになるかどうかをきちんと見なければいけないと書いてある。そういうことを踏まえて審査した上で、法的に問題なければ良いけども、駄目だったら駄目と協議委員会は投資委員会に言うと。こういう仕掛けになっている」


――最悪の場合、出資や融資が焦げ付いた場合は日本側がダメージを被る。財政投融資が傷ついて、日本の公的負担になる


細川さん:
「なので国会答弁でも繰り返し“法律に基づいて”やると言っている。それは当然のことだが、トランプ政権の圧力で“審査が甘くならないかどうか”、そこが問題。枠組みの問題というよりも“運用の問題”で、審査が甘くなると焦げつくリスクはないわけではない。だからJBICがきちんと法律に基づいて審査しているかどうかを“日本の国会がしっかり監視しないといけない”


アラスカLNG「日本に資金を要請」

トランプ氏が選択する事業の本命として、急浮上しているのが「アラスカのLNG開発」だ。


米・ラトニック商務長官は「“1000億ドル(約15兆円)規模”のプロジェクトだ。大統領が承認する。アメリカで建設作業員を手配して“日本に資金を出すよう要請”する」と発言(11日CNBC)。

そして日本の発電大手『JERA』は10日、米LNG開発企業と「関心表明」の意向書を締結した。


――日本では「割が合うのか?」と慎重な見方が多かったが、東京電力と中部電力の合弁企業の「JERA」が前向きな姿勢に。徐々に外堀が埋まっているような形なのか


『明星大学』教授 細川昌彦さん:
「そうとも限らないと思う。日本だけじゃなくて韓国、台湾、そういうところが関心表明をするということが相次いでいる。ただし、最終的には割高になっては駄目なので、価格次第でどうなるかわからないという状態。価格が高くなるのは当然だが、どこまでなら許容できるかという問題」

――しかし、ラトニック氏が「1000億ドル出せ」と

細川さん:

「ラトニック氏はトランプ氏と同じような感覚の人だから、真に受ける必要は全くない。それに、日本だけじゃなくて韓国にも同じように資金を出すよう要請してくるだろう。さらには、『日本だけじゃなくてアメリカの石油会社も資金を出す』ことを前提にして物事を進めていく、こういう条件闘争がこれから始まっていくと見た方がいい」


これも、“運用”の問題で、「アメリカも金を出す」という仕組みを作って行けるかが大事だという。


「外国企業の米国投資」に日本が融資

そして、細川さんが非常に大事なポイントと話すのが「外国企業のアメリカ投資」も、8兆円の対米投資の対象にするという点だ。
外国企業のアメリカ投資に「日本が資金を出す」ということだが…


『明星大学』教授 細川昌彦さん:
「2023年にJBIC法が改正され、【日本の経済安全保障のためには、外国企業にも金を出す】としている。ただし無条件ではなく、日本の経済安保にプラスになるかどうか。例えば台湾のTSMCがアメリカに工場を作る時に、日本の装置、日本の企業から材料を買う。しかも作られた半導体は日本企業が買う。サプライチェーンの中に組み込んでもらうことで日本にもプラスになると」


――熊本にTSMCが工場を作るから、日本の国際協力銀行が金を出すというのはわかるが、アメリカに作るときに日本が金を出さなきゃいけないものなのか

細川さん:

「出さなきゃいけないというよりも、“日本にとってプラスだから出す”。例えばヨーロッパの製薬メーカーがアメリカに進出する時に、材料などを日本企業が供給するという形でアメリカも含めたサプライチェーンに関与する。そのことで、“日本が不可欠な存在になっている”こと自身が、日本の強みになる」


覚書では「約80兆円の投資対象」として
▼半導体▼医薬品▼金属▼重要鉱物▼造船▼エネルギー(パイプライン含む)▼人工知能(AI)▼量子コンピューティングなどがあがっている。


新政権に求められる通商戦略

では、石破首相退陣後の新政権には、どのような通商戦略が求められるのだろうか。

細川さんは「対米投資での“運用”がきちんとできるかどうか」の他に、もう1つあると話す。


『明星大学』教授 細川昌彦さん:
「やはり米国市場への依存度を下げていかなければいけない。それから中国の自己完結しようという動きがある。そういう中で、アメリカ・中国に依存しない、“戦略的自律性”を掲げる国々でどう連携していくか。ヨーロッパ、韓国、オーストラリア、カナダなどとの連携の取り方、これがものすごく大事になってくると思う」


(BS-TBS『Bizスクエア』 2025年9月13日放送より)


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