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自民総裁選、踏み込み不足の経済論戦、長引く政治空白のツケ【播摩卓士の経済コラム】

経済
2025-09-27 14:00

参議院選挙で民意が示されてから、すでに2か月以上が経ちました。「石破おろし」に時間がかかった上に、自民党総裁選挙のフルスペック実施で、この間、政治空白が続いています。その総裁選でも候補者たちは、党内の支持固めのため「安全運転」優先で、論戦は低調に見えます。


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参院選で示された「物価高対策」の民意

物価高対策など経済政策を最大の争点とした参議院選挙が行われたのは、7月20日のことでした。自民、公明の与党両党合わせても過半数を割り込むという結果で、民意は明確に示されたのです。有権者は何よりも物価高対策を求め、「現金給付より減税」を望むという意思を示したと言えるでしょう。


しかし、その後、新たな物価高対策が立案・実行されることはありませんでした。夏休みに加え、「政局の季節」になってしまったからです。国会も実質的には開かれないままです。


総裁選で「尖った主張」は封印

こうした中で自民党の総裁選挙が始まり、物価高対策を前に進める具体的な議論が期待されましたが、これまでのところ、論戦は踏み込み不足になっています。


総裁選挙の性質上、各候補とも、まずは自民党内の最大公約数を取り込むことが課題になるからで、敵を作るような「尖った主張」は封印することになりました。「有力」とされる候補ほど、その傾向が強く出ているように思います。


また、総裁就任後には、野党と連立や協力を求める交渉をしなければならないことも、発言の自由度を制約しているように思います。


高市氏「消費減税は撃沈」

切れ味の良さが売り物の高市早苗前経済安保担当大臣。自民党内にありながら、これまで食料品への消費税減税を主張していました。しかし、討論会では「主張が党内で多数の支持を得られず、撃沈した」と語りました。さらに問われても、「選択肢として排除するものではない」と答えるのが精一杯で、自民党が消費税減税に傾く可能性は、ほぼなさそうです。


また、金融政策をめぐる発言もトーンダウンしました。アベノミクスの「後継者」を自認する高市氏は、去年の総裁選では「今、金利を上げるというのはアホやと思う」と、痛快な踏み込みぶりでしたが、今回は「経済・金融政策の方向性を決める責任は政府にあるが、その手段は日銀が決めるべきだ」と、いわば大人の発言でした。


小泉氏、規制緩和や夫婦別姓から距離

改革が旗印の小泉農水大臣も、今回は慎重な発言が目立ちます。去年の総裁選で物議を醸した、解雇規制など労働市場の規制緩和は引っ込め、ライドシェア解禁にも触れません。


若年層や女性に関心の高い選択的夫婦別姓についても、去年の積極姿勢から一転し、党内の議論を優先する姿勢です。


ガソリン暫定税率廃止では全員一致

そうした中で5人の候補が前面に押し出すのが物価高対策です。中でもガソリン税の暫定税率廃止は、5人全員が掲げています。ガソリン暫定税率をめぐっては、すでに廃止を目指した与野党協議が行われている段階だけに、どの候補も今や賛同しやすいのでしょう。


ただ、問題は「どのようにして」廃止するかです。現実に与野党協議では、代替財源をどう確保するかを巡って一致点を見出せておらず、「代替財源がなければ廃止できない」という「自民党税調の壁」を突き崩すには至っていません。


その意味では、総裁選の候補者に求められているのは、単に暫定税率廃止を言うだけではなく、廃止に向けた具体的道筋を示すことなのですが、議論はそこには至っていません。話が前進しているとは、なかなか言えません。


「壁」引き上げ等、所得税減税に傾斜へ

では、参院選で示された「現金給付より減税を」という民意には、どう応えるのか。総裁選で消費税減税に積極姿勢を示す候補者はおらず、なかんずく、代わりに所得税減税に傾斜する傾向がはっきり出ています。


とりわけ、国民民主党が主張する、いわゆる「年収の壁」の引き上げについては、小泉氏が討論会で「所得税の基礎控除などを物価や賃金の上昇に合わせて引き上げる」と述べた他、高市氏も「引き上げには賛成だ」と明言しました。茂木前幹事長も前向きな姿勢です。


3人の候補が前向きなら「年収の壁」の更なる引き上げも実現可能性が高まろうというものですが、こちらも所得層ごとの引き上げ額や減収分の財源など、具体的な点を詰めなければ前には進まない話です。総裁選でそうした議論まで期待するのは、少し酷かもしれません。


このほか、小林元経済安保担当大臣は、抜本的な所得税制の改革を提起し、それまでの間、低中所得者に限った所得税の定率減税を主張しました。所得減税を中心に据える構えです。その小林氏と茂木氏は、スピード感を重視して、地方交付金による物価高対策を訴えました。


事実上消えた「一律現金給付」

一方、林官房長官は官房長官という立場上、現金給付を完全に否定するわけにも行きませんでしたが、「固執するつもりはない」と述べており、石破内閣の現金給付案の実現可能性は限りなくゼロに近くなったと言えるでしょう。林氏は、世帯の実態に応じて低中所得者の負担軽減を行うための「日本版ユニバーサル・クレジット」の創設を提唱しています。


大事な時期に「政治空白」は3か月に

自民党総裁選挙の投開票は10月4日。新総裁が決まっても、総理指名選挙を経て新内閣ができるのは、10月半ば以降になります。結局、参議院選挙から3か月が空白期間になってしまいそうです。


この間、実質賃金を一刻も早く、少しでもプラスにすることが求められていた、貴重な貴重な時間が費やされたことになります。こうした政治空白の積み重ねが、「物価と賃金」或いは「成長と分配」の「好循環実現」という、大きな目標の実現をさらに遠のかせることになっているのです。新しい政治の体制が発足後に、効果的な政策を迅速に打ち出せるよう、総裁選期間中に、実質的な政策論戦が深まることを願うばかりです。


播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)


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