
2024年11月に創刊された文芸誌「GOAT」が大ヒット。人気のウラには“異例の作品依頼”から“ページのこだわり”、“安すぎる値段”など「手に取ってもらう」ための様々な戦略が。
【写真を見る】なぜ?文芸誌『GOAT』大ヒット…「手に取りたくなる」“異例の発想”が山盛り【THE TIME,】
「他社より可愛く」所有欲を刺激
文芸誌とは、小説や評論・エッセイなどを掲載する雑誌のこと。
『紀伊國屋書店 新宿本店』(東京・新宿区)では「文芸誌は月に30冊売れれば上々」というなか、「GOAT」(小学館)はなんと、“1ヶ月で約600冊売れている”とのこと。
「20代から始まり本当に“幅広い人に受けている”」(サブチーフ・小島規子さん)
創刊号の累計発行部数は11万5500部と“文芸誌史上最多”の売り上げで、「2025年ヒット商品番付」(日経MJ)にも入っています。
本が売れない時代に、多くの人が手に取る理由はどこにあるのでしょうか?
「“カラーが綺麗”で目についたので手に取った」(30代女性)
「“表紙が綺麗”だったので、ちょっと買って読みたいなと」(40代男性)
他の文芸誌とは全然違う、可愛いヤギが描かれた【キラキラの表紙】。
通常の何倍もお金をかけて試行錯誤したといいますが、なぜこの表紙に?
「GOAT」編集長・三橋 薫さん:
「他社の文芸誌と比べて“とことん可愛くしたい”と思って作った。いま本を買う動機って、“所有したい”というところがすごく大きいのかなと思う。あまり素敵じゃないものは買いたくないから、“可愛いは大事”」
豪華作家に“ムチャぶり”依頼
手に取ってもらうための戦略は【作家の顔ぶれ】にも。
「豪華。今売れているすごく好きな作家さんがいっぱい詰まっている」(20代女性)
表紙に並ぶ名前は、直木賞作家の西加奈子さん、朝井リョウさん、小川哲さん、本屋大賞受賞の冲方丁さんなど、ベストセラー作家がたくさん。
冲方丁さん本人からも「“よくぞ集めたな”と。いろんな具材が入ったサンドイッチになっていて、“文芸フェス”みたいな感じ」との声があがるほどで、【有名作家への依頼の仕方】も普通じゃないといいます。
小説家・冲方 丁さん:
「愛・悪・美など1冊ごとにテーマを決めて、お題は抽象的である分、自由度が高くて『お前ならこれをどう料理するんだ』と“編集者が突きつける挑戦状”みたいな感じ。久しぶりだったな。新人以来」
中でも挑戦的なのは、「真っ黒なページ」に白文字で綴られた作品。
『小学館』学芸編集室・柏原航輔さん:
「紙を作る会社に見学に行ったら“業界一黒い紙”と呼ばれている<NTラシャ漆黒>がショーケースに飾られていた。この紙を使って企画を立ち上げられないかなと、朝井リョウさんにお願いした。紙しか決まっていなくて、そこから物語を発想してもらうという“結構ムチャぶり”」
見た人が驚く作品は他にも。
まるで平成女児のマストアイテムだった「プロフィール帳」のようなページが何枚も。子どもの字で名前や好きなモノ、コメントなどが綴られていますがー
「これ自体も物語なんだ。何か今ゾッとした。読み方が変わった」(30代女性)
“プロフィール帳だけで読み進める”ホラー小説。インターネット上で人気のホラー作家・梨さんの作品です。
「赤字でも」業界を変える戦略
【全て読み切り】というのも手に取ってもらう戦略の1つです。
「GOAT」編集長・三橋 薫さん:
「仕事とか子育てとかの合間に、“ラフな感じで読んでもらいたい”」
一般的に、文芸誌は連載作品が多いのですが、読み切りにすることで“どの号からも楽しめる”。冲方さんは、こうした手法が新しい読者の心を掴んでいるといいます。
小説家・冲方 丁さん:
「各々の雑誌に歴史があるので、歴史を背負ってるからこそ出来ること・出来ないことが生じる。新しい読者へのアプローチにちょっと悪戦苦闘しているなか、GOATは一点突破で、“今の読者に照準を合わせて、歴史がない自由さを存分に生かした”」
表紙にこだわり、作家陣も豪華なGOATですが、売れる最大の理由は「手に取りやすい値段」。一般的な文芸誌が1000円以上するなか、GOATはその名前にちなんで510円です。
「GOAT」編集長・三橋 薫さん:
「採算を取る考えではやっていない。単体で赤字でも累計30万部以上売れる⇒書きたいという魅力的な作家が集まる⇒魅力的な作品が生まれるという流れ。ここから書籍を出して、映像化していく中で収支を立てていくという考え方でやっている」
冲方さんも「この成功例が多くの雑誌にもいい影響を与えてくれるかも」と話す新しい本の売り方が、今後広まっていくかもしれません。
(THE TIME,2025年12月23日放送より)
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