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驚きの師弟同時出場、男子1500mで飯澤千翔が日本勢44年ぶりの金メダル ! コーチの荒井七海は5位入賞【アジア選手権】

スポーツ
2025-06-01 13:28

陸上競技のアジア選手権は5月27~31日に韓国クミで行われた。大会2日目の28日に行われた男子1500mでは、飯澤千翔(24、住友電工)が3分42秒56で金メダルを獲得。日本勢としてこの種目44年ぶりの優勝を飾った。荒井七海(30、Honda)も5位に入賞したが、荒井は飯澤のコーチでもある(双方のチームが荒井の指導者としての活動を認めている)。選手とコーチが同じレースに日本代表として出場した極めて珍しいケースで、飯澤は「荒井さんが勝たせてくれた」とまで話している。2人はどんな二人三脚で、アジアの頂点に立ったのだろうか。


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金メダルを決めた最後の直線

フィニッシュ地点に向かうホームストレートで、自身の優勝が難しいとわかった荒井は「とにかく行き切ってくれ」と、飯澤の背中を見ながら走っていた。44年ぶりの快挙は、飯澤の最後の直線での走りで決まった。体格を生かした大きな走りは、力みを感じさせない動きで、地元韓国のジェイウン・リー(22)に2m差を付けた。


飯澤と荒井はいつも、レース戦略を事前に話し合う。「荒井さんからレース中は3、4番手の位置で進めて、ラスト100~120mでスパートしよう、と言われていました。そのプランを遂行するために、どの位置にいればいいかを考えながら走っていましたね。予選で韓国の選手の動きが良かったので、その選手の位置も確認しながらレースを進めていました」


最初は荒井が前から2列目にいたが、400m過ぎにインドの選手が前に出てペースを上げたのに対応できず、前の3選手と少し差が生じてしまった。だが空いたスペースに飯澤が700mで入ったことで、荒井は「しっかり対応してくれている」と安心できた。飯澤はその後リーを左前に出し、5番目のポジションをポケットされる(右斜め前に選手がいて、外側に出にくい位置を走ること)ことなく走り、最後100mでスムーズにスパートができた。


「飯澤はラスト200mでスパートして、最後の直線で固まることもあるのですが、今回はそれがありませんでした」レースプランを遂行する力だけでなく、飯澤の持っている能力の高さを、荒井は改めて見た思いがした。「飯澤は2月と4月にふくらはぎの筋膜炎を起こし、この1か月半は別メニューでした。それでも大舞台で120%、150%の力を出すんです」


故障をしたことは、「僕のトレーニングの采配ミス。申し訳ないと思っている」と荒井は反省するが、飯澤は「僕だけのメニューを組んでくれて、その意図を細かく説明してくれる」と感謝の念を持っていた。
 


どんな練習にも120%の準備で臨む飯澤

今季の目標を「一番は東京2025世界陸上出場」と話したが、それを達成するためのトレーニング方針は少し意外なものだった。「世界陸上参加標準記録の3分33秒00を考えてトレーニングをしていきます。そのためには特別な何かをする必要はなくて、ケガをしないで練習を継続すればタイムは勝手に出てくれる」


日本記録は3分35秒42で、飯澤の自己記録は3分35秒62の日本歴代2位。飯澤は「アジアの中距離のレベルは低いので」と現実を直視するが、近年日本のレベルが上がっているのも事実。その中でも3分38秒未満で4回走っている飯澤は、日本記録を更新する候補の一番手に挙げられている。しかし3分33秒00とは2秒62と、その差は小さくない。飯澤も「日本記録は時間の問題と思っていますが、参加標準記録は難しい記録ではあると思う」と認識している。それでも「日本記録を狙ってトレーニングをしていけば、3分33秒もイケる」と、特別な練習はしないことを繰り返した。


荒井にトレーニングに関する説明を取材して初めて、飯澤の「練習を継続するだけ」の意味が理解できた。荒井は自身もそうだが、「どんな練習でもレースのような準備をすること」をトレーニングの基本に置いている。それを完璧に実行しているのが飯澤だ。「彼はワークアウト(負荷の高いメニュー)でもジョグでも、リカバリーでも、120%の準備をして練習に臨んでいます。その積み重ねがあるから、本来のコンディションとはかけ離れた状態だったアジア選手権でも、120%の力が出せたのだと思います」


つまり普段から練習強度が高く、今以上に上げる必要がない。そこに「継続するだけ」で3分33秒を狙える理由があった。客観的には練習強度が高い練習といえるが、荒井は別の言い方をした。「1500mは日本人が、世界と戦うところに到達できなかった種目。強度が高いことをやるというより、必要なことをやっているだけです」120%の準備をして行う練習は「それ相応の努力」はしているが、それが特別難しいことと考えたらストレスが大きくなる。“当たり前にレベルの高い練習を行う”のが、荒井と飯澤の考え方なのだ。
 


現役の間に荒井がコーチになった理由とは?

荒井自身も東京オリンピック™までは、世界と戦うために全力を尽くした。3分38秒を複数回切っているのは日本選手は3人だけで、4回の飯澤以外では2回の荒井と、やはり2回の河村一輝(27、トーエネック。日本記録保持者)しかいない。コーチだが荒井の選手としての力は日本トップレベルで、日本選手権も東海大在学時の15年に優勝した。


しかし「自分に素質や才能があると思ったことは一度たりともありません」と言い切る。「自分の素質を正しく理解して、正しく研かないと世界の舞台には立てない。そう言い聞かせてやって来ました」しかし東京五輪代表に届かず、「アスリートとしての限界はある程度見えている」と冷静に判断した。「1500mや長距離の知識を活用して、この年齢まで頑張ってきましたが、それを早く下の世代の選手たちに伝えたい」


それ以前から飯澤にはアドバイスをしてきたが、23年6月に正式にコーチになり、練習拠点を埼玉から2人の母校である東海大に移した。「飯澤は日本の1500mを変えられる選手です。あれだけの体があって、抜群のスパート力、スピードがある。高校時代は駅伝で活躍して、大学1年で5000mを13分53秒33で走るなど有酸素能力も持っています。大学1年で3分38秒94を出した時から、すごい選手になると感じていました」


荒井がコーチとなった23年は、飯澤はケガでほとんど試合に出られなかったが、24年は5~6月に3分35秒77、3分35秒62と日本記録に迫るタイムを連発。6月の日本選手権では飯澤、荒井でワンツーフィニッシュを果たした。そして2人で出場した今回のアジア選手権は、金メダルという形に取り組みが結実した。


2人一緒に代表として出場できるレースが、今後もあるとは限らない。飯澤が1人で世界と戦うときには、荒井は今回とは違う形でサポートをしているはずだ。そしてまた結果を出したときには、2人で取り組んできたことを自信にできた今回の金メダルが、よりいっそう輝きを増すだろう。


(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)


*写真は左から荒井七海選手、飯澤千翔選手
 


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