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【クイーンズ駅伝展望】東京世界陸上で印象的な走りを見せた山本有真、駅伝では積水化学の若手の中心としてチームの世代交代を牽引

スポーツ
2025-11-18 06:00

前回2位の積水化学若手の中心選手、山本有真(25)がV奪還に意欲を見せている。クイーンズ駅伝(第45回全日本実業団対抗女子駅伝)は11月23日、宮城県松島町文化観光交流館前をスタートし、弘進ゴムアスリートパーク仙台にフィニッシュする6区間42.195kmコースに、24チームが参加して行われる。
積水化学はこれまで新谷仁美(37)、佐藤早也伽(31)らが主要区間を走り、5年連続2位以内を続けて来た(21、23年に優勝)。今年は昨年まで2年連続2区(4.2km)区間賞の山本や、大物ルーキーの山﨑りさ(23)が、主要区間出場に意欲を見せている。東京2025世界陸上5000mで印象に残る走りをした山本は、どんなスタンスで駅伝に臨もうとしているのだろうか。


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田中希実のペースメーカーを買って出た理由とは?

9月の東京世界陸上5000m予選1組。スタートして間もなく、山本は先頭に立った。スローペースで進みラストスパートだけの勝負になったら、日本人選手には不利となる。昨年のパリ五輪でも山本は先頭を走っていることからも、想定内の展開といえた。1000m通過は2分57秒28、2000mを5分59秒90と、自己新となる14分台を狙えるペースで山本が走り、もう1人の日本選手の田中希実(26、New Balance)が山本の背後に付いていた。


2600mからは田中が先頭に出て、4700mまではトップを走り14分47秒14の5位で予選を通過。一方の山本は15分36秒29の18位で、予選を通過することができなかった。山本にとっては悔しい結果のはずだったが、レース後の山本に落ち込んでいる様子はなかった。実は田中のペースメーカー役を、山本の方から買って出ていたのだった。日本代表として出場したレースで、他の選手のために犠牲となって走る。普通ではあり得ないことだが、山本の状態や“気持ち”を考えると悪い策ではなかったようだ。


山本は4月の金栗記念5000mで15分12秒97と、大学4年時に出した自己記録を3年ぶりに更新。5月のゴールデングランプリ(GGP)3000mでも8分50秒64の自己新を出したが、どちらもペースメーカーの田中に先導してもらっていた。金栗記念の結果でアジア選手権代表入りを決め、アジア選手権でも3位と健闘。日本人トップの3位に入ったGGPとアジア選手権で、世界陸上代表入りに関わる世界ランキングのポイントを積み重ねた。


しかし7月の日本選手権で7位と敗れ、世界陸上代表は「絶望的」(山本)という状況になってしまった。9月に入って世界ランキングでの代表入りが決まったが、その間の2か月は世界陸上に向かうメンタルになれなかったという。その状況で大会前日発表のスタートリストで、田中と同じ組になった。


「今回のような形で走りたいと、すぐに思い浮かびました。野口(英盛)監督の許可を取ってから田中さんに話したのですが、すごく喜んでいただけて。自分は心も体も良い状態ではなく、決まったレースプランがなかったのですが、田中さんのおかげで自分の役割を見つけて、目的を持って走ることができました」


野口監督は「走り切って自己新を出すように」と指示を出したが、山本もそのつもりでいた。


「スローペースになったら予選は通過できませんし、自己新も出せません。私は自己ベストを出したかったので、自分のためでもあったんです。これまでは代表だから、という意識が強すぎたのですが、今回は田中さんと自分のために、と思ったら勇気をもって走ることができました」


残念ながら自己記録を出すことはできなかったが、山本は笑顔で世界陸上を終えることができた。国立競技場を埋めた大観衆からも、最後まで惜しみない声援が送られた。


個々の思いを共有することでチーム力が向上

世界陸上終了後の山本は、駅伝に向けて自身が何ができるかを考え始めた。


「2年目(昨年)までは自分が、駅伝で重要な役割を果たすことは考えていませんでしたが、今年は代表になった経験を生かして、自分がチームに勢いを付ける意識をもって(駅伝2週間前の)ここまでやってきました」


昨年は個の力を生かす駅伝を目指した積水化学だが、今年は若手とベテランの力を融合し、チームワークで戦おうとしている。


積水化学は千葉県柏市を拠点とする本隊と、東京都世田谷区を拠点とするTWOLAPS TCに分かれて練習を行っている。TWOLAPS TCでは主要区間を走ってきた新谷仁美(37)と楠莉奈(31)、東京世界陸上1500mに出場した木村友香(31)、今年の日本選手権1500m4位の道下美槻(24)らが活動する。個の育成を重視し、2つのグループで選手の成長に最適の環境を提供しているのだ。結果として日本代表を多く輩出し、東京世界陸上には山本、木村、マラソンの佐藤早也伽(31)と3人を送り込んだ。


今年の駅伝におけるテーマは、「今までの大黒柱で勝つのでなく、新しい力で勝つ」(野口監督)こと。そのために山本は、若手の気持ちをまとめたいと考えた。佐々木梨七(23)、山﨑りさ(23)たち柏組の若手を食事に誘って、駅伝について本音を聞いた。東京本社に出社後に世田谷組と合流し、選手それぞれが思うところを話し合った。


「私はこうしたい、こう思っている、というところを語り合いました。あの子はこういう目標で頑張っている、あの子も辛いけど頑張っている。そういう思いを共有して練習すると一体感が出て、プラスの力が出るんです。木村さんは複数の実業団チームを経験されていて、お話がすごく参考になりました」


コミュニケーション能力が高いことも山本の特徴で、長距離以外の種目の選手とも仲良くなって、その選手と一緒に戦うことを代表を目指すモチベーションにもしている。海外遠征では外国人選手だけでなく、現地の一般人と仲良くなることもあった。山本のコミュニケーション能力は今年の積水化学には、大きな力となっている。


「どの区間になっても役割を果たす」(山本)

山本自身、「今年の積水化学はチーム力が上がっている」と感じている。


「積水はまず個々が強いと自信を持って言えます。同じシーズンの世界陸上代表が3人もいますし、それに加えて今年は“チームで”という意識がすごくあるんです。ただ自分が走ればいい、だけでなく、周りの人が走れるように、という思いやりもチームの中に感じられます。そこが駅伝に生きてきてほしい」


世界陸上の山本は、「田中さんと自分のために走った」ことで力が発揮できた。同じことが駅伝でも起きる可能性がある。


佐藤が20年の日本選手権10000mで、新谷のペースメーカー役を引き受けたことがあった。2000mまでを新谷の希望するペースで引っ張り、新谷は30分20秒44の日本新を出し、佐藤も31分30秒19の自己新を出した。順位が重要視される日本選手権で、ペースメーカーを引き受ける例は世界陸上と同じで普通はあり得ない。しかし「佐藤は新谷から頼られて、嬉しそうでした」と野口監督は当時を振り返る。


東京世界陸上の山本も同じで、「尊敬するし大好きな先輩」である田中と、一緒に世界と戦うことが嬉しかった。選手はそういった気持ちになれたとき、プラスアルファの力が働く。もちろん前回、最終6区で逆転された悔しさも、選手全員が持ち続けてきた。


「去年の悔しさを晴らせるように、全員で今すごく良い練習ができているので、王座を奪還できるようにまとまって頑張っていきたい。駅伝は次の人のために、自分がどう走るべきかをタスキをもらったときにしっかり判断して、その役割を果たしていけば優勝できると思います。自分もどの区間になっても、その役割をしっかり果たせるように準備したいと思っています」


今年の山本は距離の長い1区(7.0km)、3区(10.6km)、5区(10.0km)への出場が予想される。山本は10kmのレースは、今年2月に1回走ったことがあるだけだ。トップ選手の参加が少ないレースで、前半を抑えて後半をペースアップして勝つことができた。だが今回は、最初からハイペースで入る展開になる可能性が高い。普通であれば不安がつきまとうケースだが、今の山本はどんな距離でも力を発揮できる。その自信を持ってクイーンズ駅伝に臨もうとしている。


(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)


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