
ニューイヤー駅伝2026inぐんま(第70回全日本実業団対抗駅伝。群馬県庁発着の7区100km)に東京2025世界陸上マラソンで活躍した近藤亮太(26、三菱重工)が出場する。近藤は2月の大阪マラソンで2時間05分39秒の日本歴代5位、初マラソン日本最高記録で日本人1位(全体2位)となって代表入り。東京世界陸上11位は、初マラソンで代表を決めた選手としては大健闘だった。だが意外なことに近藤は、ニューイヤー駅伝には入社後3年間出場していない。三菱重工の初優勝のためには、近藤が駅伝でも快走することが不可欠となる。
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マラソンの快走はリラックスした走りが要因
近藤がマラソンに2レース連続で快走できたのは、本来のリラックスした走りができたからだ。「大阪マラソンでは前を走る選手のお尻を見ることで、上半身が前傾できて軸がぶれなくなり、楽に走ることができました。それまではどう力を使うかを考えていましたが、力を抜けばいいとわかったんです」。
東京世界陸上では38kmまで先頭集団で走り、入賞も期待させる走りで沿道やテレビ観戦者を盛り上げた。「世界陸上でも最後まで自分の走りができました。38kmで先頭集団に離されましたが、ゴールまで走りは崩れなかった。今の実力は出せたと思います」と振り返る。
しかし駅伝やトラックではその走りができない。箱根駅伝は順大4年時に一度だけ出場。チームは2位だったが、近藤個人は10区で区間14位と振るわなかった。九州実業団駅伝は昨年まで2回出場して、区間3位と区間5位。快走と言える走りはなかった。マラソン以外では入社1年目の全日本実業団ハーフマラソンで、1時間00分32秒で日本人トップ(全体3位)と快走していた。2年目は10000mで自己記録を35秒更新した九州実業団記録会(28分16秒14)、3年目は大阪マラソンと「年に1回良い走りができていた」という。
だが年に一度の確率では、チームにとって重要な駅伝には起用できない。3年目の前回は10月に足底を故障した影響があったが、近藤の走りが不安定なことが、入社後3年間一度もニューイヤー駅伝に出場していない理由だった。もちろん、チーム内では期待される存在だった。入社1年目のニューイヤー駅伝は当時最長区間だった4区(22.4km)で、19年と20年に区間賞を獲得した井上大仁(32)の付き添いをした。3年目の前回は現最長区間の2区(21.9km)で、23年ブダペスト世界陸上マラソン11位の山下一貴(28)の付き添いを担当した。
「特に前回は、将来的には自分がここを走る意識で付き添いをやりました。色んなチームのエースがアップをする様子を見て、自分だったらどう戦っていくかを考えていました」。
今の近藤はマラソンを2本走り、リラックスした走りの再現性が高くなっている。近藤の特徴を生かすとしたら、スピードを求められる1区(12.3km)や3区(15.3km)よりも、距離の長い2区や、向かい風が予想される5区(15.9km)が候補となる。
世界陸上の経験を生かし「駅伝の近藤」を見せる
12月7日の甲佐10マイル(約16km)は49分49秒で73位、チーム内トップ(14位)の守屋和希(24)にも3分以上差をつけられてしまった。「最初の1~2kmを(1kmあたり)2分41~42秒と、外国人選手たちにつられて突っ込みすぎてしまい、6kmくらいから大きく後れ始めました」。速いスピードに力が入ってしまい、悪いときの近藤が顕著に出てしまった。
しかし大阪マラソン後は、以前よりもリラックスした走りができるようになっている。6月のNITTAIDAI Challenge Games5000mでは13分46秒59と、世界陸上に向けてマラソンを意識している中でも自己記録に約4秒と迫った。近藤にとってはハイペースだったが、リラックスした走りができたという。11月の九州実業団駅伝では1区(12.8km)で区間賞を獲得。ペース自体は速くなかったが、苦手だった“順位が求められる短い距離”で結果を残した。
ニューイヤー駅伝の区間は2区と決まったわけではないが、前回の2区は近藤が対応できるペースだった。5km通過は区間賞の池田耀平(27、花王)こそ13分42秒のスピードだったが、他の選手は14分弱である。風向きも4区までは、追い風が予想される。
「追い風なら多少速くなっても心配していません。がむしゃらに走ってのハイペースだと固くなってしまいますが、自分のリズムで入っていけば戦える自信はあります。世界陸上の経験を駅伝に当てはめて戦いたいですね。主要区間なら区間3位以内、それ以外の区間なら区間賞が目標です。マラソンでしか僕のことを見たことがない人がほとんどだと思いますが、“駅伝の近藤”を見せます」。
駅伝で培ったスピードや走りをマラソンにつなげる選手は多いが、近藤の場合はマラソンで学んだ走り方を駅伝につなげることになる。
マラソン代表経験者4人と成長中の若手で優勝を目指す三菱重工
三菱重工は言わずと知れたマラソンの強豪チーム。井上、山下、近藤が世界陸上の、井上と定方俊樹(33)がアジア大会のマラソンを走ってきた。井上が24年大会まで9年連続で最長区間を走ってきたが、前回は山下が任された。自身も14年アジア大会マラソン銀メダルの実績を持つ松村康平監督は、2区について次のように話している。
「近藤は全日本実業団ハーフの時の走りができれば、先頭の近くで走ることができます。28分20秒くらいで10kmを通過すれば大きく離されませんから、後半で順位を上げていくことができる。山下も近藤と同じで、前半からすごいスピードで走れるタイプではありません。区間19位でしたが前回も後半で順位を上げています」。
近藤と山下で2区と5区を分担する可能性が高そうだ。松村監督は「井上も2区候補」としているが、前半からハイペースで入ることができる特徴から、前回区間4位で走った3区が有力か。定方も鍵を握る。21年以降は1区、7区、6区、6区、5区を全て区間5位以内で走っている。競り合いにも強い選手なので、上位でタスキを受ければ定方でトップに浮上することができる。「年間を通してマラソン練習をしているので、ケガをしない耐えられる体ができています。駅伝で気持ちを盛り上げていくことができるのも、定方の強みです」(松村監督)。
今季は中間層のレベルも上がって来た。吉岡遼人(27)が九州実業団駅伝3区で区間賞、守屋も同駅伝6区区間賞、新人の小林大晟(23)は同駅伝7区区間2位でアンカー決戦を勝ちきった。守屋は前述のように、甲佐10マイルでも好タイムを出している。「山下と近藤がマラソンで結果を出してチームの中心に育ってくれましたが、駅伝で優勝するには吉岡たちが主要区間以外で力を発揮する必要があります。120%くらいの走りが欲しいですけど」。
4区のE.キプラガット(23)は23年大会2区(当時のインターナショナル区間)で、区間賞と6秒差の区間3位で走っている選手。「3区までをトップから10~20秒差」(松村監督)で走り、4区以降のどこかの区間でトップに立つ。三菱重工の選手は区間3~5位でも、先頭争いをしているチームがそれ以下の区間順位になるケースもある。近藤がマラソンのように快走したり、主要区間以外でも120%の走りをする選手が現れたりすれば、三菱重工に初優勝のチャンスが到来する。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
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