
中国が台湾周辺で大規模な軍事演習を実施。緊張が高まるなか、有事の際は、日本が「最前線に立つ」との発言がアメリカの国防長官から飛び出し、波紋を広げています。
「台湾を毒し、究極の破壊を招く」中国軍が恫喝動画を公開
2025年4月1日に中国軍が、ある動画を公開しました。台湾に巣食う寄生虫。よく見ると、顔は頼清徳総統です。中国軍は「台湾を毒し、究極の破壊を招く」などと批判。動画内では、火の海となる台湾を中国軍が取り囲みます。きっかけとなったのは、頼総統の3月の発言でした。
台湾 頼清徳 総統
「中国は台湾の『域外敵対勢力』だ」
台湾の総統として初めて中国を「敵対勢力」と呼んだのです。
そんな頼総統を、独立派の急先鋒として警戒する中国は、動画公開と同じ4月1日と2日、台湾周辺で大規模な軍事演習を行ったのです。台湾を射程に収める多連装ロケット砲とみられる実弾射撃を見せつけ、最新鋭の無人戦闘艇や無人機などの映像とともに、重要施設への精密攻撃の能力を誇示。
中国外務省 郭嘉昆 報道官
「中国側の合同演習は、台湾の独立勢力に対する警告と抑止である」
さらに、中国初の国産空母やステルス戦闘機も展開し、台湾周辺を海上封鎖する作戦をアピールしました。
もし実際に中国が台湾侵攻に踏み切る場合、懸念される事態について、日米の安全保障に詳しい専門家は、こう指摘します。
明海大学 小谷哲男 教授
「中国からすれば在日米軍、そして自衛隊が何よりも邪魔なんですね。(台湾を)統一する上で。そうであれば在日米軍が出動する前に、これを弾道ミサイルなどで叩いてしまう」
ヘグセス国防⻑官「いかなる有事も、日本は最前線に」 防衛大臣との会談で発言
そんな、万が一の事態をめぐって、3月30日、来日したアメリカのヘグセス国防⻑官から、こんな発言が飛び出しました。
アメリカ ピート・ヘグセス 国防⻑官
「いかなる有事においても、日本は最前線に立つことになる」
第2次トランプ政権の主要閣僚として初めて来日したのは、ピート・ヘグセス国防長官。まず降り立ったのは、大平洋戦争で、日米両国の激戦地となった硫⻩島でした。
石破総理や中谷元防衛大臣とともに、慰霊式に参加しました。
ピート・ヘグセス 国防⻑官
「ここで命を捧げた多くの人々に思いを致し、日米同盟への誓いを新たにしましょう」
その日米同盟の在り方をめぐっては、中谷防衛大臣との会談で、踏み込んだ発言が飛び出したのです。
ピート・ヘグセス 国防⻑官
「中国共産党の軍事的侵略を抑止する上で、日本は不可欠なパートナーです」
会談の冒頭から中国を名指しして、軍事的侵略の懸念を強調。さらに、その後の共同会見では...
ピート・ヘグセス 国防⻑官
「⻄太平洋でのいかなる有事においても、日本は最前線に立つことになります。平和を求めるならば戦争の準備が必要です。協力して戦闘力、殺傷力、即応力を高めていくことを期待しています」
台湾有事でも、日本の自衛隊が最前線に立つとも取れる発言。トランプ政権では、日米同盟の形も変わっていくのでしょうか。
「“在日米軍基地”や“自衛隊”の艦艇をミサイル攻撃する可能性」 実戦で想定されうるシナリオ
今回の演習について中国軍のニュースサイトでは、台湾のシルエットの上に独立の「独」の字が雷で打ち砕かれています。
中国軍の艦船などが台湾を取り囲み、空母「山東」も展開。東シナ海での実弾射撃訓練も行われました。小谷教授によれば、今回は、台湾侵攻を想定した第一段階で、物資の供給などを止める海上封鎖の訓練でした。
実戦で想定されうるシナリオとしては、海上封鎖の段階でアメリカ軍が介入すると、「中国軍が“在日米軍基地”や“自衛隊”の艦艇などを、ミサイル攻撃する可能性がある」といいます。
実際、アメリカのシンクタンク「CSIS」が2023年1月に発表した中国による台湾侵攻を想定した机上演習では、日本が参戦し、最大で戦闘機161機、艦艇26隻を失う激しい戦闘になるケースが予測されました。中国軍の攻撃によって「日本各地の米軍基地や飛行場などが甚大な被害を受ける」とされました。
3月29日、ワシントン・ポストが報じた暫定国家防衛戦略指針では、「中国による台湾制圧を阻止することが、唯一の備えるべきシナリオ」とされています。そんななか、ヘグセス国防長官は「西太平洋で直面する、いかなる有事においても、日本は最前線に立つ」と発言したのです。
日米の変わりつつある「矛」と「盾」の役割
ただ、日米安保条約のもとでは、もともと、日本が他国から武力攻撃を受けた場合でも、いわゆる最前線で相手国への攻撃を担う「矛」はアメリカで、日本は専守防衛に徹する「盾」、という役割分担がありました。しかし近年、この「矛」と「盾」の役割は徐々に変わり、日本も「矛」の役割を担わされる枠組みができつつあります。
例えば、戦闘機などを前線へと運ぶことができる空母は「矛」の象徴です。日本は、憲法9条の趣旨に反するとの考え方から長年保有してきませんでした。近年では、護衛艦を改修して、最新鋭のステルス戦闘機「F-35B」の離着艦を可能にする実質的な「空母化」を進めています。
同様に、憲法9条との関係でこれまで保有してこなかった他国の領域を攻撃できる射程の長いミサイルについても、2022年にいわゆる「反撃能力」などとして保有する政策にかじを切りました。
自衛隊の12式地対艦ミサイルの射程を伸ばす開発を行っているほか、巡航ミサイル「トマホーク」や、戦闘機などから発射できる射程の長いミサイル「JASSM-ER」などをアメリカから買うことにもなっています。
そうしたなかで、防衛費の倍増も打ち出されました。
「盾」に徹するかつての姿から、「矛」の役割をも担う方向に動いてきた日本ですが、それでもトランプ大統領は、「アメリカは日本を守らなければならないのに、日本はアメリカを守る必要がない」などと、安保条約への不満を繰り返しています。しかし、実際には日本側の負担は小さくありません。
日本は世界で最も多くの基地や米軍関係者を受け入れ、「思いやり予算」ともよばれる駐留経費にも毎年2000億円以上を支出しているのですが、トランプ政権によって、今後さらなる要求を突きつけられるのでしょうか。
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