アメリカの電撃的な軍事作戦から2日。拘束されたベネズエラのマドゥロ大統領が裁判所に出廷しました。オレンジの囚人服に青いシャツを羽織り法廷に立ったマドゥロ氏。「誘拐された」「私は無実」などと訴えました。
マドゥロ大統領 3分前まで気づかず
5日、ベネズエラ国内ではアメリカの軍事作戦によって犠牲になったとされる女性の葬儀が営まれました。
電撃的な攻撃により、拘束されたベネズエラのマドゥロ大統領。当時の状況が、また少し明らかになりました。
アメリカメディアによると、現地に投入されたのは約200人で、陸軍の精鋭部隊に加えFBIも含まれていました。
これだけ大規模な攻撃にもかかわらず、アメリカ側の要員が到着する3分前まで、マドゥロ大統領は気が付かなかったと言います。
アメリカ ヘグセス国防長官
「マドゥロ大統領は、暗視ゴーグルを装着した優秀なアメリカ人の姿を目撃したはずだ」
麻薬密輸をめぐり、トランプ政権がベネズエラへの圧力を強める中、マドゥロ大統領は「狂った戦争はいらない」などとたびたびダンスを披露。
ニューヨークタイムズは2人の関係者の話として、その行動が、トランプ陣営の一部では「嘲笑されたと受け止められたのでは?」と報じています。
無罪主張も 傍聴人から「報いを受けるだろう」
マドゥロ大統領は5日ニューヨークの連邦地裁に出廷。麻薬組織と共謀してコカインを密輸したなど、4つの罪に問われています。
廷内では通訳を聞くためヘッドホンをし、本人確認をされた際には…
マドゥロ大統領
「ベネズエラの大統領だ」
「自宅で誘拐された」と説明し、起訴内容について問われると「私は無実で有罪ではない」と無罪を主張。
また、現地メディアによると、法廷を去る際に傍聴人から「報いを受けるだろう」と言われると、「私は誘拐された大統領だ、戦争捕虜だ」と答えたということです。
裁判所の外では、マドゥロ大統領の拘束をめぐり、立場の違う人たちが言い争いになっていました。
拘束に賛成
「彼が刑務所に留まることだけが、私の願いです」
拘束に反対
「ベネズエラ国民は指導者に不満だろうが、アメリカのやりかたは完全に偽善だ」
今回の出廷について、トランプ大統領は「歴史の特別な瞬間だ。西半球にとって素晴らしいことだ(5日 NBCテレビ)」としています。
また、「アメリカが運営する」としているベネズエラの統治について、バンス副大統領やルビオ国務長官ら4人が関わるとし、最終的な責任者は「私だ」と話しました。
次回の審理は、3月17日に行われる予定です。
国連安保理で非難の応酬 中国・ロシア「内政干渉」と批判
国際秩序が揺らぐ中、5日に行われた国連安全保障理事会の緊急会合は、非難の応酬となりました。
アメリカ ウォルツ国連大使
「アメリカは麻薬から国民を守るために揺るぐことなく行動し、ベネズエラの偉大な人々のために平和・自由・正義を追求する」
アメリカ側はマドゥロ氏について、「麻薬犯罪の容疑者で、大統領としての正当性がない」と主張。「戦争をしかけたのではなく、起訴状に基づく法執行だ」とアピールしました。
これに、ベネズエラ側は…
ベネズエラ モンカダ国連大使
「ベネズエラは、アメリカによる法的正当性のない不法な攻撃の対象となった」
「ベネズエラだけでなく、世界中の国々にとって危険な前例となる」と訴えました。
また、中国やロシアも「内政干渉だ」として、アメリカを厳しく批判しました。
各国から“国際法違反”を指摘する声が上がる中、日本政府はアメリカの行動に対する評価を避けました。
木原稔 官房長官
「我が国は直接の当事者ではなく、詳細な事実関係を十分把握する立場にはないことから、法的評価を含め、政府としてコメントすることは差し控えさせていただきます」
副大統領が大統領代行 難しい舵取り続く
ベネズエラの首都・カラカスでは、マドゥロ氏の返還を求め、市民が列をなして声をあげました。
マドゥロ氏の支持者
「私は怒っている。マドゥロ大統領と夫人を返せ」
ただ一方で、“独裁者”と呼ばれてきたマドゥロ氏の拘束を、亡命先で喜ぶベネズエラ人が多く存在しているのも事実です。
こうした中、不在のトップに代わって副大統領だったロドリゲス氏が正式に大統領代行に就任しました。
ベネズエラ ロドリゲス大統領代行
「2人の英雄、マドゥロ大統領と夫人が誘拐され、アメリカに人質として拘束されていることに深い悲しみを抱いてこの場に来ました」
「不当な軍事的侵略」だとアメリカを改めて非難した一方で、緊張緩和を目指すような姿勢も示していて、難しい舵取りが続きそうです。
国際社会の“法の支配”とトランプ氏の主張が対立
小川彩佳キャスター:
国際法違反ともいえる事態にもかかわらず、木原官房長官は「直接の当事者ではない」「コメントを控える」としています。日本はアメリカを批判できないのでしょうか。
TBSスペシャルコメンテーター 星浩氏:
今回の話を簡略化すると、“法の支配”という国際社会のルールと、アメリカのトランプ大統領の主張する論理である“力と利権”が対立しているということです。
元々、オバマ大統領の時代など、アメリカは「国連憲章や国際法といった法の支配が大事だ」と主張していました。
一方で、ロシアによるウクライナ侵攻があり、中国は台湾に軍事的圧力を強めていることなどがあって、世界中が分断されているといった状況です。
EUや日本は「“法の支配”が大事で、国連憲章を守りましょう」と唱えてきましたが、今回トランプ氏は、“力と利権”の論理でベネズエラに侵攻したという構図です。
日本政府が“批判しない”背景は? 日中関係絡む「複雑な事情」
小川キャスター:
日本はこのタイミングで改めて“法の支配”を強く主張していかなければ、ロシアなどの行動を批判できなくなってしまうのではないでしょうか。
星浩氏:
日本はずっと一貫して“法の支配”を強く主張してきましたが、今回は「複雑な事情」があります。
高市総理の台湾有事発言があり、日中関係が非常に冷却化している中、4月にはトランプ大統領が訪中予定で、アメリカと中国はディールをすることが考えられます。
高市総理としては、訪中前になんとしてでもトランプ大統領と会って、「日本の頭越しの米中関係をやめてくれ」と伝えようとしていました。
今回のベネズエラ問題は、その最中に起きたため、高市総理がトランプ大統領に苦言を呈すと、「もう来なくていい」となる可能性があり、はっきりとした物言いができないという事情です。
藤森祥平キャスター:
2026年3月にアメリカ訪問で調整中とのことですが、少なくともそこまでは曖昧な戦略を取るしかないのでしょうか。
星浩氏:
1月下旬から始まる国会では、高市総理に対して「今回のベネズエラ問題は国連憲章違反なのか、違反ではないのか、はっきり言いなさい」と追及されるはずで、答えないわけにはいかないと思います。
最近、ヨーロッパは“力と利権”の論理の国々への批判を強めておりますので、高市総理もヨーロッパの方に少しずつ歩調を合わせていくのではないでしょうか。
藤森キャスター:
日本単独で批判というより、G7などの周りの国々の出方を見ることになるわけですね。
トランプ氏、ベネズエラを「運営する」 どうなる?
小川キャスター:
アメリカが“力と利権”の論理にシフトしているという中で今後はどうなっていくのでしょうか。
トランプ大統領は4日、「We’re going to run the country.(ベネズエラを“運営”する)」と発言しています。
また、ウォール・ストリート・ジャーナルは5日、「攻撃の1か月前に、複数の石油企業幹部に対して『準備を整えろ』とメッセージを送っていた」とも報じています。
星浩氏:
“運営する”とは普段あまり聞かない言葉ですよね。
アメリカが、ワシントンからベネズエラを遠隔操作するわけにはいかないでしょうから、地上軍や石油の技術者を投入することが考えられますが、そうなると、そこが再びテロの攻撃対象になり、犠牲者が出る可能性があります。泥沼化してしまうわけです。
同じようにイラクにアメリカが介入を始めたことで、泥沼化したというアメリカ人にとっては苦い思い出があります。
トランプ大統領は“運営する”と言っていますが、現実にはそう簡単ではないと思います。
藤森キャスター:
具体的な“運営”の仕方も明らかになっていない中で、アメリカだけではなくて“力と利権”の論理による世界の動きが、これ以上広がることは避けなければならないですね。
星浩氏:
日本は特に“法の支配”の論理を唱え続けてきました。日本がどのような主張をするのかは世界中が見ているので、毅然と、主張を明確にしていく必要があると思います。
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<プロフィール>
星浩さん
TBSスペシャルコメンテーター
政治記者歴30年 福島県出身
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